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「ウマ娘」の暴走お姫様!8か月半のカワカミプリンセス劇場を「東スポ」で振り返る

 今週、「ウマ娘」に実装されたカワカミプリンセス。華麗で優雅なお姫様になることを夢見ながらも、親しみやすいパワフルなキャラで早くも多くのファンを獲得していますが、実際はどうだったのでしょう。エリートを次々となぎ倒し、競馬ファンをスカッとさせた8か月半のシンデレラストーリーを「東スポ」で振り返ります。まずは、「ウマ娘」の中でも距離が近いキングヘイローとの関係から…。(文化部資料室・山崎正義)

第一章

「ウマ娘」のカワカミプリンセスが、ガチお嬢様のキングヘイローに憧れているのは、ある意味、当然です。史実では、この2頭、親子。カワカミプリンセスの父がキングヘイローなんです。

キングヘイロー

 当シリーズでも紹介した通り、超良血ながらなかなかGⅠを勝てなかったキングは、6歳になってやっと高松宮記念を勝ち、種牡馬となります。何個もGⅠを勝ったわけではないので1回の種付け料金は割安でしたが、血統的には筋が通っていたので、〝お手頃種牡馬〟として生産界で人気を博しました。ただ、まだまだ日本の種牡馬界はサンデーサイレンスやその子供たちが中心で、本当に期待されている母馬はそのエリートたちの元へ。キングに嫁いできた牝馬は、言い方は悪いですが血統的には〝第1グループ〟ではなかったと思われます。ただ、「面白い存在になりそう」という声も多く、注目している人は少なくありませんでした。また、1200メートルのGⅠを勝ちながら、3000メートルの菊花賞や2500メートルの有馬記念でも掲示板に載っていたキングの適性距離が謎すぎたので(苦笑)、どんな子供を輩出するか、みんなが興味津々。で、やはり産まれてきた馬たちも適性が謎でした(笑)。ダートで走るのはある程度予測できましたし(キングの母はアメリカのダートGⅠ馬)、もちろん芝でも走りました。ただ、父親同様「どの距離がピッタリなのか」が分かりづらかったんです。初年度産駒からダービートライアルの芝2400メートルの青葉賞で2着する馬(ニシノドコマデモ)が出たと思ったら、第2世代のゴウゴウキリシマという馬は2006年1月のシンザン記念という芝1600メートルの重賞を勝ちます。

「父親が父親だからな」

「でも、早々に重賞ウイナーを出せて良かったじゃん」

 私たちファンは微笑ましく見守っていたんですが、その翌月にデビューしたカワカミプリンセスが、あんなことになるなんて、誰が予測したでしょう。

最初の顔

 プリンセスはまず、雨の中、不良馬場で行われた阪神・芝1400メートルのレースを逃げ切ります。母親の血統も地味めで、調教の動きも取り立てていいわけではなかったので9番人気。単勝33倍ですから、ちょっとした波乱です。ただ、「逃げてみたら、他の馬が馬場を苦にして追い付けなかった」「重馬場が得意な馬なのかな」ぐらいの評価で、この時点ではほとんど誰も注目していません。続く「君子蘭賞」というレースに出走したときもこんな印。

君子蘭賞・馬柱

 単勝11・3倍の6番人気。スピードが問われない不良馬場から、軽い良馬場に変わったので、プリンセス自体も戸惑ったのでしょう。他の馬についていけず、後方3番手。逃げた馬が悠々と逃げ切るような展開でもあったのですが、4コーナーを回り、外に出したプリンセスは、そこから前にいる14頭をゴボウ抜きしてしまいます。

「なんだ、この馬は…」

「よく分からんが、すごいぞ」

 はい、よく分からん強さでした。牝馬らしくスパッと切れるような優雅な差し切りではないのです。フラフラしながらも豪快な、それこそオスのような力強さ。かなりのインパクトだったので、3戦目に選んだ、オークストライアルの「スイートピーステークス」という芝1800メートルのレースに出てきたときは、さすがに印を集めるようになりました。

