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【東スポ×君ニ問フ 特別企画】廃炉費用はとても22兆円じゃすまないだろう

 フクイチのあまり知られていない〝深刻な不都合〟とは? 福島第一原発の「トリチウム汚染水海洋放出」についてリポートしたラジオDJ&スローメディア「君ニ問フ」編集長のジョー横溝氏がさらにフクイチの現状を深掘りする。「電力会社とは思えない凡ミスを犯していた東電」「廃炉費用はとても22兆円では収まらない」と言うのだが――。(文化部・田才亮)

汚染水を溜めるタンクは1000基以上ある

汚染水から取り除いた63種類の放射性物質の処理も問題だ

――トリチウム汚染水の海洋放出以外で、報じられてない「危険」とは?

ジョー氏 海洋放出に向けて、トンネルを作るための工事をすでに始めています。今回の取材ではセキュリティーの問題でその様子はうかがい知れなかったですが、急ピッチで準備は進んでいます。また、これまでに溜めた置いた「処理水(トリチウム汚染水)」の7割が除染ミスされていて、もう一度ALPSで処理して、海洋放出することになると思います。ALPSももう1基増設しました。
 海洋放出以外の問題の1つは「取り除いた物質の処理」というものがあります。

地下水をくみ上げる施設

――現在の技術では取り除けないトリチウム以外、セシウム、ストロンチウムを始めとした63種の放射性物質を取り除くことになっている。

ジョー氏 汚染水から取り除いた「63種の放射性物質」を処理するのもかなり危険な作業と言われています。取り除いたはいいが「実際にどのような形で封じ込めるのか」「どのような方法で作業ができるのか」ということがあまり注目されていない。実際に作業にあたるのは、2次、3次下請けの人たち。ここで作業する人たちの身体に影響が出る程度の被ばくの問題があると言われていて、注視しないといけないと思います。

――今後も冷却や作業に使用した水が「汚染水」となり、廃炉まで出続けることになる。

ジョー氏 そうなんですね。今後、廃炉作業を終えるまで、海洋放出は続くことになります。当初廃炉は2050年までに完了ということでしたが、現段階で大幅に工期は遅れています。しかも、です。予定では取り出し作業にかかっているはずだったデブリ(溶け落ちた核燃料)は取り出しどころか「耳かき程度の量をすくいあげることに成功した」というレベル。それすらも、取り出しするというところまでは完了できていない。これで本当に廃炉完了できるのでしょうか?
 ちなみになんですが、(フクイチがある)双葉町と大隈町の町長は放出容認の姿勢です。
 というのも、両町では取り出す予定のデブリなどを、敷地のどこかに置いておかなくてはいけない。そのほかの放射性廃棄物も置いておかなければいけない。法律でこの敷地内から出してはいけないことになっている。半永久的に背負っていかなくてはいけない。「現実的にトリチウム汚染水までは置いておけない」という半ば苦渋の決断でもあります。

今年から東電の女性社員が広報に加わった

――東電から出る情報と現実で起きていることはかなりの食い違いがありますね

ジョー氏 世界的な事故を起こしておきながら、その後の処置もあまりにもおそまつなのではないかと。これまでにも東電はこの汚染水を黙って2回捨てているんですよ。これが後から発覚して問題になって謝罪しています。ずっと取材に入り続けていますが、この1年間での成果というのは去年の2月、3号機建屋にあった「使用済み燃料棒566本」の取り出しが完了しました。ただし、これも工期としては1年以上遅れていました。
 実はこれにも、笑えない話があります。

トリチウム汚染水の放射線量を測る様子

電力会社とは思えない「東電の凡ミス」が起きたワケ

ジョー氏 2018年のことですが、(取り出し済み核燃料棒を管理するプール)制御盤の異常を知らせるアラームが鳴るという事態が2回ありました。のちに分かったことなんですが、なぜアラームが鳴ったかというと、実はこれは「東電の凡ミス」だったんです。
 アメリカ側の原発を開発した会社から送ってもらった制御盤を使用していたんですが、アメリカと日本って電圧が違うんですが、東電が電圧の設定を間違えたためにアラームが鳴ったというんですよ。これは本当にギャグみたいな話で「電力会社が電圧を間違える」って。こういったところから躓いていたんですね。

