史上最低の投票率だった1995年参院選を東スポはどう報じたのか?
選挙カーが街をにぎわせています。記者になるまでは「うるさいな」と思っていましたが、候補者や支援者を実際に取材する機会を積み重ねるとそんな気持ちも変わりました。〝8時当確〟が流れて圧勝する候補もいれば、長時間ジリジリと待たされた挙句わずかな票数で涙する候補もいて、その様子はまさに筋書きのないドラマ。選挙に熱を入れている人たちにとってはある種のお祭りと言っていいのかもしれません。
今回の参院選(7月10日投開票)は投票年齢が「18歳以上」に引き下げられてから5回目の国政選挙となります。投票できるのは投票日翌日までに18歳の誕生日を迎える人なので、高校3年生の一部も対象です。ところが投票率が上がっているかというと、前回の参院選は48.8%と過去2番目の低さでした。そこで東スポnoteではあえて過去最も投票率が低かった1995年の参院選(投票率44.52%)を掘り起こしてみようと思います。95年生まれの方が今年満27歳を迎えるので若い人にとっては生まれる前の話になってしまいますが、何かを感じていただけるように書いてみます。(東スポnote編集長・森中航)
アントニオ猪木氏が落選でスポーツ平和党が分裂状態に…
まずは一面。一応参院選の結果なのですが、主役はアントニオ猪木氏で、「猪木落選『悔いなし』撤収」という見出しがつきました。せっかくなので記事を読んでいきましょう。
スポーツ平和党は89年に猪木氏が中心となって結成された政党で、略して「スポ平」とスポーツの精神を政治に持ち込み、国民が健康になることで平和を実現することを理念に掲げており、89年に猪木氏が参院選に当選すると、92年の参院選で元プロ野球投手だった江本孟紀氏も同党から出馬して当選して参院議員となっていました。国会議員2人だけの党ですが、東スポ的には「スターが2人もいる特別な政党」として取材していたわけです。
ちなみに、江本氏は選挙後にスポ平を離党し、98年の参院選では民主党から出馬し参院議員を2期12年務めました。一方の猪木氏はしばし政治の世界から離れますが、2013年の参院選に日本維新の会から出馬し、35万票超を獲得して2期目の当選。18年ぶりに復帰した国会で「元気ですか~?」とおなじみのあいさつを轟かせました。
馳浩氏は〝政界デビュー戦〟を制し俳句を詠む
95年の参院選には他にも2人のプロレスラーが挑戦しています。石川選挙区で初当選したのが元国語教師でもある馳浩氏。2000年に衆院に鞍替え出馬するとそこから7回連続当選、15年からの第3次安倍内閣時代には文科相を務めるなど自民党内で要職を担いました。今年3月からは石川県知事として活躍していることは若い人でもご存じですよね!
落選した高田延彦氏「投票に行かないということは一つの罪ですね」
巨人、阪神で活躍した小林繁氏を代表に結成した「さわやか新党」から比例名簿順位2位で出馬したのが高田延彦氏です。ちょっと長いですが、最後に投票率にかんしてドキッとすることを言っているので引用します。
「あれ、期日前投票じゃないの?」とツッコミを入れたくなった方はかなり鋭いです。今は期日前投票を利用する人が増えましたが、この制度ができたのは2003年のこと。95年当時の不在者投票制度では、「確実に選挙期日の投票が困難」であることが必要条件とされており、今のように「事前に投票しちゃおっ」と手軽に利用できるものでなかったのです。
その後、高田延彦氏が選挙に出馬することはありませんでしたが、格闘家引退後にファイティングオペラ「ハッスル」で〝高田総統〟として君臨しました。(詳しくは平塚記者のハッスル連載をお楽しみください!)
島田洋七氏の訴えた政策は今でも響く!?
95年は東京都に青島幸男知事、大阪府に横山ノック知事が誕生した「タレント知事ブーム」の1年でもありました。横山ノック氏は参院議員を辞職して4月の府知事選圧勝で華麗なる転身に成功。そんな〝風〟に乗り、埼玉選挙区に出馬した島田洋七氏は「50%を超えるようならトップ当選もあり得る」と豪語したといいます。世間はいわゆる島田氏をタレント候補として認識していたようですが、東スポはやたらとマジメに記事をまとめています。10万票を獲得するも惜しくも5位落選した島田氏に対して…
27年前に託児所にまつわる問題とか教職員にかかわる問題意識を持っていたのは島田氏に先見の明があったと思いませんか?「保育園落ちた日本死ね」ブログが世間をざわつかせたのはそれから21年後の2016年のこと。定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すために教員免許の更新制が導入されたのは14年後の2009年のことでした。ちなみに教員免許の更新制は狙った効果よりも弊害が多かったとして抜本的に見直され、今年5月に廃止されました。そう考えると島田氏が27年前に提示した問題は今もまだ解決に至っていないと考えることもできるでしょう。
投票率が低いと民意は正確に反映されない
投票率が低いといわゆる〝組織票〟が相対的に強くなり、選挙結果は民意を正確に反映したとはいえないものとなってしまいます。前述したように期日前投票の導入や投票時間の延長によって、投票しやすい環境は27年前よりも整えられていることも確かです。個人的に今回の参院選は与野党に明確な対立軸がなく、投票率が低くなるんじゃないかと憂慮しています。若い人もそうでない人も政治を他人事と考えず、投票という具体的な行動に移すことを祈っています。