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60万円だと思って買ったロレックスが600万円!曙「返品?考えもしなかったですね」【豪傑列伝#29】

規格外の肉体を誇った元横綱曙は、買い物も豪快だった。横綱時代は海外で超高級腕時計にひとめぼれして「10倍」の価格で購入したという。現在では「惜しいことをした…」と悔やむ秘話とは…。

1995年、横綱として全盛を極めていた時期、曙は海外公演で訪れたオーストリアで、信じられない出来事に見舞われた。

【曙の話】ウィーンにあるジュエリーショップで、プラチナのロレックス時計を見つけたんですよ。値札を見ても実際のところ、いくらなのか分からなかったので、店員さんに日本円に換算してもらったら「60万円です」と。こんな安い買い物はないと思って、すぐにカードで買いました。

この決断が誤算だった。帰国後、曙は自分の目を疑う。届けられた明細書にはハッキリと「600万円」と記されていたのだ。どうやら、店側の単純な(?)計算ミスか、曙の勘違いが原因だったらしい。しかし、ここからの対応が太っ腹だ。

【曙の話】返品? 考えもしなかったですね。正直、景気も良くて横綱になって大きなおカネも入ってきましたし、ハハハ。カードも天井(限度額)なしでしたし、自分が買うべきだと思った物ですから。いい物を身に着けたい盛りでしたから、しょうがないですね。

曙にとって先輩横綱・千代の富士(左)の存在は絶大だった(1993年1月、東駒形の東関部屋)

ブランド物へのあこがれは単身、東関部屋に入門した直後に芽生えた。ホームシックにかかった曙はわずかな手当金のほとんどを、故郷ハワイにいる両親への電話代に費やした。孤独な環境下、先輩横綱の千代の富士(九重親方)の存在は絶大だった。

【曙の話】千代の富士さんの車はベンツ。支度部屋とかで豪華な身なりを見ていると「いつかは自分も…」という気持ちになりました。何しろ18歳で日本に来た時は、ジャージーの着替えが1着。それを手洗いして使う生活が1年ぐらい続きました。番付を上げるしかないと思いましたよ。

 努力のたまもので手に入れたとも言える高級時計だが、別れは唐突に訪れた。数年後、秘密裏に保管していた金庫もろとも盗まれてしまったのだ。被害総額は数千万円にも上ったという。

【曙の話】さすがに、ぼうぜんとしましたね。自分の時計だけじゃなくて、子供が大きくなったらプレゼントしようと思っていた時計も全部なくなってしまったんですよ。その後は「また盗まれるんじゃないか」と考えちゃって、あまり高い買い物はしなくなりました。

 その後、顔見知りの犯行と判明し、曙はさらなるショックを受けた。それでも曙は悪夢を振り払おうと声を振り絞る。

【曙の話】いいんですよ。たとえ盗んだ物でも、ボクが見えないところで誰かが幸せになっていてくれれば…。あの店員さんも、最初からボクをだまそうと思っていたなら大した度胸です。人間は欲深くなると、必ずどこかでしっぺ返しがくる。いい教訓です。でも、惜しいことをしたなあ…。 

笑顔で笑う曙さんの遺影が飾られた祭壇(2024年4月、都内)

※この連載は2009年4月~2010年3月まで全33回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けします。


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