マベちん実装!マーベラスサンデーの連勝・挫折・悲願を「東スポ」で振り返る
19日にゲーム「ウマ娘」に実装されたばかりのマーベラスサンデーはサクラローレルやマヤノトップガンとともに1996年、97年の古馬GⅠ戦線を盛り上げた名馬。「ウマ娘」では明るくハイテンションなキャラですが、史実でも「遅れてきた大物」としてファンのテンションを爆上げしました。怒涛の連勝劇と挫折、悲願。その強さを「東スポ」で振り返ります。あっ、そういえば今週は宝塚記念でしたね、なるほどです。(文化部資料室・山崎正義)
大器は遅れてやってきた
2歳の夏、調教で見せる破格の動きで既に大物感を漂わせていたマーベラスサンデーですが、骨折により、デビューは3歳の2月にずれ込みます。ダートの1800メートル戦、武豊ジョッキーを背に楽勝。続く3月のゆきやなぎ賞(京都芝2000メートル)も勝ったとき、所属する関西の競馬サークル内ではこんな声が上がったそうです。
「大物だ」
「サンデー産駒にはまだこんなにすごい馬がいたのか」
そう、マーベラスの父は日本競馬の歴史を塗り替えた大種牡馬サンデーサイレンス。この時点で、初年度産駒がデビューしてからわずか半年しか経っていませんでしたが、既に旋風は吹き荒れており、「どの馬も走る」ぐらいの〝確変状態〟。フジキセキというエース以外にも多くのクラシック候補が誕生していた中、武ジョッキーが素質を買っていたマーベラスもその一頭になるかも!といった評価でした。しかし…
骨折――
秋に帰厩したものの
また骨折――
結局、クラシックシーズンを棒に振ったマーベラスの復帰は翌年4月になりました。長期休養明け初戦は不利もあって4着。で、続くレースを5馬身差で快勝すると、さらに3勝クラスもあっさり突破し、果敢にGⅢエプソムカップに挑戦します。
オープンではまだ走っていないのに、重賞初挑戦なのに、どんだけ◎がついてんだって話ですが、陣営のコメントも自信満々でした。
ホンマかいな、と半信半疑だった人もいたでしょう。でも、マーベラスはあっさりここを勝ち切ります。ただ、着差は半馬身。
「強いんだろうけど…」
「この実力は本物なのだろうか…」
マーベラスは、秋のGⅠ出走のために賞金を加算しようと、4週後の札幌記念に出てきます。当時はハンデ戦で、課されたのはメンバー最重量の58キロ。
まだGⅢを1つ勝っただけなのにトップハンデで単勝1・5倍というのもすごいですが、結果も伴いました。
着差がクビだったのは、抜け出してから気を抜いただけ。武豊ジョッキーのコメントはこうです。
まさに天才のお墨付き。ただ、まだこんな声もありました。
「そこまで強い相手とやってないし…」
「本当にGⅠ級なのだろうか…」
競馬ファンが疑り深いのは、ここまで騒がれて「結局たいしたことなかった」というケースを何度も見てきたから。しかし、秋になり、ファンの目は完全に変わります。既にここまで4連勝でしたが、その勢いはとどまるどころか加速していくのです。9月、秋の始動戦に選んだのは朝日チャレンジカップ(GⅢ)。
快勝!
GⅢ3連勝!
さらに京都大賞典。
今度はいよいよGⅡです。
完勝!
「おいおい…」
「6連勝って…」
「こりゃ相当だ」
「遅れてきた大物だ!」
だからそう言ってたじゃねーか!と陣営が思ったかどうかは別として、この京都大賞典勝ちはかなりのインパクトがありました。それまでの勝ち方が、サンデーサイレンス産駒にしては切れ味が不足していたように映るものだったのに、上がり3ハロンで33秒台の脚を使ったこと。相手が強くなっているのに、ゴール前は流していたこと。さらに本紙のように勝ち負けだけではない裏読みが大好きな新聞はこんなことも指摘していました。
見出しにある「盾盗りは既成事実?」というのは、使う必要がなかったこの京都大賞典を使った理由に起因します(既に天皇賞出走のための賞金は足りていました)。
2000メートルの天皇賞・秋を前に2400メートルを使った意味…
それは「天皇賞・秋はゲットできるのが前提で、続くジャパンカップの予行演習をした」という推理に結びつくのです。実際、管理する大沢真調教師はレース後にこう話しました。
いやいや、もう、ほとんど言っちゃってます(笑い)。で、盛り上がる記者やファンの気持ちを、天才のコメントがさらに後押し。
つかみきれていない?
