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母インリン様が卵を出産!爆発音とともに孵化し、娘ニューリン様が爆誕した夜【ハッスル連載#2】

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ハッスルが提供するエンタメと一般大衆が無意識に待ち望んだピースがピタリと一致した2005年

「ハッスル・マニア2005」の爆発力は奇跡的なものだった。狂言師・和泉元彌が「空中元彌チョップ」で元WWEのスーパースター、鈴木健想をフォール。ハードゲイ・HGは股間でグイグイ絞め上げるHG三角絞めでインリン様を絞め落とし、掟破りの「逆M字固め」で3カウントを奪い「フォー!」は流行語にもなった。和泉はワイドショーで一躍、脚光を浴びた。事前からの発表や会見までを含め、制作側の意図がズバリ的中した感が強い。

後世に語り継がれている空中元彌チョップ(05年11月、横浜アリーナ)

 ハッスルが提供するエンターテイメントと、一般大衆が無意識のうちに待ち望んでいたピースがピタリと一致した。それは偶然の産物だったのか、必然だったのかは、今でもよく分からない。しかしリング上のパフォーマンスと観客の欲求が、奇跡的かつ爆発的な化学反応を起こし、異様な熱狂を起こしたことだけは間違いない。

インリン様の顔面に股間をゴリゴリと押し付けるHG(05年11月、横浜アリーナ)

 選手層も固まった。同大会でミスタープロレス・天龍源一郎もハッスル軍に加入。大谷晋二郎も〝ハッスルあちち〟としてキャプテン・小川を支えた。翌年2月のオーディションでは、元WWEのTAJIRIがサプライズ登場を果たし合格、入団したことも大きかった。

TAJIRI、HG、大谷晋二郎が揃ってフォーのポーズを決めた(06年3月、後楽園)

  アジャ・コング扮する乙女キャラ・Ericaもハッスル女子軍で異様な存在感を放ち、メンバーは厚みを増した。そして高田総統のスキットも一気に面白さを増し、全試合終了後の「高田総統劇場」がメインとなる場合も多くなった。ここに毎大会芸能人やご当地キャラが参加するのだから、観る側はもうお腹がいっぱいになった。この時期がハッスルの「黄金時代」だったのではないか。

 インリン様が産んだ「卵」が重要な意味を持つことに…

 ここから高田モンスター軍とハッスル軍の抗争はインリン様とHGの争いに発展するかと思いきや、ハッスルは次々に新たなアイディアをリング上で展開していく。同年12月25日後楽園ではインリン様が「マニア」の敗戦で「M字パワー」を失ったことを理由に引退を表明。最後のM字ビターンを披露し、自らが出産したという卵を高田総統に預け、涙ながらにリングを後にした。このが後に重要な意味を持つことになる。ここでもう訳が分からない方は、ここから先、もっと話がややこしくなるので覚悟していただきたい。

インリン様が産んだ卵を手にする高田総統(05年12月、後楽園)

 リング上は元ゲイシャガールの鈴木浩子(現ひろ子)GMと夫の健想による鈴木一家の独裁が始まっていたが、3月には「HGの寄生虫」「ハッスルのふんころがし」と呼ばれた「つまらない芸人の見本」であったRGが、まんまとGMの座を手中にしてファンをムカつかせた。今でもテレビでRGの芸を見ると、当時を思い出して腹が立って仕方がない。

鈴木浩子(右)から新GMに指名されたRG(06年3月、名古屋)

 さて、卵はそんな現状を笑い飛ばすように生命体の常識を覆して、どんどん大きく成長し、高さ2㍍幅1・5㍍まで巨大化。06年4月20日の大阪でついに巨大な爆発音とともにふ化。中から出てきたのはインリン様の娘・ニューリン様だった。ほとんど全裸に近いボンテージ風のコスチュームで、顔の傷を隠すような半マスク。母親よりも凶暴さを増したファイトスタイルだった。

卵が割れてニューリン様が現れた(06年4月、大阪)

 インリン様の娘は新たなスターとなり、モンスター軍とハッスル軍の5対5サバイバルマッチ大将戦では、前年大みそかの吉田秀彦戦で左足首を骨折してからハッスルのリングは約半年ぶりとなるキャプテン・小川直也から「卵マヒストラル」で3カウントを奪う大殊勲を挙げた。モンスター軍は一気に勢いを取り戻す。

 たたみかけるように4月23日には6月17日「ハッスル・エイド」(さいたまSA)に巨乳タレントのカイヤの参戦が決定。キャプテン・小川と組んでジャイアント・シルバ、ジャイアント・バボとの激突でプロレスデビューを果たすことになった。大会翌日にはフジテレビ系列で待望の全国放送も決定。いよいよハッスルは「第2次黄金期」を迎えようとしていた。

 大ピンチをチャンスに変えるべく、エスペランサー降臨!

