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レイ・ミステリオ「619」のルーツは意外にも日本にある【WWE21世紀の必殺技#2】

 好評連載の2回目は「誰のどの技を」ノミネートするか悩んだが、やはり現在のWWEを代表する必殺技といえば、レイ・ミステリオの619(シックス・ワン・ナイン)。これに尽きる。

 会場を埋めた観客全員が「いつ出るか、いつ出るか」と胸をドキドキさせながら619を待つ。いつの世も、プロレス必殺技の神髄はこの胸ドキドキにある。

 1人のレスラーが複数のフィニッシュホールドを持つのが当然になった今、観衆の興奮が一斉にクライマックスを迎える場面が激減してしまっている。力道山の空手チョップ、馬場の16文キック、猪木の卍固め…。あの時に我々が感じた“エクスタシー”を最もリバイバルさせてくれるのが、身長160センチに満たないミステリオなのだから、プロレスの奥は深い。

ロープの間をアクロバチックに動き回るミステリオ(VSチャボ・クラシック)

 さて、まず技の名称であるが、これはミステリオが住んでいるバハ・カリフォルニア州ティファナの市外局番。東京なら「03」大阪なら「06」名古屋なら「052」のアレである(03年夏のWWE神戸公演で、ミステリオのタイツには「078」の縫い取りがあったが、あれには笑った)。

 ロープの反動を使ったタックル系の技に出ようとする相手の突進をスカし、セカンドロープに激突させる。ロープにグッタリともたれかかってひと息入れようとする相手を確認したミステリオは、素早く対角線のロープに飛び「おっ、後頭部へのドロップキックか」と思わせる(相手にも、観客にも)。

 ここがこの技のミソだ。サッと相手の右側にスライドしたミステリオは、トップロープとセカンドロープの間を潜るように相手の顔面を両足(の甲)でキックする。パーン!と顔面を蹴られた相手が、ポップコーンのようにリング中央にはじき倒されるところで、観客の興奮はピークに達する。

 相手が巨大であればあるほど、ファンの歓声は大きく、ビッグショーに決めた場面(最近では2005年11月のエディ・ゲレロ追悼興行)では場内全員が総立ちだったほど。この技でピンフォールの体勢にいくこともあるが、大抵はスワンダイブ式スプラッシュへとつないでフィニッシュしている。

 この技のルーツは、意外にも日本にある。1980年代前半、初代タイガーマスクが使っていた動き(名称はなかった)で、場外に落ちた相手にトペ・スイシーダを直撃すると見せかけ「相手に読まれてるかも」と判断した時にトップロープとセカンドロープを使ってクルリ、と体をリングの中に戻していた、あのトリッキーなムーブである。

横浜大会ではしっかり「HELLO 045」のタイツだった

 ミステリオが20年以上も前の日本のビデオを見て研究したとは想像しづらいが、ひょっとしたらメキシコのレンタルビデオ屋で借りたビデオがルーツだったかもしれない。先の横浜アリーナでは、619の横浜バージョン「045」がサク裂した!

流 智美(ながれ・ともみ) 1957年11月16日生まれ、茨城県水戸市出身。プロレス評論家。『ルー・テーズ自伝』、『門外不出・力道山』、『猪木戦記』、『馬場戦記』、『日本プロレス歴代王者名鑑』など、昭和プロレス関連の著書多数。

※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。


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