つまり…
底が知れない!
しかも、一部の競馬ファンには、2着に大きな差をつけないところがまた強さを際立たせているようにも映りました。シンボリルドルフのように勝ち方を知っている可能性がありますし、ビッシリ追ったら、本気を出したとしたら、もっともっと強いかもしれないのです。
「とんでもない大物だ」
「クラシックには出られなかったけど…」
「遅れてきた大器だ!」
「サンデー初年度産駒の最高傑作かもしれない!」
というわけで、1回もGⅠを走ったことがないマーベラスは、天皇賞・秋で2番人気に支持されます。こ~んなにメンバーが強いのに、です。
中心となったサクラローレルはマーベラス同様、故障を乗り越えて本格化。春の天皇賞でナリタブライアンを並ぶ間もなく差し切り、秋初戦も快勝していました。どう見ても日本で一番強い馬が順調に、絶好調で出てきている時点で〝壁〟としてはかなり高いです。また、前年の年度代表馬・マヤノトップガンも虎視眈々、サンデーサイレンス2年目産駒のエース・バブルガムフェローが3歳ながら果敢に挑戦してきているのも不気味でした。そんな中で、ローレルの2・5倍に次ぐ4・0倍という単勝オッズは、正直、相当です。マーベラスです。
「通用どころか…」
「あっさり通過してもおかしくない」
「勝ったら一気に日本ナンバーワン」
「いや、歴史に名を残す名馬かも…」
ニュースター誕生を期待したファンの前で、中団外目から直線を向いたマーベラス。さすがすぎる天才は、内にローレルを閉じ込めながら追い出しました。
「いけっ」
「マーベラス!」
「マーベラス!!!」
届かず――
4着――
武豊ジョッキーのこのコメントは残酷でした。3文字で表すとこうです。
力負け――
9戦8勝
とんでもない馬の登場
名馬の予感
夢という名のワクワクドキドキ
すべてが吹っ飛ぶ力負けにファンの〝マーベラス熱〟は急激に冷めていきました。
「底知れない馬じゃなかったのか…」
しかも、疲れが出たことで予行演習までしたジャパンカップをスルーして、万全を期して臨んだ有馬記念でもっと残酷な結果を突き付けられます。
大敗?
いやいや、逆です。
師走の中山2500メートル
4角先頭
堂々と先頭
堂々たる2着
が!
完敗――
「強いけど…」
「とんでもない馬じゃない」
「遅れてきた大物だったけど」
「超大物ではない…」
ガッカリしたファン。
「こりゃローレルにはかなわないな」
あきらめたファン。
確かに、あきらめるしかない着差でした。
でも、馬と陣営はあきらめません。
さあ、マーベラスの本当の戦いが始まります。
伸びしろ
年が明け、マーベラスは大阪杯(この頃はまだGⅡ)で始動します。
プラス16キロ
「余裕残しか…」
「どんなもんだろうな…」
単勝1・5倍ながら、前年の天皇賞・秋、有馬記念の力負けが頭にありますから、ファンはそれほどワクワクしていなかったのですが…
「やっぱり強ぇ」
「強いじゃん!」
はい、誰がどう見ても楽勝だったうえに、パワーアップを予感させる勝ち方でした。しかも、目標とする天皇賞・春を前に陣営はしっかりと調教で負荷をかけ、馬もそれにこたえていきます。
「あきらめない」
「あきらめてたまるか」
陣営の気合と、マーベラスが変わっていく様子に、武豊ジョッキーのボルテージも上がっていきました。
ファンや記者はここで再び、その戦績を思い出します。
3歳のほとんどを棒に振った馬
遅れてきた大物
「成長も遅れていたのでは?」
「まだまだ伸びるのでは?」
そうです。
底知れない馬ではなかったかもしれません。
でも、
伸びしろが底知れない可能性がある!
