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ジョン・シナのFUは説得力が足りない!?【WWE21世紀の必殺技#4】

 プロレス必殺技で一番大事なのは説得力。ファンに「ああ、これを食ったらスリーカウントを取られるのは仕方ないな」と思わせることも大切な要素となってくる。

 その意味では、今のマット界で「最も説得力のない技」がジョン・シナのFU(エフユー)である。

ジョーダンをFUで叩きつけるシナ

 相手をファイヤーマンズ・キャリー(アマレスでの飛行機投げ=柔道の肩車)の体勢に抱え上げるところまではエアプレーン・スピン(飛行機投げ)と同じ。

 1970年代にエアプレーン・スピンの名手として鳴らしたアニマル浜口氏は「お客さんの欲求がエスカレートしてきたので、回したあとに後方に叩きつける(バックフリップ)動作を加えざるを得なかったんです」と述懐する。

 80年代にはこの二段攻撃にバージョンアップしたわけだが、そうしなければファンへの「説得力が薄れてきたからだ」ともいえる。

エアプレーン・スピンの名手だったアニマル浜口(1971年11月、千葉・銚子)

 シナのFUは、持ち上げて落とすだけ。せめてデスバレーボムのように、ジャンプを加えながら首筋を落下させてくれれば、格好もつこうというところなのに、どうしても「変型ボディースラム」の域を出ていない。

 昨年JBLと抗争を続けていたころにデスバレー風のアレンジを続けていたが、いつの間にかやめてしまった。

 男性ファンから強烈なブーイングを浴びるようになってきた昨年秋からは、FUそのものの使用頻度を落とし、新たにマスターしたSTFへシフトチェンジしている。

 これまたシナのイメージにはいまひとつフィットせず、ブーイングを鎮圧させるまでには至っていない。このへんの心理は、多分アメリカのファンも日本のファンも一緒で「ちょっと受けが悪いからといって(FUを)捨てるな! こだわりを持て!」というメッセージなのだろう。

 冒頭に「必殺技で一番大切なものは説得力」と書いたが、それは観客に対しての話であって、レスラーに対して求めるものは「こだわり」である。STFが好例である。

 蝶野正洋が89年秋に帰国し、ルー・テーズ直伝のSTFをフィニッシュに使い始めた時の罵声といったらなかった。「あれで決まるの」「グラウンドだから見えねえよ」「地味な技だなあ」などなど。

 しかし、蝶野は使い続けた。あらゆる非難に耐えて、STFを立派な必殺技として認知させていった。そのこだわりに対して、日本のファンが敬意を表したのだ。説得力とはそういうものかもしれない。

 200キロ以上あるビッグショーを叩きつけたこともあるのだから、このままFUを禁じ手にするのは惜しい。シナのこだわりに注目し、改良型FUの誕生を待ちたい。

流 智美(ながれ・ともみ) 1957年11月16日生まれ、茨城県水戸市出身。プロレス評論家。『ルー・テーズ自伝』、『門外不出・力道山』、『猪木戦記』、『馬場戦記』、『日本プロレス歴代王者名鑑』など、昭和プロレス関連の著書多数。

※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。


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