ジョン・シナのFUは説得力が足りない!?【WWE21世紀の必殺技#4】
プロレス必殺技で一番大事なのは説得力。ファンに「ああ、これを食ったらスリーカウントを取られるのは仕方ないな」と思わせることも大切な要素となってくる。
その意味では、今のマット界で「最も説得力のない技」がジョン・シナのFU(エフユー)である。
相手をファイヤーマンズ・キャリー(アマレスでの飛行機投げ=柔道の肩車)の体勢に抱え上げるところまではエアプレーン・スピン(飛行機投げ)と同じ。
1970年代にエアプレーン・スピンの名手として鳴らしたアニマル浜口氏は「お客さんの欲求がエスカレートしてきたので、回したあとに後方に叩きつける(バックフリップ)動作を加えざるを得なかったんです」と述懐する。
80年代にはこの二段攻撃にバージョンアップしたわけだが、そうしなければファンへの「説得力が薄れてきたからだ」ともいえる。
シナのFUは、持ち上げて落とすだけ。せめてデスバレーボムのように、ジャンプを加えながら首筋を落下させてくれれば、格好もつこうというところなのに、どうしても「変型ボディースラム」の域を出ていない。
昨年JBLと抗争を続けていたころにデスバレー風のアレンジを続けていたが、いつの間にかやめてしまった。
男性ファンから強烈なブーイングを浴びるようになってきた昨年秋からは、FUそのものの使用頻度を落とし、新たにマスターしたSTFへシフトチェンジしている。
これまたシナのイメージにはいまひとつフィットせず、ブーイングを鎮圧させるまでには至っていない。このへんの心理は、多分アメリカのファンも日本のファンも一緒で「ちょっと受けが悪いからといって(FUを)捨てるな! こだわりを持て!」というメッセージなのだろう。
冒頭に「必殺技で一番大切なものは説得力」と書いたが、それは観客に対しての話であって、レスラーに対して求めるものは「こだわり」である。STFが好例である。
蝶野正洋が89年秋に帰国し、ルー・テーズ直伝のSTFをフィニッシュに使い始めた時の罵声といったらなかった。「あれで決まるの」「グラウンドだから見えねえよ」「地味な技だなあ」などなど。
しかし、蝶野は使い続けた。あらゆる非難に耐えて、STFを立派な必殺技として認知させていった。そのこだわりに対して、日本のファンが敬意を表したのだ。説得力とはそういうものかもしれない。
200キロ以上あるビッグショーを叩きつけたこともあるのだから、このままFUを禁じ手にするのは惜しい。シナのこだわりに注目し、改良型FUの誕生を待ちたい。
※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。