スイートピー・馬柱

 単勝2・2倍という1番人気は、他のメンバーが弱かったのも影響していたと思います。特に関東の人間からしたら、「ホントに強いの?」と疑うべき存在でした。初戦の逃げ切りは不良馬場に恵まれただけ。前走の差し切りはハマッただけにも見えましたし、血統的にもやはり適性が分かりません。むしろ、豪快すぎる追い込み勝ちは〝短距離の差し馬〟にも映りましたし、1800メートルへの距離延長がどう出るか分からないのです。「父キングヘイロー」というのが、迷わせる材料にもなっているのだから困りもの。というわけで、多くの人のスタンスは「様子見」でしたが、そんな中で、プリンセスはあっさり勝ち切ります。

オークスだけどスイートピーに


 ぶっちぎりではありませんが、完勝は完勝でした。で、オークストライアルを勝ったんですから、当然、オークスに向かうことになりますよね? 3歳牝馬の頂点を決める芝の2400メートル戦ですが、さあ、ここで競馬ファンはめちゃくちゃ悩まされました。何に? はい、カワカミプリンセスの扱いに、です。まず、何度も言っているように正体が見えません(苦笑)。逃げたと思ったら追い込んで、追い込んだと思ったらスイートピーステークスではスタートが悪く、ちょっと行かせたらひっかかり気味に3番手、落ち着かせているうちに7番手までポジションを下げつつ、最後は大外から差し切るという〝一人ドタバタ劇場〟とも言える内容だったのですから。

「どれが本当の姿なんだ?」

「オークスではどんな戦法を取るんだ?」

 はい、全く分かりません。強さも謎のままでした。3戦とも相手が弱いのです。GⅠ級どころか重賞級の馬とも戦っていません。

「本当に強いのだろうか…」

「相手が弱いだけなんじゃ…」

 こう疑ってしまうのが普通の競馬ファンです。で、再び登場の距離適性

「1800メートルはこなしたけど、2400メートルはどうだろう」

「スイートピーステークスのレースぶりを見るとこなせそうだけど、ムキになる気性は長距離向きじゃないよな」

「そもそも父親のGⅠ勝ちは1200メートルだし…」

 はい、とにかく「分からん」が多すぎました。こうなると、どうとでも言えるんです。

「めちゃくちゃ強いはず!」

「全然強くないはず!」

「化け物だ」

「いや、過大評価でしょ」

 記者だって分かりませんし、おそらく陣営も力を把握できなかったと思います。なので、記者の印もこんな具合。めちゃくちゃ半信半疑です(苦笑)。

オークス・馬柱

 無印の記者は、おそらくデータを参考にしたんだと思います。実はスイートピーステークスは、オークルトライアルの中では最も弱いメンバーが集まる傍流で、本番への間隔も短く、オークスの勝ち馬を1頭も輩出していなかったのです。

「スイートピーステークス組は消し」

 これが馬券的な常識でした。しかもしかも、プリンセスは2月末にデビューしてから、まだ3か月しか経っていないのです!

「3か月でGⅠを勝つわけないだろ」

「しかも、オークスだぜ」

 さあ、ここまでフラグを立てたので、もうお気づきかと思います。そう、誰もが半信半疑、買っていいのかよく分からない単勝6・7倍の3番人気というビミョーすぎる支持を受けたプリンセスは、このオークスもあっさり勝ってしまうんです。

オークス1

 中団で待機し、4コーナーでは満を持した5番手。残り200メートルを過ぎたあたりで逃げ馬をかわすと、横綱相撲で押し切りました。完勝なのですが、何と言うんでしょう、やっぱり鮮やかとか優雅って感じではないんですよね。先頭に立った後は、まっすぐ走らず、フラフラしていましたし、スパッと切れる感じでもない。ゲーム「ウマ娘」のストーリーでプリンセスが発する言葉で言えばこのあたりが一番しっくりくると思います。

「どぉおおおりゃぁああ~~~っ!」

 そう、お姫様という名前とはかけ離れた男勝りの寄り切り。「つえーーー!」とビックリしたファンは思わず…。

「うおぉぉぉぉーーー!」

 はい、雄たけびを上げました(私です)。そのぐらい、人をたぎらせる走りだったんです。

オークス・結果

 記事でも触れている〝非ブランド感〟もファンをアツくした理由。この頃は前述のようにサンデーサイレンス産駒のエリートを中心に競馬界は回っていました。そのような馬がトップ厩舎に入り、トップ騎手や外国人ジョッキーを乗せて、鮮やかに、さわやかに勝ち星を重ねていったのですが、毎年毎年それが続くので、ファンもやや食傷気味になっていたんです。その点、プリンセスは、中堅厩舎、中小生産牧場、そしてジョッキーも47歳の本田優騎手、そして父はこの時点でまだ産駒がGⅠを勝っていなかったキングヘイロー…。

