ハンセンの振り回すブルロープがオレに直撃!意外な展開に…【ターザン後藤連載#3】
不沈艦スタン・ハンセンは「悪ガキ」だけど、意外にも小心者なんだ。
オレが全日本プロレスで外国人係を任されている間に、ハンセンはいろいろなことをやってくれた。移動のバスで水鉄砲を乱射して全員を“射殺”。それだけでは飽き足らず、窓を開けて信号待ちの車に発砲し、驚く運転手の様子に喜んでいたよ。子供としか言いようがないだろ。
そんな素顔を知っているから、試合の時とのギャップには驚かされる。目の色は違うし、暴走は誰にも止められない。20分以上も戦って「ウイ~ッ」を決めて、息ひとつ乱さず引き揚げてくる。まさに不沈艦だ。
だが、不沈艦も試合で「素」に戻ったことがある。ハンセンを先導しながら、花道にはみ出たファンをかき分けていると、ハンセンの振り回すブルロープがオレに直撃。アノ馬力でひっぱたかれたんだから痛みは半端じゃない。振り向いてみると、なんとハンセンが心配そうな顔で寄ってきて「アイム・ソーリー」って謝ってきたんだ。
「アレッ」って感じだ。オレを見つけると「バッグ持ってこい」だの、偉そうに命令ばかりしてくるもんで、ずっと「イヤな野郎だ」と思っていた。打ち解けた証しなのか、シリーズの最終日になって「ミーたちガイジンは、後藤にサンキューだ」と言ってくれた。
それからは面倒をみる気になったが、どうしても変わらないことが一つだけあった。
乱闘を止めに入ってえじきにされることだ。キツイ。体がデカイっていうだけで、何発ウエスタンラリアートを食らったことか…。ハンセンからラリアートの極意を身をもって学べたのはありがたいが、おかげで記憶喪失になっちまったこともある。全部の記憶を取り戻すのに1年かかったんだけど、あの時は本当にヤバかった。
記憶喪失に追い込んだ本人に「あなたは誰ですか?」
ホテルに帰ったことも鶴田さんとメシを食いに行ったことも覚えていない。夜中に鶴田さんの部屋に行って「洗濯物はありませんか」と繰り返し、馬場元子さんに「明日は何時に出発ですか」と、何度もやったらしい。
翌朝になって「早く中学に行かなきゃ」と鶴田さんのリングシューズを磨いていると、周りにクスクス笑われて「あっ、オレはプロレスラーなんだ」と少しは記憶が戻ってきたが、先輩の格好のネタにされてしまった。
オレの状態はハンセンの知るところとなり、すごく心配していたようだった。
先輩たちはそこにつけ込んで、オレに「ハンセンを見ながら指をさして首をかしげろ」とたきつけてきた。記憶喪失に追い込んだ張本人に向かって「あなたは誰ですか」というポーズを取るキツ~イいたずらだ。
先輩の命令は絶対だから、オレはハンセンの目の前で実行するしかなかった。すると、ハンセンの顔からどんどん血の気がうせてガックリと落ち込んでしまった。その日の試合も元気なかった。悪いことしちまったな。
最近では馬場さんの七回忌興行(2005年2月5日、日本武道館)で再会したが、すっかりやせてケンタッキー・フライドチキンのカーネルおじさんみたいになってて非常に残念。一度、戦ってみたかった。もちろん、乱闘抜きのちゃんとした試合で。