とうわけで1997年天皇賞・春、マーベラスに◎がつきます。
本来なら、ローレルが◎グリグリのはずでしたが、調整に狂いが生じ、ぶっつけ本番になったことで、順調に前哨戦の阪神大賞典を快勝してきたマヤノトップガンとともに、印は完全に3強。有馬記念でローレル2・2倍、マーベラス8・4倍だった単勝オッズは、こう変わっていました。
ローレル 2・1倍
マーベラス 4・1倍
力差が縮まっていることに期待したファンがいかに多かったかが分かります。正直、私は有馬の決定的な差はどこまで走ってもひっくり返らないと思っていました。おそらく、似たような感覚を持っていた人は多いはずです。でも、誰もが心を動かされつつありました。しかも、レース前日の本紙には、調教の手綱をとった助手さんのこんなコメントが載ったのです。
付け加えます。
「ウマ娘」で言ったらこれです。
「マーベラース!!」
買わないでいられますか?(苦笑)
逆転を夢見ないでいられますか?
「いけっ!」
「ローレルに一矢!」
そんなファンは、マークをしたときの天才の怖さに身震いしたでしょう。なんと、いや、当然のように、武豊ジョッキーはスタート直後からローレルの後ろにぴったりと張り付くのです。そして、休み明けの影響か、ムキになっていたローレルがガマンできずに2周目の向こう正面から動き出すと、「もっといけ」「もっといっちゃえ」とばかりに突きます。ローレル、これはたまりません。
坂の下りで3番手
さらに先頭に並びかける。
強引です。
鞍上の横山ジョッキーがローレルの力を信じていたからこそできた芸当とも言えますが、やはり強引でした。最後に力尽きるパターンに見えました。しかも…
ピッタリ
直後に
マーベラス!
マークする側
マークされる側
有利なのは前者
先頭に立ちながら直線を向いたローレル
追い出した瞬間、隣にマーベラス
手ごたえは…
マーベラース!!
ファンも叫びました。
「マーベラス!」
ライバルの前に出た天才
完全マーク大成功
ライバルを競り落とします。
遅れてきた大物
やはり遅れて成長していました。
伸びしろは底なし
向かうは栄光のゴール
「いけっ!」
「マーベラス!」
「マーベラス!!」
「マーベ…」
「ラ…」
残り100メートル
「ラ」の口の形のままフリーズしてしまったのは私だけではないでしょう。
目を疑いました。
本当に信じられないことが起こりました。
かわしていたんです。
追い抜いていたんです。
なのに…
抜き返されている
ローレルに差し返されている
明らかに早仕掛けで
明らかに自分よりスタミナをロスしている相手に
前に出られている!
「バカな…」
「ウソだろ…」
あれほどショッキングな映像を私は知りません。
そしてさらにショッキングな映像が目に飛び込んできます。
大外からマヤノトップガン!
まとめてズドンとトップガン!
勝ったはずだった
いや、直線半ばまで勝っていた
なのにローレルに差し返され
トップガンに逆転された
3着――
トップガンは鞍上・田原成貴ジョッキーの天才的な乗り方で普段以上の力を発揮した可能性があったので仕方ありません。問題は対ローレル。
着差は半馬身
有馬は2馬身半
着差は小さくなったのに
ショックは大きくなりました。
「…」
「…」
言葉も出ません。
立ち尽くし
力が抜け
うつろな目で帰路についたマーベラスファン
さすがの武豊ジョッキーもショックを受けたようでした。そりゃそうです。完璧に乗って負けたのですから。
レース後、控室に戻っても首をうなだれたままだったことが書かれています。絞り出したコメントはこれだけ。
残酷ですが明らかでした。
力負け--
1回じゃありません。昨年の天皇賞・秋でも、直線で進路がなかったローレルに先着できなかったことも含めれば
3連敗
3タテ
私の脳裏に浮かんだのはプロ野球です。
1990年
日本シリーズ
巨人が西武に4連敗
完膚なきまでに叩きのめされたあのときを思い出しました。
「ダメだ…」
「どうやっても…」
「ローレルには勝てない…」
誰もが感じたこの絶望感が、主役になるはずの次走で、暗い影を落とします。
ローレルがいないのに
勝てるメンバーなのに
不安ばかりが募るのです。
宝塚記念
驚異的な差し返しで改めて強さを満点下に知らしめたローレルは、凱旋門賞に狙いを定め、宝塚記念をパスします。その天皇賞・春を田原マジックで差し切ったマヤノトップガンも、秋に備え、放牧に出ました。そんな中、マーベラスは続戦します。
宝塚記念――
少し前に3強と呼ばれた馬のうち2頭がいないグランプリ
チャンスです
千載一遇
マーベラース!!