 だが6月5日にフジテレビが、PRIDEとハッスルを運営しているドリームステージエンターテインメント(DSE)との契約を一方的に解除するというまさかの展開が訪れる。その余波により全国放送は中止となったものの、関係者の努力で「ハッスル・エイド」は無事開催にこぎつけ、全日本プロレスの3冠王者・小島聡も登場を果たした。注目のカイヤはシルバのジャイアントプレスに沈み、涙ながらにプロレス再挑戦を誓った。

カイヤが参戦、奥はジャイアント・バボ(06年6月、さいたま)

 大ピンチをチャンスに変えようとするハッスルは同大会で、まさかのキャラクターを降臨させた。高田総統の戦う化身であるザ・エスペランサーである。総統のハイパービターンによって割れた「タマアゴ」(細かい説明は省略)から出てきたエスペランサーは2002年11月に引退した髙田延彦氏のテーマ曲「トレーニング・モンタージュ」に乗って登場。TAJIRIを左ハイキック一撃で失神させた。ある意味、ハッスル最後の「切り札」だった。その後、エスペランサ―は「ここ一番」で降臨してハッスル軍を恐怖のどん底に叩き落す「ファイナル・ボス」的存在となった。

エスペランサ―が登場、手前は小川(06年6月、さいたま)

 逆転に次ぐ逆転。どちらかが優位に立てば、一方は新たな策に打って出る。8月8日後楽園では「反抗期」に入ったニューリン様がモンスター軍に反旗を翻すと、HGが救出。ニューリン様はまさかのハッスル軍入りを果たした。この時期、記者は「奇跡の親娘対談」と題し、母インリン様と娘ニューリン様の対談記事を書いている。今、考えても相当ムチャな企画だったと反省しています。

平塚記者がムチャだったと振り返る対談記事は終面を飾った

 怒った高田総統は、年間最大のイベント「ハッスル・マニア2006(11月23日横浜)に降臨。ハッスル軍にニューリン様、モンスター軍にカイヤを加えた6人タッグ戦でハッスル軍が勝つと、レーザービターンでニューリン様の胸を直撃して破壊。乳輪を喪失させてしまった。メインの一騎打ちではHGを右ハイキックでKOされて戦闘能力(ファイティング能力)を喪失してしまう「FED」なる症状に陥れてしまう。

ニューリン様をビターンで倒すエスペランサー(06年11月、横浜アリーナ)

 同大会ではハッスル解説席の花だったタレント真鍋かをりの妹分・海川ひとみが、ジャイアント・バボとプロレスデビュー戦を行うも、鼻骨骨折、顔面外傷などで全治1か月の重傷を負うアクシデントで、異例のカラー面を飾っている。ちなみにHGはこの年の東京スポーツ新聞社制定「プロレス大賞」新人賞を獲得した。

アイドルの顔がとんでもないことになってしまった
街中でジャイアント・バボに襲われた海川ひとみ(06年12月、都内)

 明らかに〝異分子〟だったハッスルは、自らプロレスの本道に浸食していった感が強かった。年内最終大会の12月26日後楽園には〝帝王〟髙山善廣が初登場。性悪男・鈴木みのるとコンビを結成して新GMの坂田亙、崔領二組を対戦。みのるがゴッチ式脳天砕き勝利した。その一方で、同大会では芸人の江頭2:50がプロレスデビューを果たしている。

江頭2:50と川田利明(06年12月、後楽園)

 プロレス関係者から多くの批判を受けながらも約2年間、全力で疾走を続けてきたハッスルだが、2007年は短い〝休息期間〟に入る。3月18日名古屋大会で幕を開けることが決まっていたが、それまでの2か月半、ハッスル軍は活動休止を決定。キャプテン・小川はハッスル星へと武者修行に旅立った。ハッスル星がどこに存在するのかは今もって謎だ。

  加えて「ハッスル・マニア」でエスペランサ―により「FED」に陥ったHG、意識不明の重体から回復したニューリン様も長い旅に出ることを表明したのだ。旗揚げからノンストップで疾走してきたハッスルが、初めてアクセルを緩めた時期だった。(文化部専門委員・平塚雅人)

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※#3は次週公開予定です、お楽しみに!

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