「そうだった」

「こういう馬が勝つからこそ!」

「こういうスターが誕生するからこそ競馬は面白いんだ!」

 ファンは改めて気付いたんですね。エリートばかりが勝つなんて面白くない。そんな現実社会みたいな結末は見たくないから競馬を見ているんだと思い出し、ハートをたぎらせ、雄たけびを上げたのです。そして、父があれだけ苦労して苦労して、やっとのことで手に入れたGⅠを、わずかデビュー85日であっさりゲットしてしまった「庶民からプリンセスを目指すおてんば娘」(by「ウマ娘」)のトリコになりました。

「これからも応援するぞ!」

 さあ、シンデレラストーリーは第二章に突入します。

第二章

 プリンセスは牝馬3冠ラスト「秋華賞」に直行します。前哨戦を使わないぶっつけ本番は、決して常識的なローテーションではなく、懐疑的な目で見る人がたくさんいました。また、こういうときに〝非ブランド感〟はマイナス方向に振れる傾向があり、しっかりとトライアルを勝ってきた〝ブランド馬〟アドマイヤキッスに1番人気を譲ります。父はサンデーサイレンス、名門厩舎、大馬主、ジョッキーは武豊。桜花賞、オークスともに1番人気に支持されたものの2、4着に敗れ、3冠目での悲願を目指すこの馬は、ぶっちゃけ、カワカミよりもプリンセス感満点でした。印もこんな具合。

秋華賞・馬柱

 というわけで、カワカミ陣営は自信アリを公言していたものの、単勝オッズは3・6倍の2番人気。大味な競馬っぷりが、小回りの京都2000メートルに向かないのでは…という声も上がる中、スタートが切られました。プリンセスは中団に待機。おてんばな気性を何とかなだめつつ、3~4コーナーで5番手に上がっていきます。で、4コーナーを回りながらさらに前をうかがおうとしていたんですが…。

「大丈夫か?」

 ファンが心配になるほど、ドタバタしていました。騎手がめちゃくちゃ手綱をしごき、ムチまで入れています。しかも、フラフラしながらコーナーを回っているので、後ろの馬も迷惑そうだし、いつまでたってもエンジンがかかる様子がありません。本田騎手が押して押してしごいてしごいて、直線を向いたときはまだ7番手。

「ダメか…」

「無理か…」

 どう見てもしんどい手ごたえだったので、ファンも半分諦めました。でも、そこからプリンセスは伸びてくるのです。お父さんとよく似た頭の高い走りは決してカッコ良くはありません。ドタドタ、バタバタ…。

「どぉおおおりゃぁああ~~~っ!」

画像10

 短い直線を最大限に生かして抜け出した勝利寸前の先行馬をしっかりとらえたお姫様。

「鮮やかに差し切った」?

 いえいえ、文字にするとこうです。

「ねじ伏せた」――。

画像11

 その勇ましい勝利に、ファンは再び吠えました。

「うおぉぉぉぉーーー!」

秋華賞・結果

 いつの間にかこんな見出しをつけられるまでの馬になっていました。前年の三冠馬で、このレースの2週間前に凱旋門賞にも挑戦した「近代競馬の結晶」ディープインパクトの〝牝馬版〟――ディープみたいに勝ち方は鮮やかでもカッコ良くもないんですが、「結局は勝ってる」という無敵さがハンパじゃありませんでした。2戦目あたりで抱いた「よく分からんが強い」が、ずーっと続いている感じ。ついて回った〝正体不明感〟が、どこまで強いのか分からない〝底知れなさ〟につながるのですから競馬というのは分からないもので、本田ジョッキーもこうコメントしました。

「僕も理解できないぐらいの強さを持っている」

 対戦したジョッキーもこう口にするようになっていました。

「勝った馬は別格

 血統とか、ローテーションとか、展開とか、馬場とか、どんな条件も、どんなハードルも…

「どぉおおおりゃぁああ~~~っ!」

 と、あっさり乗り越えてしまう勇敢なプリンセスにファンはさらに期待を膨らませます。エリートではなく、走り方も洗練されておらず、勝ち方もスマートじゃないんですが、逆にそこに親しみを感じさせる庶民派のヒロイン誕生――

