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プロ野球選手の「天国と地獄」がのぞける一冊

プロ野球日本シリーズが59年ぶりの〝関西対決〟で盛り上がる一方、2023シーズンを終えたチームは来季へのチームづくりを進めています。この時期には「戦力外通告」のニュースも駆けめぐり、自分よりもはるかに若い選手が苦い表情をしているのを見ると、改めてプロの世界の厳しさを思い知らされます。(文中敬称略)

プロ野球選手の平均年俸は民間給与の約10倍

とはいえ、プロ野球選手はやっぱり稼ぎが違います。日本プロ野球選手会が発表している2023年シーズンの年俸調査結果によると、12球団の支配下登録714選手の平均年俸は4468万円。日本人の平均給与は443万円(国税庁「民間給与実態統計調査」令和3年)なので、数字だけ比較すると約10倍違います。

10倍も違うのか!」と思う人もいれば「10倍しか違わないのか…」と驚く人もいるでしょう。活躍できなかったらすぐクビになるリスクを考えたら「10倍しか」と感じる気持ちも理解できます。それでも山本由伸(オリックス)、柳田悠岐(ソフトバンク)といったスター選手になると推定年俸は6億円超えで、今度は「そんなにもらうんか~い」とひっくり返りそうになります。ちなみにプロ野球選手の年俸の中央値(714人の中で真ん中の選手の年俸)は1600万ですから格差がめっちゃ大きいことも分かります。

3年連続沢村賞に輝いた山本由伸はMLB移籍でさらに大金を稼ぎそうだ(2023年10月、カメラ=山口高明)

1年で1億円を稼ぐ人、10年で1億円を稼ぐ人

そんな天国と地獄を味わったプロ野球選手たちにお金の使い方を聞いた本が、元永知宏さんの『プロ野球で1億円稼いだ男のお金の話』(TOKYO NEWS BOOKS)です。

トップバッターでお金を語るのが愛甲猛(ロッテ→中日)でドキッとさせられますが、中根仁(近鉄→横浜)、川崎憲次郎(ヤクルト→中日)、GG佐藤(西武→ロッテ)、西川慎一(近鉄→阪神→広島)、米野智人(ヤクルト→西武→日本ハム)、礒部公一(近鉄→楽天)、古木克明(横浜→オリックス)、館山昌平(ヤクルト)、大引啓次(オリックス→日本ハム→ヤクルト)、小林太志(横浜)、鵜久森淳志(日本ハム→ヤクルト)というプロでの実績も、ファッションも、活躍した時代もすべて異なる選手なのでずーっと飽きずに読むことができます。共通点はプロ野球選手として〝1億円を稼いだ〟ことだけで、この切り口がとても新鮮です(笑)。

G.G.佐藤の調停騒ぎをほめたのは落合博満氏だったという(07年12月)

巻末には、12人の推定年俸の推移から通算までを掲載。「未完の大器」のイメージが強かった鵜久森はプロ14年通算で1億1160万円を稼いだそうなので、年収換算すると毎年797万円です。

日本ハム新人合同自主トレでの鵜久森とダルビッシュ(05年11月、カメラ=菊池六平)

我々サラリーマンよりは高収入ですが、その分のストレスもハンパなさそうで…。

「戦力外になるんじゃないかと真剣に考えたのはプロ9年目くらい。そのあとは、毎年、危ないと思っていました。球団から連絡が来たのが、子どもの誕生日で……本当、キツかったですね」

元永知宏『プロ野球で1億円稼いだ男のお金の話』(TOKYO NEWS BOOKS、2023年、214p)

TBS系のドキュメンタリー「プロ野球戦力外通告」のようにに、読んでいるこちらまでつらさが伝わってきます。12人の中で最も稼いだ館山(通算15億8100万円)といえば3度のトミー・ジョン手術を受けたことで知られていますが、そもそもそこまで野球を続けられる精神力も常人離れしていると思います。そして、お金の使い方もどこか未来志向に感じます。

ファンに手を振る館山昌平(2015年10月)

「自分たちの年齢が上がってから、僕と石川さんと青木宣親の3人で、後輩たちに対していいお金の使い方をしたんじゃないかな。みんなにいろいろな経験を積んでもらわないと、チームの未来に繋がらないなと思って」

元永知宏『プロ野球で1億円稼いだ男のお金の話』(TOKYO NEWS BOOKS、2023年、128p)

今年のドラフト会議はもう終わりましたが、選手たちの契約更改はこれから。「稼いでんな~」だけではないリアルを知るためにぜひ本書をお読みください。

ちなみに私が以前読んだ、元永さんの本も面白かったのでこちらもぜひ。(東スポnote編集長・森中航)


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