見出し画像

頭皮がめくれてペッタンペッタン…田中将斗「笑い事やないっちゅうねん」【豪傑列伝#27】

 ゼロワンの弾丸児・田中将斗はメジャー、インディを問わず、どこのリングでも高評価を得ているレスラーだ。かつては日本人で初めてECW世界ヘビー級タイトルを奪取。ハードコア路線を得意としているだけに生傷は絶えない。旧FMW伝統の“休まない”美学を今に伝える男が経験した大惨事とは…。

FMWで江崎英治(右=後のハヤブサ)とともに大仁田厚(中)を先導する練習生時代の田中(1993年6月、岐阜・高山市)

 デビューから16年、これまで300針以上、体を縫ってきた。今でも忘れられない傷が、頭頂部に残っている。

【田中の話】今から10年以上前にハヤブサと組んで、博多スターレーンでやった、タッグのチャンピオンシップ(1998年5月27日、世界ブラスナックルタッグ選手権=対冬木弘道、金村ゆきひろ組)やった。冬木さんに机の破片で頭を殴られたんやけど、破片の切り口がカミソリみたいになってたようで、スパッと頭頂部が切れてしもた。確かに結構な流血したんで傷は深いなと思ってたんだけど、普通の切れ方じゃなくて、頭頂部の皮がスライスされたみたいにはがれてたんや。
 セコンドから「骨が見えてます! 試合を止めます」って言われて初めて気がついたけど、後で映像見たら、頭のてっぺんの皮がパカパカしとったわ。昔、アメリカ横断ウルトラクイズで帽子の解答ボタンあったやろ? てっぺんが持ち上がるやつ。まさに、あんな感じやったわ。

この一戦で、田中は頭蓋骨が見えるほどの大ケガを負った

 頭頂部の皮がめくれて頭蓋骨が見えていたにもかかわらず、そのまま試合を続行。当時、対戦相手だった金村(現キンタロー)も「あの時はビックリしたわ。皮がめくれて、ペッタンペッタンしとるのなんか見たことないから」とあきれて大笑いするしかなかった。

【田中の話】笑い事やないっちゅうねん。その後、医者に診てもらったら「これはヤバイ」って即入院させられそうになったわ。傷が骨まで達しとるから、そこからバイ菌が入って、脳ミソまでいったら「死ぬよ」って。当時のFMWは、シリーズでデスマッチとかも普通にやってたし「休むのは恥」「ケガしても試合をするのがカッコいい」みたいな風習というか美学があったんですよ。だからオレも「休みません」って試合に出てた。
 今考えるとゾッとするけどな。治療は傷口全部を縫合するんじゃなくて、頭蓋骨の上にビニールのようなものを敷いて数か所を縫って頭皮を固定しとった。後でビニールみたいなのを取り換えてた。やっぱり「死ぬよ」って脅されてるから、それからは化膿しないように必死に抗生物質を飲み続けて、何とか生き延びてるわ。

 その後は頭皮を固定するため、包帯でぐるぐる巻きにして、ラグビーで使うヘッドギアをかぶって試合を行った。

【田中の話】もう、あれだけは2回目はなしにしたいよ。オレも今年で37歳なんで、次やったら毛根が残らないと思う。髪は長い友達なんやから大事にしないといかん。今まで毛根には、相当ひどいことをしてきたと思うから、少しでも長生きしてもらうために、これからはキチンといたわってやるつもりや。

 そういえば田中は日本だけではなく、海外の育毛剤事情にも詳しい。若かりし日の大惨事を乗り越え、生き残った毛根を人知れずはぐくんでいるようだ。 

※この連載は2009年4月~2010年3月まで全33回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けします。

カッパと記念写真を撮りませんか?1面風フォトフレームもあるよ