なぜ毒霧を浴びてご懐卵するのか?疑問も多いがハッスルに深追いは禁物だ【ハッスル連載#3】
小川がモンスター軍に寝返りハッスル軍は劣勢に…高田総統の高笑いが響き渡った
2007年に入ってわずかな〝休養期間〟に入ったハッスルだが、2月1日には重大な局面を迎える。髙田総統が100億モンスタードル(推定・日本円にして約130億円)ハッスルを買収。ハッスル事務局を完全に支配下に収め、大幅なリストラ断行を発表したのだ。
小川直也はキャプテンの座から追いやられ、リストラの一番手に挙げられ「冗談じゃねえよ!」と徹底抗戦を宣言していたが、髙田体制下初の3月15日後楽園大会でまさかの展開が訪れる。小川はモンスター軍に寝返って、何と髙田総統とガッチリ握手を交わし、ハッスル軍を裏切ってしまう。新たに「セレブ小川」を名乗った元キャプテンの電撃移籍には、推定50億モンスタードル(推定・日本円にして以下略)が動いたとされる。
ハッスルの戦いの主軸となっていた「髙田モンスター軍対小川ハッスル軍」の構図はこれで完全に崩壊した。そして迎えた「ハッスル21」(3月18日、名古屋」では髙田総統の嫌がらせにより、小川がハッスル軍の参謀格・TAJIRIと対戦、ハッスル星で会得した新兵器DTAで元WWEのスーパースターをKOした。さらに姿を消していたインリン様が約1年3か月ぶりにご降臨。半失神のTAJIRIに見事な乳房から絞り出した「イン乳」を飲ませると、完全にペット化させて洗脳しまった。小川とインリン様を新たに陣営に加えたモンスター軍とハッスル軍の力の均衡は、何だかよく分からないうちに完全に崩れてしまった。
天龍もすでにモンスター軍に寝返っており、残ったハッスル軍の主力はHG(RGは戦力外)、大谷晋二郎、KUSHIDA、バンザイ・チエのみ。坂田亘が合流するも、力量の差は明らかだった。そこにタイガー・ジェット・シンやアブドーラ・ザ・ブッチャーら強豪外国人を当てるのだから勝負にならない。大会は髙田総統が高笑いして終わるという、ファンにとってバッドエンドが続いた。
ピンチはチャンス!クロマティがまさかのプロレスデビュー
4月には「ハッスルエンターテインメント株式会社」(山口日昇社長)が立ち上がり、大みそか大会の開催と地上波放送獲得の明るいニュースが飛び込んだのは救いだった。しかし6月1日、ハッスル史上最大ともいえる衝撃が訪れた。旗揚げから3年半、ハッスルを引っ張ってきた小川が、フリーエージェント宣言と同時にハッスルでの〝活動停止〟を表明。師匠のアントニオ猪木率いるIGF旗揚げ戦(6月29日両国)参戦が確実となったのだ。
小川は「別に辞めるわけではないし、一時休んでリニューアルしたい。今はハッスルを休んで旅に出るとしかいえない」と語ったものの、かつての〝キャプテン〟でハッスルポーズを世に広めた男の離脱は、ハッスルにとって旗揚げ以来最大のピンチとなった。
それでも残された選手とスタッフは、ピンチをチャンスに転じるべく上半期最大のイベント「ハッスル・エイド」(6月27日さいたまSA)へ向けて総力を結集する。
プロ野球・巨人軍最強の助っ人、ウォーレン・クロマティ氏が、インドの狂虎・シンとタッグ戦でプロレスデビュー戦を行い、アン・ジョー之助を「ビバ! ジャイアンツ」(スライディングキック)で沈め、衝撃の初陣を飾った。
またインリン様が約1年半ぶりに復帰して、ハッスル初降臨を果たした〝魔界の住人〟グレート・ムタとタッグ戦で激突。インリン様の股間に緑色の毒霧を噴射するハッスル史上に残る名シーンを演出し、相棒のTAJIRIを閃光魔術弾で沈めた。
メインではHGがゲイ道ドリラー(変型DTT)から丸め込んで、憧れの天龍から初の3カウントを奪取。満員1万4617人の大観衆を集め、総力で大ピンチを乗り切った。それにしても股間への毒霧噴射はムタならではの素晴らしいアイディアだった。この攻撃が、後のハッスルで大きな意味を持つことになる。ピンチをみかねた天龍がハッスル軍に復帰して〝ハッスル大将〟に就任したことも大きかった。小川不在のハッスルは一致団結して年間最大の祭典「ハッスル・マニア2007」を目指すことになる。
生後1日にして父母譲りの戦闘魂を見せつけたモンスター・ボノ
さて、魔界の住人の毒霧を股間に浴びたインリン様は7月11日後楽園のリング上でつわりの症状が出てしまう。いわゆる〝ご懐卵状態〟にあることを発表した。約1年7か月ぶりの〝イン卵〟出産をあかしたのだ。なぜ本来は凶器攻撃の極みである毒霧を浴びてご懐卵するのか、疑問も多いがハッスルに深追いは禁物だ。
出産は予定日より3日早く8月15日後楽園大会と発表された。リング上で「お腹の中の子供は順調に育ってるわ」と語っていると、急に産気づいてしまうハプニングが起きる。「ヒィー、ヒィー、モンスター!」とモンスター式ラマーズ呼吸法(詳細は不明)をしながら医務室へ運ばれた。すると場内に「ポンッ」という突発音が響くや、ついにご出産となった。前回とは違う20㌢大の緑色の卵は「イン珠」と命名された。この日はテレビ東京で週1回のレギュラー放送開始発表の朗報もあった。
「イン珠」の孵化はあまりに早かった。「ハッスル25」(8月18名古屋)で「イン珠」から出てきたのは、誰がどこからどう見ても元横綱曙にそっくりなモンスター・ボノ。さっさく2㍍の新生児は「バブゥ!(ママと組んでハッスル・マニアで関取(天龍)と戦いたい。ボクが産まれたからにはハッスル軍は終わりだよ!)」と生後1日にして父母譲りの戦闘魂を見せつけた。
ボノは「ハッスル26」9月22日大阪)でRGを血祭りに上げて、デビュー戦を圧勝で飾って快進撃を続ける。また9月1日には坂田亘が、現在NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条政子役を演じている人気女優・小池栄子との結婚を発表するおめでたいニュースもあった。小池は時折りリングに「妖精さん」として会場を盛り上げた。小川が去った後の後期ハッスルは、少しずつ陣容が固まり始めていった。
しかし2年前の「ハッスル・マニア」で感じた高速ジェットコースターに乗っているかのスピード感や高揚感は、少しずつ減速している感は否めなかった。(文化部専門委員・平塚雅人)