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映画をもっと深く楽しみたい!「プロム発→地下鉄着の旅」

約1年前、『仕事と人生に効く教養としての映画』(伊藤弘了著、PHP研究所)という本を読んでから、映画鑑賞がより楽しくなりました。特に作品の背景・設定について考えたり、調べたりしていくことに面白さを感じています。

ある日、インスタグラムを見ているとこのような広告が流れてきました。

やはり映画の本場と言えばアメリカ。アメリカ文化を知ることでアメリカ映画をより楽しみたいと思っていたので、さっそく本書を手に取ってみました。私が特に興味を持っていたのはプロムです。ご存じの方も多いと思いますが、プロムとはpromenade danceを省略した言葉で、卒業を目前にした高校生のために開かれるダンスパーティーです。青春映画では、主人公とヒロインが急接近する重要な場面の定番となっています。とはいえ、日本の学校育ちの僕にとっては馴染みが薄いため、どうしてもリアリティーを感じることができませんでした。

いつかは行ってみたいハリウッド(2024年3月、カメラ=山口高明)

直近見た洋画でプロムが印象的だったのは「フェイブルマンズ」(2023年日本公開)です。巨匠スティーブン・スピルバーグの原体験を描いた自伝的作品となっています。プロムのシーンが、よくあるお決まりの展開から逸脱していたので、心に残りました。

さて、本書によるとアメリカでは「一人ぼっち=悪」とする風潮があるそうです。絶え間ない交際が奨励され、パーティーなどに同伴相手がいない人は社交力が低いと評価されてしまいます。プロムとはそうならないよう訓練する場だと説明されます。

 この同伴文化で落伍者にならないようにする訓練が「プロム」である。男子が特定の女子を誘って、学校の体育館で行われるダンスパーティに誘う。レンタルのタキシードで自宅に迎えに行き、帰りは家まで送り届ける。「恋愛の練習」を親ぐるみ、学校ぐるみでやることは滑稽に見えるが、同伴文化への適応訓練だと思えばしごく納得できる。

(渡辺将人『アメリカ映画の文化副読本』(日本経済新聞出版、2024年、P63)

これを読んで、自分が大学生のときに行った卒業パーティーを振り返りました。そのときは教授陣含め、家族やパートナーと参加している人はいませんでした。また、直近参加した友人の結婚式でも新郎新婦の家族・親戚は出席していましたが、他の参加者は基本的に一人で出席して、会場で友だちと合流する人が多かったと記憶しています。思い返すと洋画に出てくるパーティーでは家族や恋人と一緒に参加しているシーンをよく見かけますが、日本では誰かと一緒に出席するという同伴文化がそもそも少ないのかもしれません。

プロムの役割を理解したところで、大好きなトム・クルーズの出世作と言われる「卒業白書」(1983年)を鑑賞しました。学生ものだし、卒業間近だし、これならきっとプロムが出てくるだろうからピッタリだと思いました。物語はトム・クルーズが演じる高校3年生のジョエルが、両親不在の間に売春婦を家に呼んだことで大騒動になっていきます。プロムはいつかな、プロムはまだかな…と思って視聴しましたが、結局、全く出てきませんでした(笑)。

しかし、思わぬ気づきを得られたのが地下鉄のシーンです。日本のの地下鉄とは雰囲気が大きく異なり、車内は暗くて、古ぼけており、お世辞にもキレイとは言えないような環境でした。乗客は2,3人だけ。浮浪者と思われるおじさんが乗っていることを、視聴者に印象付けるカットもありました。

 万人に愛される通勤電車はマンハッタンと首都ワシントンの地下鉄ぐらいで、それ以外の都市では車通勤を選ぶ人が多い。理由の一つは車社会で養われたドアツードア文化の定着だ。せっかく自動車が発明されたのに歩くのはダイエット目的以外では馬鹿馬鹿しい。そこでどこまで「車に乗ったまま」生活できるかに関心がひたすら向いた。…(中略)… 二つめプライバシーの感覚だ。抱擁(ハグ)やキスで親愛の情を込める社会なだけに、逆に赤の他人と理由もないのに身体を接触させることを好まない。…(中略)… 三つめは治安だ。車はそれ自体が「要塞」なので、爆破や砲撃でもされない限り暴漢に襲われる心配がない。バスや電車は社内に逃げ場がないし、ホーム、階段、停留所など無防備な空間ばかりだ。治安が悪い社会には向かない。

前掲書、P23~24

地方出身の僕にとって車社会が普通だったため、ドアツードア文化は馴染みがあります。また、知らない人と身体的な接触することを好まないのは、アメリカ人と同じです。満員電車で、見ず知らずの人と肌が触れ合いながら乗車するのは辛いものがあります。しかし、1つ感じ方が異なると思ったのは地下鉄の治安についてです。東京に出てきて毎日通勤・通学で利用していても地下鉄は安全そのもので、「地下鉄=危険」というイメージはほとんどありませんでした。

ニューヨークの地下鉄(2014年4月、カメラ=中田卓也)

「そうだったのか、アメリカの地下鉄は治安が悪い…」と考えていたら、ホアキン・フェニックス主演の「ジョーカー」(2019年)を思い出しました。この作品の中では鉄道の車内で殺人事件や暴動が起こるなど、随所に暗い雰囲気が映し出されていました。

「卒業白書」は地下鉄でラブシーンがありますが、これは危険な場所でのロマンスだからこそ、盛り上がる展開を意図的に作り出しているのではないでしょうか。それに加えて「卒業白書」の原題は「Risky Business」。これから危険なことが起きるという伏線のようにも考えられます。実際にその後、ジョエルは窮地に追いつめられますし…どうなるかはぜひご覧ください。

当初知りたかった内容とはズレてしまいましたが、楽しんで見た映画を通じて新しい発見ができたのはいい経験でした。次こそはプロムが出てくる青春映画をじっくり楽しみたいと思います。(デジタルメディア室・佐藤悠樹)


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