――なぜ、このような初歩的ミスが頻発する

ジョー氏 それはですね。原発を購入する時の契約って「ターンキー契約」と言われているんです。これは何のセッティングをしなくても、キーをまわせば、あとは自動に運用できるという意味で、簡単に言うと「原発の開発から処理まで含めて、運用する東電はなにも関わっていない」んです。「買ってきてキーを回す」だけなんです。
 でも、その東電が廃炉作業を行っているんですよ。これって初めから無理じゃないですか? もちろん、原発を開発したGE(ゼネラル・エレクトリック)や東芝、日立も今回の廃炉作業に入っていますが、基本的には東電がイニシアチブを取ってやらなければいけない。そんなのって、そもそも無理じゃないですか?

ずらりと並ぶ作業マスク

――そもそもの原発の運用体制から間違っていたと?

ジョー氏 そもそも論で言えば、あの1979年に事故が起きたアメリカのスリーマイル原発でさえ、まだ廃炉は終わっていない。これはまだ人類が廃炉技術を確立していないということです。ましてやスリーマイルの事故の規模に比べて、フクイチはさらに大きい。
  本当に廃炉なんて出来るのかとい思います。当事者たちはみんな矢面に立ちたくない。だから経済産業省は東電をつぶさないんです。東電がつぶれると、矢面に立たないといけないから。〝死に体〟の東電に、最後の後処理をやらせているようなものだと思います。

フクイチを取材する報道陣

東電に任せていたら「廃炉」は100年たっても実現しない

――実際に「2050年廃炉」は可能なんですが?

ジョー氏 1、2、3号機のデブリは「880トン」あると推定されている。一番、作業が進んでいると言われる2号機でさえ、この1年間でどれだけ作業が進捗したかといえば「何も進まなかった」。2020年にはデブリをすくいあげることには成功しましたが、もちろん、取り出しはできていません。機械を入れて、デブリに近づこうとイギリスから機械を送ってもらいましたが、近づく前に異常が発生しまいました。しかも今後実施される予定の「デブリの取り出し工法」にも問題があると言われています。

――何が問題?

ジョー氏  スリーマイル原発では「水中工法」というやり方でデブリを取り出している。簡単に言えば「格納容器を水没させて作業をしている」状態です。ところが、福島原発の1、2、3号機は格納容器に穴が開いているために、その水中工法が使えないんです。それで「空中工法」というやり方を取らざるを得ない。最終的には三層になっているふたを開けて、取り出ししなくてはいけないが、実はその裏側が相当線量が高かった。技術的にも至難の業なんです。まだ、耳かきぐらいのデブリをすくって持ち上げた段階なのに、この空中工法の技術を確立して、2050年までに廃炉になんて到底できるとは思えないんですけど、みなさんいかがでしょうか。これまで「ターンキー」でやってきた東電ができるとは思えません。あっという間に100年ぐらいは経ってしまうと思います。

――国は廃炉費用などで「22兆円」と計上している。

ジョー氏  廃炉に使うお金は「8兆円」と言われていますが、絶対に無理ですよ。すでに4兆円近く使っていますから。それで現在、取り出しすらできていないんですよ。
 百歩譲って取り出せたとしても、その取り出したものをどこに置くんですか? この周辺もまだまだ線量が高いんです。「廃炉」の定義を、「原発のあった地をさら地」にするということならば、100年経っても実現しないと思います。国は、その現実を認め、廃炉以外の道を検討しないといけないと思います。

じょー・よこみぞ 1968年生まれ。東京都出身。早稲田大学卒。2017年までローリングストーン日本版シニアライターを務める。現在は、音楽を始め、社会問題に関する取材・執筆を行い、新聞、雑誌、ウェブでの連載も多数。ラジオDJとしてはInterFM897でレギュラー出演中。また、音楽、アート、社会問題を扱うスローメディア「君ニ問フ」現編集長。

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