見出し画像

トリプルHの本当の必殺技はぺディグリーではなく、そこに至るまでのプロセス作りの巧みさ【WWE21世紀の必殺技#5】

「pedigree(ぺディグリー)」という単語を英和辞典で引くと「家系、系図、血統」とある。

 実生活においてステファニー・マクマホーンの夫であるトリプルHが、ゆくゆくは(ビンス・マクマホーンの長男であるシェーンの)片腕として、WWEを支配する日が来るだろうから、ぺディグリーはそれを暗示するネーミングだろう…という説もあるが、実はステファニーと結婚する前から切り札として使っていた必殺技である。

 WWE入りした95年4月、それまで使っていた「ジャン・ポール・レベック」というフランス風のリングネームを捨て、イギリス王侯貴族の末裔「ハンター・ハースト・ヘルムスリー」と改名。あまりに長いということでトリプルH(HHH)と略称して定着してしまったのだが、いずれにせよぺディグリーの命名は「英国貴族の血を引く技なのだ!」というところに由来している。

フレアーをペディグリーで叩きつけるトリプルH

 この技は、日本のオールドファンにとって非常に懐かしいルーツを持つ。昭和40年代から50年代に何度も来日した“イタリアの餓狼”マリオ・ミラノが、フィニッシュとしていた必殺技なのだ(当時のマスコミは「ジャンピング・パイルドライバー」と呼称)。

 トリプルHのは相手の両腕をリバース・フルネルソンに決め、より受け身を取れないように改良を加えているが、相手が顔面から叩きつけられる危険度100%の大技として、元祖ミラノの功績を血統に受け継いでいるといえそう。

 ミラノは71歳の今もオーストラリア・メルボルンで健在。2年前にレトロ企画のインタビューで会ったことがあるが、トリプルHのぺディグリーに話を向けたら「お客さんには『あっ、相手の鼻が折れた!』と思わせるのがコツだが、実際には自分の両ヒザを先に着地させていたんだ。シッカリとヒザで締めていれば、衝撃だけで十分なダメージがあったからね。トリプルHのは、マトモに顔面から突っ込ませている感じで、怖いね」と語ってくれた。

ペディグリーの元祖ミラノ(左)と筆者

 レジェンドと呼ばれる過去の大物は異口同音に「相手をケガさせるようなムーブはフィニッシュとして失格」と言う。お客さんに対して説得力を持ち、しかも相手からピンフォールを奪える破壊力を持ち、さらにケガをさせない“寸止め”の技量を持つ…プロレス必殺技の奥義がそこにあることを、ミラノの話は再認識させてくれた。

 トリプルHは、決してぺディグリーを乱発しない。ウエスタンラリアートの元祖であるスタン・ハンセンがそうであったように、最後の最後、ギリギリのタイミングまで出さない。観客の興奮をピークにまでコントロールし、そこでぺディグリーを爆発させるのだが、トリプルHの本当の必殺技はぺディグリーなのではなく、そこに至るまでのプロセス作りの巧みさ…ではないかと思わずにはいられない。

流 智美(ながれ・ともみ) 1957年11月16日生まれ、茨城県水戸市出身。プロレス評論家。『ルー・テーズ自伝』、『門外不出・力道山』、『猪木戦記』、『馬場戦記』、『日本プロレス歴代王者名鑑』など、昭和プロレス関連の著書多数。

※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。


カッパと記念写真を撮りませんか?1面風フォトフレームもあるよ