【東スポ×君ニ問フ 特別企画】福島原発の2050年廃炉は〝夢物語〟
紙面では書ききれなかったさらなる懸案とは
6年連続で福島第一原発(フクイチ)を取材するラジオDJのジョー横溝氏。3月11日付紙面では、東京電力の掲げる2050年での廃炉がすでに実現不可能であることをリポートしたが、懸案事項はそれだけではなかった。そもそも原発が正常に稼働しなくなった原因である津波への対策にも不安が発覚。さらに先月2月13日に宮城県と福島県で最大震度6強を観測した地震が、大量のデブリ(溶け落ちた核燃料)が眠る格納容器にダメージを与えたという。紙面では書ききれなかった衝撃の事実を東スポnote特別編として公開する。(文化部・田才 亮)
福島原発を取材するジョー横溝氏(2021年2月23日撮影)
廃炉作業が「登山」なら、まだ家を出ていない!
ジョー氏によれば、東電が掲げる「2050年廃炉」はすでに絵に描いた餅だという。10年かけて達成するはずだった〝第一歩〟であるデブリの取り出しがいまだ実現できないまま。工程の遅れは厳しい現実を如実に示し、もはや東電が掲げる「2050年廃炉」に科学的根拠はないに等しい。
「(廃炉作業は)登山で例えるなら、現在何合目でしょうか?」
ジョー氏が現地で東電関係者にこう質問したところ、返ってきた答えは「家で準備を整えて、今、玄関から出ようとするぐらいです」。
「まだ、スタートラインにつく前の準備段階なんですよ。今からやっと家を出ようというところ。客観的に考えてもこれで2050年の廃炉が実現できるとは思えません」
今回、初めて取材できた3号機の側面(ジョー横溝氏提供、写真はすべて2021年2月23日撮影)
さらに東電関係者の口からは「必ずしも『工程第一主義』ではございません」という考えも示された。
「当然ですよね。廃炉作業は危険が伴う。デブリを取り出すときには、建屋の一部を壊す作業などがどうしても必要になる。そして、そのときに放射性物質が周辺地域に飛散する可能性も十分にある。それを考えると、周辺地域の理解、同意が絶対に必要になってくる。だから東京電力も反対がある中での作業は無理にはしないと言っている。2050年廃炉が現実的に無理なのは本人たちが一番よくわかっています」(ジョー氏)
前例のない事故処理をやっているだけに、不測の事態も多々起きる。途方もない時間がかかるのは仕方ないと諦めるしかないのか――。
高さが4メートル足りない「防波堤」
現在、福島第一原発では津波対策として、高さ11メートルの防波堤を作っている。これは北海道沖の千島海溝地震のリスクに備えてのもの。だが、新たに日本海溝地震のリスクが高まり、2025年までに高さ15メートルの防波堤を作らなくてはいけなくなった。
「最初から15メートルの防波堤を作ればよかったんですが、作業日程が限られている中では喫緊の課題が発生すると、そこをクリアするのが精一杯。リスクのランク付けをすると、リスクの高いものから処理していく。まぁ、発生しない可能性が十分あります。それが一番なんですが、起きないとは限らない。15メートルの津波が来ると、今の11メートルの防波堤など軽々乗り越える。こういった課題もあるんです」(ジョー氏)
海抜から11メートルの防波堤の上部
つい先日の福島県沖地震で格納容器にダメージが…
2021年2月13日、福島県沖を震源とするマグニチュード(M)7.3の地震があり、最大震度6強を観測したが、この地震が原発にも影響を与えていた。
「1号機と3号機、特に3号機の水位が下がってしまったんです。通常、デブリは冷やすしかないので格納容器に水をじゃんじゃん入れている状態なんですが、地震格納容器に開いていた穴がさらに広がって水位が下がってしまったんじゃないかと推測されています。中の様子は完全に把握できていないので、何が起きているかわかりませんが…」(ジョー氏)
今は安定状態にあるとされるデブリだが、いつ暴走してもおかしくない状態になるリスクが常にある。作業が数年で終了するならまだしも、今後何十年というスパンで作業が続くことを考えると、そのリスクも当然残る。とても「アンダーコントロール」という状況でないのは素人でもわかるだろう。
ALPSを通った汚染水サンプルをガイガーカウンターで測定する様子
ノット・イン・マイ・バックヤード
「9割以上は『グリーンエリア』と呼ばれる地域になりましたが、残りの1割弱がまだ何も変わっていない。10年間に出た放射性物質を含む危険なゴミを構内の特定の場所に寄せ集めただけで、そのゴミをどうするかという点は10年たっても何も変わってません。デブリを取り出した後の中間貯蔵の場所も決まっていません。これまでに1600億円が費やされ、最終的な廃炉にかかる費用は8兆円とも推定されていますが、除染費用と、賠償金も含めると22兆円規模にのぼると言われている。『失敗は隠蔽されていく』日本社会の構図を見るような気がしています」(ジョー氏)
原発の敷地を埋め尽くす貯水タンクの数々
最後には「東京の電力を作るために福島に原発を作った。僕たちは『ノット・イン・マイ・バックヤード』(=自分たちの裏庭以外で危険なものを作れ)自分たちの裏庭ではないところで押し付けてきた。核のゴミは未来という姿勢、周辺の人たちに負担を押し付けるという構図も変わっていない」とジョー氏はまとめた。
じょー・よこみぞ 1968年生まれ。東京都出身。早稲田大学卒。2017年までローリングストーン日本版シニアライターを務める。現在は、音楽を始め、社会問題に関する取材・執筆を行い、新聞、雑誌、ウェブでの連載も多数。ラジオDJとしてはInterFM897でレギュラー出演中。また、音楽、アート、社会問題を扱うスローメディア「君ニ問フ」現編集長。