「いけるところまで!」

「このまま無敗で突っ走れ!」

 さあ、今度は年上の先輩牝馬と対決です。

第三章

 1か月後のエリザベス女王杯には前年の覇者・スイープトウショウが待ち構えていました(めちゃくちゃ個性的で面白い馬なので今度じっくり書きますね)。

06年エリザベス・馬柱

 印を見ても分かる通り、一騎打ち模様。単勝オッズはプリンセス2・7倍で、スイープが2・9倍でした。スイープトウショウという馬は前の年の宝塚記念で牡馬を蹴散らしたスーパー牝馬で、前走の天皇賞・秋でも1番人気になったほどの馬。それを人気で上回ったのですから、いかにプリンセスの強さを認め、期待した人が多かったかが分かります。その期待を、本田ジョッキーもひしひしと感じていたのでしょう。大外16番からスタートを決めると中団の外め、いつでもスパートできるポジションを確保し、3コーナーを過ぎるとGOサイン。すぐ後ろにいたスイープより先に仕掛けました。

「行け!」

 小さく声を出したファンは、秋華賞を思い出したでしょう。

「またか(苦笑)」

 手ごたえの悪さ、再び――。本田騎手が押して押して、しごいてしごいて、それでも反応しないプリンセスはいつものようにバタついていました。毎度のことながらスーッとは上がっていかず、ドタドタと走りながら4コーナーを回ります。ただ、ファンは知っていました。

「大丈夫」

「それでも伸びてくる」

「どんな時でもプリンセスは勝つ!」

 直線を向いたプリンセスに、本田騎手のムチが飛びます。ファンは確信しました。くる、くるぞ…。

「どぉおおおりゃぁああ~~~っ!」

 内に切り込みながら斜めに馬群を突き破るプリンセス。

06年エリザベス1

「いけ!」

「ぶち抜けろ!」

06年エリザベス3

 声援通り、文字通り。まさにぶち抜けたおてんば姫が女王へのゴールを真っ先に駆け抜けた瞬間、ファンは歓喜の雄たけびを上げました。

「うおぉぉぉぉーーー!」

 強い。

 強すぎる。

 強すぎました。

「最強だ…」

「史上最強牝馬かもしれない…」

 競馬場ではざわめきが起こり、ウインズではため息すら漏れるほどの強さ。地獄のような手ごたえから見せてくれる天国に、ファンの快感度もMAXだったのですが、まさかこの後、その天国が再び地獄になると、誰が想像したでしょう。審議の青ランプがともった15分後、こんなアナウンスが流れたのです。

 1位入線の16番は12着に降着――

「え?」

「は?」

 ファンも最初は何がなんだか分かりませんでした。

「16番って?」

「カワカミプリンセスじゃん!」

 そう、1番でゴールしたプリンセスが12着に降着になったのです。

「えーー!」

「うっそー!?」

 ウソじゃありませんでした。直線で内に切り込みながら斜めに走った時、すぐ後ろにいた馬の進路を妨害したとして、カワカミプリンセスは、邪魔をされた馬のすぐ下の着順となったのでした。

「バカな…」

「そんなバカな!」

 はい、私だってそう叫びました。でも、リプレイ映像を見ると…。

「これ…」

「やっちゃってる?」

「う、うん…」

「やっちまってる…」

 ファンは紙くずになった〝元〟的中馬券を握りしめ、心の中でこの日2度目の雄たけびを上げました。

「うおぉぉぉぉーーー!」

 たぎらせる女、カワカミプリンセス

 ドキドキハラハラ

 最後にズドン!

 そのレースは麻薬のように気持ち良く、シンデレラストーリーも怒涛の展開でした。

 勝って勝って勝って勝って

 盛り上げて盛り上げて盛り上げて

 もういっちょズドン!

 で、最後にドボン…

 8か月半の成り上がり劇場。1着ではありませんでしたが、最後の最後まで、常に主役は彼女でした。

「最強だ…」

「ああ、最強だな」

 ファンは目と目で合図します。

「だって…」

 口を揃えて言いました。

「カワカミプリンセスは1番でゴールしたじゃないか!