皆さん、人気はどれぐらいになると思いますか?
単勝オッズは何倍ぐらいになると思いますか?
私は週の頭にメンバーを眺めたとき、こう思いました。
「ダントツ人気だろう」
「1倍台になるかもな」
今、同じように想像した人も多いはずです。
でも、抜けた1番人気ではありませんでした。単勝の最終オッズは2・3倍。2番人気は3・1倍、3番人気は3・5倍ですから、ほとんど差がありません。新聞の印だって、◎グリグリではありませんでした。
やはり、3タテが重くのしかかっていたのでしょう。
ジワジワ効いていたのでしょう。
あの絶望感が生んだ疑心暗鬼
「ローレルはいないけど」
「本当に勝てるのか?」
「もしかしてこの馬は…」
「GⅠは勝てないんじゃないか」
突っ込みだしたらキリがありません。
「決め手がないんだよな」
「去年の6連勝は相手が弱かっただけなんだよ」
こんな可能性すら指摘されました。
「脇役止まり」
「実は善戦マンなんじゃ?」
遅れてきた大物だったのに
ニューヒーロー候補だったのに
さらに、天皇賞・春の後に脚にデキモノができて馬場入りを休んだことや、当時の阪神競馬場の馬場が悪いことも不安点として指摘されました。追い切り後の調教師さんや助手さんのトーンなども、前走ほどではありません。だからこその
2・3倍
成績的に見ればやはり一番頼りになる馬です。現役最強のローレルに〝食らいつける馬〟という評価だってできますから、どの馬が好きだとか、あまり関係なく馬券を買えば自然とマーベラスからになるでしょう。ただ、単勝オッズには、それだけではないファン心理が反映されます。この2・3倍は明らかにファンが作った数字とも言えました。
心理が変わってきていたのです。
「頼むぞ!」
「勝ってくれ!」
ではありません。
「配当も安いし」
「勝てないかもしれないし」
「様子見かな」
冷めていた。いや、ファンは自身で自身のアツさを抑えました。
怖かったんです。
夢を見た後に
絶望するのが
三度ならぬ
四度絶望するのが
日本シリーズだったら敗退です、
あきらめ半分の視線の先で、マーベラスは後ろから3頭目を進んでいきました。良馬場なのに力の必要な馬場に脚をとられているのか、手ごたえはイマイチに見えます。向こう正面でもまだ後方3番手。
「厳しいか…」
あのとき私はガッツリ馬券を買わずに良かったと思いました。アツくならなくて良かった、と。それぐらい、勝てる気がしなかった。3コーナーを前に馬群がぎゅっと固まり、マーベラスがその馬群に突っ込んでいったときも、「外を回して上がっていけるほどの手ごたえがないんだ」と思っていました。そもそも6連勝のときも安全策で外を回り続けていた馬です。昨年の天皇賞・秋も、有馬記念も、今年の天皇賞・春も、基本的には外を回っていました。全くイメージが湧かない戦法に、不安ばかりが募ります。
「マーベラス…」
3コーナーから4コーナー
馬群の中で揺れる赤
分かりやすい赤
そうです。マーベラスのトレードマークは赤いメンコ(「ウマ娘」のマベちんも赤いリボンをしています)。馬群の中でも目立ちます。その赤が少しずつ前に上がっていきました。上下に激しく、赤が動いています。歯を食いしばり、必死で前を追うために、首を前に前に出していたのです。
「マーベラス…」
4コーナーで4番手
目の前には2番人気馬と3番人気馬
直線
その2頭を追いかけようとしたとき外からかぶせてくる4番人気馬に先に前に出られますが、それがマーベラスの闘志に火をつけました。
赤いメンコ
まさに火がついたかのよう
勝手に絶望していたのはファンだけ
ジョッキーも
馬も
全くあきらめていなかった。
一歩ずつ
一歩ずつ
やはり切れる脚ではありません。
底知れぬ強さとも言えません。
でも、本当に一歩ずつ
一歩ずつ
前を追う赤いメンコ
その揺れに合わせて私たちはつぶやきはじめました。
「マーベラス…」
「マーベラス…」
「マーベラス…」
叩き合いになります。
競り合い
よみがえる悪夢
よみがえる絶望
それを振り払うかのように私たちは叫びました。
「マーベラス!」
「マーベラス!!」
マーベラース!!!
