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リック・フレアーの足4の字固め 観客に表情を見せずとも必殺技として受け継がれる本当の理由【WWE21世紀の必殺技#6】

 WWEのリングで今でも神通力を誇る、リック・フレアーの足4の字固めには恒久不変の真実が存在する。だからこそ、必殺技として30年も40年も通用しているに違いない。そこに改めて着目してみたい。

 野性児と呼ばれた名レスラー、バディ・ロジャースによって1940年代に発明された4の字固めは、1962年に素顔(ディック・ベイヤー)から変身したザ・デストロイヤーによって一気に流行した。

 その後ジャック・ブリスコ、ジョニー・パワーズ、グレート草津、ニック・ボックウィンクル、エディ・グラハム、武藤敬司らの名手によって連綿と受け継がれてきたこの技を、2月25日で57歳(※紙面掲載当時)になった老雄フレアーが切り札として通用させているという厳然たる事実。

トリプルH(左)を足4の字固めで追い詰めるフレアー

 フレアーの偉大なところは、両腕を大きく伸ばしてセカンドロープを握りながら(しかもレフェリーがチェックできない角度で)締めてギブアップさせたり、自らが腹ばいになって、ロープをかみながらホラー映画に出てきそうな表情で仕掛けたり…。

 一つの技でさまざまなバリエーションを生み出すのだから大したもの。その昔「4の字固めは裏返しにされると自分が痛い」というのが定説になっていたが、そんなことはお構いなし! フレアーの「4の字バリエーション」は、まだまだネタが続きそうで、飽きを感じさせない。

 NWA世界王者として何度も全日プロに来ていたころのフレアーにはなかった濃(こく)、とでも言おうか、4の字固めという必殺技とフレアーが一体化してしまっている感じもする。そこが4の字の深いところだ。

 誤解を恐れずに言うと、4の字固めは「どんなに老いても、一応の形は作れる技」だ。デストロイヤーが50をとうに過ぎるまでメーンを張れた理由もそこにある。

 従ってアンチ・プロレス派が口を揃えてプロレスを揶揄する時に引用される技なのだが、彼らは1963年に力道山の右スネを紫色に腫れあがらせた、デストロイヤーの4の字を見ていない。

力道山(左)とデストロイヤーの足4の字固めの攻防(1963年5月、東京体育館)

 レイ・スチーブンスのニードロップで左スネを骨折した後、両ヒザに長くて太いサポーターを巻きながら、苦痛の表情で4の字をやっていたころのデストロイヤーを見ていない。

 ヨボヨボになったデストロイヤーの4の字だけを目にして、訳知りな顔をしていたやからに「今のフレアーを見ろ。フレアーの4の字を見てみろ!」と言ってやりたい。これは理屈ではない。プロレスというジャンルは、長く観戦していないと真実が見えてこないといわれるが、4の字固めはその典型例だ。

「型だけが残る」プロレス必殺技を見届ける根気がない人は、遅かれ早かれプロレスを卒業してしまう。仕掛けているほうと、やられているほうと両方が天井を見上げるポジション。つまり観客に表情を見せない技である4の字固めが、40年以上も必殺技としてサバイバルしている点も、この技に奥の深さを感じる一因だ。

流 智美(ながれ・ともみ) 1957年11月16日生まれ、茨城県水戸市出身。プロレス評論家。『ルー・テーズ自伝』、『門外不出・力道山』、『猪木戦記』、『馬場戦記』、『日本プロレス歴代王者名鑑』など、昭和プロレス関連の著書多数。

※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。


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