 そして、こう付け加えて、大笑いしたのです。

「やっちまったけど」

 帰り道、電車の中で笑いをかみ殺す男がいました。手にしていた新聞、カワカミプリンセスの父親欄。

「そうだよな」

「そりゃ、そうだ」

 この振り回され感。この心地よさ

「あいつの時と一緒じゃん」

終章

 エリザベス女王杯の後、お休みをもらったプリンセスは、翌年5月、「ヴィクトリアマイル」に登場します。

07年ヴィクトリアマイル・馬柱

 久々のマイルGⅠとはいえ、牝馬限定戦ですから、当然の1番人気(単勝2・1倍)。半年ぶりでも陣営は決して弱気ではありませんでしたし、何といっても〝実質無敗〟の馬です。こういう半信半疑の中、すべてのレースで他馬を蹴散らしたのがプリンセス。だから、勝負どころの手ごたえが悪いのを見ても、ファンはこうでした

「またか…」

 しかし、この時ばかりは前走のことがあるので、さすがに苦笑いも出ません。そして、プリンセスはその悪い手ごたえのまま、たいして伸びることなく10着に大敗します。

「ウソだ…」

「そんなバカな…」

 信じられない光景に唖然とするファン。ただ、久々の1600メートルに戸惑った可能性もありますし、超スローペースで後方からレースを進めた位置取りにも敗因を求められそうでしたから、続く宝塚記念に出てきたときは、ファンはびっしり馬券を買って応援しました。4コーナーで強気に先頭に立ったプリンセス。いつものように頭が高く、いつものようにフラフラしながら、牡馬を向こうに回し、勝ちにいったあの姿を私たちは忘れることはないでしょう。でも、彼女はもう、前の年の彼女ではありませんでした。

「ウソだ…」

「そんなバカな…」

 6着という結果を受け入れられないファン。アッと言う間に瓦解したカワカミプリンセス史上最強牝馬説。こう口にするファンの心情も分かります。

「これだから競馬は分からない」

「これだから馬は分からない」

 確かにそうかもしれません。一度リズムや歯車が狂った馬が、見る影もない状況になってしまうのを、私たちは何度も見てきました。そのたびに「生き物だから」で済ませてきたんです、「やっぱり分からない」と。でも、この時ばかりは私は分かる気がしました。

「ウソだ…」

「そんなバカな…」

 ファンが口にしたその状況を、プリンセスは昨年のエリザベス女王杯で既に食らっているのです。

「1番でゴールしたのに、どうして表彰されないの?」

「どうしてウイナーズサークルに呼ばれないの?」

「1番は私だよね?」

「お姫様は女王になったんだよね?」

「なのに、どうして…」

「ウソだ…」

「そんなバカな…」

最後に入れる顔

 その後、プリンセスは骨折をしたこともあり、1年ほどゆっくりと休んで傷ついた精神を癒やします。2008年秋には、後年、あの天下のクセ馬・ゴールドシップすら手懐ける(数戦ですが)名手・横山典弘ジョッキーに乗り替わり、府中牝馬ステークス(GⅢ)、エリザベス女王杯(GⅠ)と続けて2着に入りました。しかし、骨折の影響もあり、往年の爆発力はありません。

「どぉおおおりゃぁああ~~~っ!」

 結局、あの声を耳にすることができたのは2006年のみ。だからこそ、あの8か月半を、今回、伝説として語り継がせていただきました。「ウマ娘」もそうですが、私もあまりに勇ましく描きすぎてしまい心苦しいです。彼女だって夢見る乙女なのに申し訳ない…そんなオジサンの気持ちを東スポnote編集長が反映させ、贖罪として作成してくれたのが記事のトップにある見出し画像です。かわいいですよね? ピンクが似合いますよね?

 最後に、09年まで走ったカワカミプリンセスが、無事に引退し、母親になれたことを付記しておきます。きっと王子様とも出会えたでしょう。お疲れ様でした。


おまけ1 穴

 気性の激しさで知られたカワカミプリンセス。洗い場の後ろの壁を蹴って穴を開けてしまったのは有名な話です。これは、ゲーム「ウマ娘」のストーリーにも反映されており、プリンセスが校舎の壁に穴を開け、生徒会副会長のエアグルーヴに叱られるシーンがあります(苦笑)。

おまけ2 スイートピーステークス

 毎年毎年、オークスがやってくるたびにカワカミプリンセスの名前が挙がります。過去のデータを分析する記事を書く際、どうしても「スイートピーステークスからのローテーションは厳しい」となるからで、そこで必ず出るのが「勝ったことがあるのは過去にカワカミプリンセス1頭のみ」というフレーズ。恐るべしです。

お知らせ

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