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無情のジャッジと白球のいたずら〝伝説の延長15回裏〟は終わらず、史上初の引き分け再試合!【太田幸司連載#7】

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サヨナラ勝ちを確信した次の瞬間…!!敵ながらあっぱれのファインプレーが飛び出した

「ストライク!」。郷司球審の右手が高々と上がった。押し出し四球のサヨナラ勝ちだと思って勢いよくベンチから立ち上がったボクは「そんな…。うそだろ!」と絶句するしかなかった。

 昭和44年(1969年)8月18日。三沢高VS松山商の夏の甲子園大会決勝戦、延長15回裏一死満塁。炎天下、0―0の緊迫した試合を投げ続けていた松山商のエース・井上は明らかに疲労困憊で、カウント1―3から投じた5球目は力なくミットに向かっていた。「低い!」。打者の立花もベンチのボクたちもそう確信したが、次の瞬間、思いがけないことが起きる。捕手の大森が左手を数十センチも前に突き出し、ミットをグイッと持ち上げて捕球したのだ

<だめだ。ボールだ。このままサヨナラ四球になるんだったら、もうイチかバチかしかない。立花は押し出しを狙って絶対に振ってこない>

 ボクの勘だが、大森は瞬時にそう考えたに違いない。仮に立花が打ちにいった場合はバットがミットに当たって打撃妨害によるサヨナラ、ミットを前方に突き出さなければ押し出しでサヨナラ…。ガケっ縁に立たされた大森の、敵ながらあっぱれのファインプレーだった。

 しかし、気落ちしてはいられない。立花は2―3からの6球目、真ん中低めの直球を強振する。井上の足元をめがけて飛んだ打球は捕球できないほど痛烈だったが、中前には抜けず、懸命に差し出されたグラブに当たった。方向を変えた先は、よりによって前進守備を敷く遊撃手の正面。松山商の名手・樋野は勢いを失った打球を懸命に拾い上げ、必死の形相でバックホームした。

「アウト!」。再びツキに見放された三沢高は、なおも二死満塁の場面で1番・八重沢もカウント2―3まで粘ったが、最後は中飛に倒れた。一死満塁カウント0―3から痛恨のゼロ。無情のジャッジと白球のいたずら、そして名門校の背番号1を背負う井上の驚異的な粘り腰…。伝説の延長15回裏は手に汗握るプレーの連続だった。

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泥だらけのユニホームで投げ続ける太田氏。延長戦は果てしなく続いた

 死闘のドラマはまだ終わらない。三沢高は続く16回裏にも決定的なチャンスをつかむ。先頭の小比類巻が四球を選び、3番のボクが送りバント。続く4番・桃井の遊撃への打球を樋野がトンネルし、一死一、三塁となってまたまたサヨナラのチャンスが到来した。松山商はここでも満塁策。そして6番・高田のカウントは2―2となり、田辺正夫監督は意表を突いて3バントスクイズのサインを送った

 ところが…。井上が投じた球は、なんとなんと外角へ大きく外すウエストボール。松山商バッテリーは三沢高の作戦を完全に読んでいたのだ。高田は三振、小比類巻は三本間で憤死して悪夢の併殺。ボクたちは再び顔面蒼白となった。

延長戦が18回で打ち切られるなんて知らなかったが、「あと2イニングだ。死に物狂いで投げるぞ」

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