気が付けば、私の周りからもたくさんの声が出ていました。そして「よかった」「やっと勝ったね」という声も。
「なんだよ…」
「みんな応援してたんじゃないか…」
武豊ジョッキーがインタビューで話しています。
そうでした。
宝塚記念にはファン投票がありました。
マーベラスは1位だったんです。
早々に回避を表明したローレルには票は集まっていませんでしたが、出走回避の発表がもう少し遅くなったトップガンよりも上でした。なのにダントツ人気にならなかったことが、やはりファンの不安を表してはいましたが、ゴール後に祝福の声が上がったのは、みなどこかで「勝ってほしいのはこの馬」「勝たせてあげたい」と思っていたからでしょう。
天才も満面の笑み。
4度目の正直
マーベラース!!!!
もうGⅠ〝級〟ではありません。
れっきとしたGⅠ馬
タイトルホルダーとして目指すは秋
週が明けて水曜日
こんなニュースが入ってきます。
皆さん、お待たせしました。
実はここからです。
マーベラスが、マーベラース!なのは。
選択と意地
右前脚(橈骨)の剥離骨折
全治6か月
管理する大沢調教師は肩を落としました。
せっかくGⅠ馬になったのに
これからなのに…
ファンとしても残念でした。
「こんなもんじゃない」
「やっぱりこの馬は強い」
そう思い始めたところだったのです。宝塚記念後のインタビューで武豊ジョッキーは「先頭に立つとソラを使うので…」と、早めに抜け出さないことを意識したと話していました。そう考えると、4角先頭だった有馬記念、直線を向いて早々に先頭に立った天皇賞・春は、完敗とはいえ、ソラを使っていた可能性もゼロじゃありません。
「追いかける立場なら」
「差し戦法なら」
「もっとやれる」
「この馬はもっと強いのかもしれない!」
なのに骨折です。
悔しい…
一番悔しかったのはマーベラスだったはず。
でも、その思いが奇跡を起こします。
届くのです
体に
骨に
全治半年だったのに
年内絶望だったのに
早々に治ります
体も動きます
間に合いそう
ジャパンカップは無理だけど
有馬記念なら…
が!
困った問題が起こります。
記事の主役はマーベラスではなくエアグルーヴです。
天皇賞・秋で歴史を変えた〝女帝〟
当時は超レアだった牝馬による古馬王道GⅠ制覇
続くジャパンカップも海外の強豪相手に2着
そんな馬が有馬記念に向かう…
だけならいいのですが、問題のその主戦騎手でした。
天才・武豊
そう、マーベラスと同じ!
記事内の助手さんのコメントもこうなっています。
分かっていたんです。
マーベラスが有馬を目指していることを
その主戦が武豊ジョッキーだということを
だから未定
つまり…
天才がどちらを選ぶのか
エアグルーヴか
マーベラスサンデーか
どちらの陣営も「選んでほしい」
でも、体は1つ
ザワつく競馬サークル
ザワつくファン
私だけではなく、多くの人はこう予想しました。
「エアグルーヴだろ」
「ファン投票の中間発表でも1位だし」
「もはや歴史的名牝だもんな」
「天皇賞・秋を勝ったんだぜ」
「その前に武豊でオークスも勝ってるし」
「厩舎的にもそうだよな」
「エアグルーヴの伊藤雄二厩舎は名門だから」
「今後を考えてもそっちを選ぶだろ」
5日後
有馬記念2週前
登録馬が発表されます
答えは…
マーベラース!!!
