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96年、巨人戦で面白いようにぶつけまくった盛田幸妃【駒田徳広 連載#17】

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王さんの一喝で拳を下ろした星野さん 87年の乱闘は僕らが止めるべきだった

 巨人で経験した乱闘で思い出すのは、やはり中日監督時代の星野さんとの絡みだろう。

 ボクが今でも恐ろしくなるのが1990年5月24日、ナゴヤ球場で起きた乱闘だ。発端は槙原の顔面近くへの投球をめぐって、打撃コーチの松原さんが「あそこを狙うのは当たり前だ!」とヤジを飛ばしたこと。これに激怒した星野さんがベンチを蹴ってグラウンドに飛び出すと、止めに入った水野に強烈な平手打ちを食らわせた。あっという間に両軍総出の大乱闘だ。

水野(中央)に平手打ちした星野監督(90年5月、ナゴヤ)

 異様なムードの中、監督の藤田さんが「申し訳ない」と頭を下げてようやく事態は収まったのだが、あの場面を思い出すたび、ボクは背筋が寒くなる。「もし、星野さんに殴られていたのがオレだったら…」。すぐにカッとなってしまう性格のボクだから、あの星野さんに対しても“無礼”なことをしてしまったかもしれない。

クロマティの右ストレートが宮下のアゴにクリーンヒットした瞬間、藤崎台球場が〝リング〟に

 ただ、87年の乱闘の時だけは、誰かが星野さんに向かっていかなければならなかった。あれは6月11日の熊本・藤崎台球場。宮下から死球を受けたクロマティが激高し、マウンドに詰め寄って帽子を取っての謝罪を要求した。だが、その要求を無視され完全にブチ切れ。クロマティは宮下の顔面に右ストレートをぶち込んだ。

 すぐさま両軍入り乱れての大騒ぎ。この乱闘では星野さんと王さんという監督同士が一触即発となってしまった。王さんの胸元には星野さんのギュッと握りしめたコブシが突きつけられており、まるで胸ぐらをつかまれているかのような構図に見えたのだ。


 後の報道で星野さんの握りコブシは王さんを挑発したものではなく「グーで殴るのはダメだろう!」という意味だったと知った。だが、当時のボクたちは「王さんが殴られる!」と思ったものだ。

 だが、星野さんの迫力の前にビビッて足がすくんでしまい、ただ見守るしかできなかった。あの場面こそボクたちが体を張ってでも、王さんを守らなきゃいけない場面だった。

 そして…。騒ぎを収めたのは王さん自身だ。
「星野! 我々がここで始めてしまったら、どうなるんだ!」
 あの騒ぎの中で、星野さんを怒鳴りつけた王さんのセリフはいまだに鮮明に覚えている。

王監督と星野監督が一触即発に(87年6月、藤崎台球場)

 王さんもまた、本気で怒っていた。だから、あのセリフは自分自身に言い聞かせるための「一喝」でもあったはずだ。王さんの怖さ、厳しさはボクたちが一番よく知っている。もしあの時、王さんの自制心が切れてしまっていたとしたら…。あの乱闘こそ、もっと大変なことになっていたかもしれない。 

96年、巨人戦でぶつけまくった盛田 古巣に謝るのはボクの役目だった

 ボクの野球人生は何かとトラブルが多かったけれど、実は退場処分を受けた経験は一度もない。意外に思われるかもしれないが…。

 普段から「怒ると何をするか分からない」というイメージを持たれていたみたいだから、乱闘になると「オマエはじっとしとけ!」と審判の人に真っ先に抑えつけられたこともあった。でも、ボクだって暴れるのが好きなわけじゃないし、むしろ乱闘では止める側に回ることのほうが多かったように思う。

横浜時代の盛田(97年、神宮)

 横浜に移籍した後は「すいません、わざとじゃないんです」と、謝ってばかりだった。以前に故意死球について触れたことがあったけど、ボクの知る限りでは横浜のベンチが故意死球の指示を出したことは一度もなかった。ただ、盛田幸妃(※94~97年の登録名は盛田幸希)があまりにもぶつけるもんだから、さすがに相手も「わざとだろ!」「いい加減にしろ!」となってしまう。特に巨人戦ではホント、面白いようにぶつけてくれた。

 だから試合後や翌日の試合前など、巨人のロッカーに頭を下げにいくのは、巨人出身のボクの役目。「盛田はコントロールが悪いだけで、わざと狙ってるわけじゃないんですよ。ホントです」と、とにかくペコペコしていた。だけど、そんなボクが巨人相手に本気でブチ切れた乱闘が一度だけあった。

 あれは1996年7月13日の横浜スタジアム。先発はやっぱり盛田で、この試合でも景気よくぶつけていた。その後、中継ぎの五十嵐が吉原の頭にぶつけてもみあいとなった際、監督の大矢さんが長嶋さんに「すみませんでした」と頭を下げたのだが、そこで長嶋さんの背後から巨人のあるコーチが「なんだコラ、大矢!」などと言い放ったのだ。

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