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「疲労」と「疲労感」は違うものなんだって!

 先週はえらい疲れたなぁと思ったので週末にアホほど寝たんです。多分、18時間くらいは眠っていたと思います。で、アンパンマンのように元気になったかというとそんなことはなく、まだ寝足りないような気がしたのでさらにダラダラとベッドで横になっていたところ、体が凝り固まった挙句とんでもない悪夢を見ました。嗚呼、レッドカードをもらって夢の世界からの退場。まだ〝疲れ〟が残っている(気がする)のに…。

 疲労について知りたくなって『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』という本を読みました。24時間戦えるような企業戦士になりたいからではありません。先の寝すぎているにもかかわらずまだ寝たいという状況にアンビバレントを感じたからです。つまり、身体はもう寝たくないのに精神だけが睡眠を欲しているのではないか、という素朴な疑問です。

 そのカギは序章にありました。さすがは講談社が誇る科学系新書シリーズ「ブルーバックス」です。著者の近藤一博教授はこう説明しています。

 一般的に使用される用語である「疲労」には、2つの意味が含まれています。疲れたというか感覚である「疲労感」と、疲労感の原因となる「体の障害や機能低下」です。
 このうち、科学の対象としやすいのは、後者のほうです。なぜなら現在の科学はまだ、前者の「感覚」を扱えるほどには発展していないからです。「物質」を見ることでとらえられる体の障害や機能低下ならば、科学、とくに分子生物学というわれる分野が得意としているからです。だから疲労を科学として扱うには、まずは疲労感の原因となる「体の障害や機能低下」を分子を介してとらえることになります。

近藤一博『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』(ブルーバックス、2023年、16p)

「疲労」と「疲労感」は違う。これだけでなんとなく曇り空が晴れた気がしました。都合21時間寝た私の身体から「疲労」は消えていたものの、感覚である「疲労感」だけが残っていたとまずは理解することはできそうです。なお「疲労感」を数値化するのは難しくても、「疲労」の程度は唾液中のヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)を測定することで数値化が可能になるのだそうです。本当に疲れがたまってくると口唇ヘルペスが出そうになる感じ、ありますよね。

 第1章の中に「疲労と疲労感の乖離」という節があり、ストレスが疲労感を抑制するという興味深いことが書いてありました。

 私は昨年、「ストレスがあって楽しい」でもいいじゃないか」とnoteに書きましたが、それを裏付けてくれるような記述が見つかったのです。

 ストレス応答は、「闘争・逃走反応」(fight-or flight response)ともいわれ、野生の動物が天敵あるいは餌に出会った際にも生じる反応です。
 たとえば、サバンナの真ん中で草食動物のインパラがヒョウと出会ったとします。インパラは逃げ切らないと食べられてしまいますが、ヒョウだって、めったに食べ物に出会えない環境下でインパラに逃げられると餓死してしまいます。
 お互いに文字通り、必死で逃げ、必死で追いかけることになりますが、このような場面では、「疲労感」による行動抑制は死に直結します。そして非常に役に立つのが、ストレス応答によって疲労感を抑制するシステムです。おそらくこのような場面を通じて、HPA軸というストレス応答が進化してきたのではないでしょうか。

近藤一博『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』(ブルーバックス、2023年、54p)

 原稿の締め切り時間に追い込まれても最終的に何とかなる(=何とかしてしまう)のはまさにこの状況ですね。ただし、疲労感は抑制されていても疲労そのものは蓄積されているので過労死しないように注意が必要なのだそう。

 この本は非常に面白く、特に近藤教授が、病的疲労の引き金ともなるうつ病の原因遺伝子「SITH-1(シスワン)」を発見するまでの道のりはエキサイティングですらあります。しかも、人をダークサイドに落とすところが似ているという理由で、映画「スターウォーズ」のシスの暗黒卿がSITH-1の由来になったなんて!!!

始球式に登場したダースベイダー(2013年6月)

 ……と、まだまだたくさん書きたい気持ちはあるのですが、疲労がたまるとアレなので今回はここいらでドロンします。(東スポnote編集長・森中航)


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