「えっ?」
驚くファン。正直、マーベラス推しも驚いたと思います。そして、競馬好きは続けて、こういう思考に突入します。
「ってことは…」
「マーベラスの方が脈あり?」
はい、一流ジョッキーはその選択を間違えません。当時はみな、同じような想像をしました。
「エアグルーヴは天皇賞・秋、ジャパンカップと激走しているから余力があるのか微妙」
「同じく秋の古馬王道を2戦したバブルガムフェローが有馬を回避しているところを見ると消耗度は相当」
「そもそも昔から秋の古馬王道3連戦を戦い抜くのは相当タフではないと厳しいと言われている」
「そんな状況で牝馬はかなりキツイ」
「だったら半年ぶりでもマーベラス」
「武豊が選ぶぐらいだから半年ぶりでも仕上がりはいいに違いない」
誰もが思い描ける物語をもっと美しくするとこうです。
「武豊が最後までその背中にこだわった馬」
「マーベラスは豊の恋人」
実際のところ、武豊ジョッキーがあの乗り替わりについて口を開いていないので真実は分かりません。取材力に定評のある本紙は、あの有馬の週、「武豊がマーベラスを選んだのではなく、エアグルーヴ陣営がペリエを選んだ」とも書いていましたから、武豊騎手がエアグルーヴを捨てたわけでもないと思います。ただ、ひとつ言えることは、マーベラスで挑むこの有馬は、武豊ジョッキーにとって絶対に負けられないということ。ひとまず「選んだ」とされている馬で敗れるわけにはいきませんし、何よりその能力を買い続け、1回も手放さなかったこの馬の力を、強さを証明したかったんだと思います。
遅れてきた大物と呼ばれたのに
3タテ
挫折
骨折
悔しさを晴らすにはタイトル1つじゃ足りない。
もう1つ!
武豊ジョッキーは追い切り後、こうも言いました。
スポーツマンシップとともに意地とプライドが見え隠れします。2頭を引き合いに出した。それは「あの2頭にだって負けていない」「だからこんなところで負けるわけにはいかない」ということです。
「そのぐらい強い馬なんだ」
「マーベラスサンデーの強さを見せてやる」
今考えると、この武豊ジョッキーのコメントこそ、マーベラスのすべてと言っていいかもしれません。エアグルーヴを選んだことよりも、もっともっとマーベラスの強さを物語っています。そして、ローレルとトップガンの名前、特にローレルの名前が出たことでファンも燃えました。
「そうだよな」
「あの強い馬とやってきたんだ」
「何度も戦った」
「勝負してきた」
「それだけ強い馬だってことを」
「見せてほしい」
「そして…」
「もっともっと強いことも」
「証明してほしい」
そう、宝塚記念後に気付いたマーベラスの奥深さ。ソラを使わずに前を追いかければ、もっともっと強いかもしれないという期待。競馬において、そのような馬にとって一番いいのは、前をいく馬が早めに後退しない展開とメンバー構成。宝塚はちょうど前に強い馬がいて、その馬がゴール寸前まで頑張ってくれたので、追いかけることでマーベラスも持っている能力を最大限に発揮することができました。では、この有馬では…
天才は分かっていたのかもしれません。
冬のグランプリ
熱狂の有馬記念
4コーナーを回り
直線を向いたマーベラスの前
絶対に止まらない馬
ゴールまで頑張る馬
自分が一番その能力を知っている馬
エアグルーヴ!
「いっけー!」
ファンの雄たけびとともに、赤いメンコが最強の目標に襲い掛かりました。いつものように切れるわけではありません。
一歩ずつ
一歩ずつ
宝塚記念と同じでファンはその大きなストライドに合わせてつぶやきはじめました。そしてすぐに叫び始めました。
「マーベラス…」
「マーベラス!」
「マーベラス!!」
抜かせない女帝
急坂でもうひと伸びした女帝が引き出した
サンデー初年度産駒の最高傑作
豊がほれ込んだ名馬
そのポテンシャル
「マーベラス!」
「マーベラス!!」
「マーベ…」
「マ…」
マークする馬
される馬
エアグルーヴをマークしたマーベラス
そのマーベラスに狙いを定めていた馬がいた…
これも競馬です。
これが競馬です。
でも、強かった。
2着でも強かった。
何度も負けた競り合い
何度も涙を飲み
何度も挫折を味わい
何度も骨折を乗り越え
今度は勝ちました
女帝を競り落とした
先頭に立った
だからこの言葉を送りましょう。翌年、現役を続行したものの屈腱炎を発症し、一度も走ることなく引退となった名馬に、お疲れ様の意味も込めて。
「マーベラース!!!」