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1周回って…「締め切り」があることの尊さよ

8月も残すところあと10日、夏休みの宿題にまったく手をつけていない人のお尻に火がつくころです。なにしろ子供たちの夏休みは長~いので、無限に続くような錯覚に陥るのも無理はありません。とにかく8月31日までに、何なら今年は幸いにも9月1日が日曜日なので、9月2日朝という「締め切り」までになんとかすりゃいいのです!

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「締め切り」直前が一番苦しいことは大人も同じです。文豪と呼ばれる人たちでさえこんな叫びを残しています。

【書けない原稿/横光利一】私は頼まれると、一応頼まれたものは引き受ける。が、殆どそれを実行することが出来ないで不義理をかける。こんなことはあまり前にはなかった。が、天候が身体に影響し始めてからは、殊にそれがひどくなつた。私は頼まれたものは一応その人の親切さに対しても、引き受けるべきだと思ってゐる。が、引き受けた原稿は引き受けたが故に、必ず書くべきだと思ってゐない。何ぜかと云えば、書けないときに書かすと云ふことはその執筆者を殺すことだ。執筆者を殺してまでも原稿をとると云ふことは、最早やその人の最初の親切さを利慾に変化あさせて了ってゐる。

『〆切本』、左右社、2016年、52p

【作者おことわり/柴田錬三郎】
私の机の上には、ペンと原稿用紙と古びた参考書と莨と灰皿と、睡眠剤と新刊雑誌類があるのですが、こういうニッチもサッチもいかない、追いつめられた状況になると、それらを、ぱっと払いのけて、狂人のごとく喚きたてたい衝動が起って来るのです。

前掲書、348p

とても、とてもつらそうですね。


では、毎日原稿を書く新聞記者はどうでしょうか?
小説のように創作という苦しみはないものの、振り返ってみると、私も記者になりたてのころはしんどかった記憶があります。しかし、それは原稿を書き終わらないことによるものではなく、そもそも書くネタがない(=取材が十分でない)という苦しみ。ネタがない(もしくはネタが極端に貧弱な)ままデスクに報告の電話をかけると、「あぁ、そう。何してたの?」「ふーん」と冷たくあしらわれて、ぴえん(スタートラインにすら立っていないので仕方ありません)。

それでも少しずつネタの報告ができるようになると、「じゃあ30行書いて」とか「60行くらいでまとめられる?」「1終用(=一面か終面のいわゆるトップ原稿)に書いて」と指示をもらえるようになり、そんなことを毎日繰り返していると、いつの間にかそれなりに書けるようになっていたのでした。ごくまれに筆が進まないこともありましたが、毎日が締め切りの新聞社で過ごしていると、おのずと締め切り耐性が身につく、あるいは締め切りに麻痺するのやもれしれません。

そして今の私はというと、「締め切りがない気楽さより、締め切りがあるありがたさ」と痛感しています。「こいつは何を言ってるんだ?ドMなのか」と訝しく思う方もいるでしょう。ちょっとだけ私の愚痴にお付き合いいただければと思います。

2021年に東スポnoteが始まって以来、今日まで185週連続で毎週水曜日更新を続けられたのは、ひとえにモーニング娘。24‘の石田亜佑美さんのコラム連載があったからです。あゆみんの原稿をきちんとファンに届けなければ!お昼までになんとかしなければ…という「締め切り」が間違いなく私の原動力でした。復刻シリーズを含め、6月にあゆみんの「締め切り」がなくなると、緊張の糸が切れて、なんかもう、どうでもよくなりました(苦笑)。「今まで頑張ったんだから、これからはあまり無理して毎週更新しなくてもいいんじゃない」とアドバイスをくれた先輩もいました。

思いがけず目頭が熱く…はなりませんでした。無理せず継続することも大切ですが、人はだいたい無理をするから何かを続けられるのです。「締め切り」があるから何かを成し遂げられるんじゃないかと思ったのです。1周回ると「締め切り」は尊いのです。人生の最後だって「締め切り」です。

この間、動画制作の仕事をしている若者(20代)とこんな会話をしました。

私「ショート動画でも週5日もアップしてクオリティー維持するのって大変じゃない?」

若者「まぁ、そうですね。正直、クオリティーにばらつきは出ちゃいます。でも、出さないよりはマシなんです」

私「なんでなんで?」

若者「だってサボって休んだら結局、暇だなぁ~とかなって、何もしないで他の人が作った動画見てるんですから(笑)。だとしたら自分たちが決めた週5日のために動画作ってたほうが良くね?って。バカにされても作ってたほうが経験値上がるじゃないっすか」

私「自分で自分のお尻叩けるのエライ!」

東スポnote編集長(ひとりしかいないけど…)という立場では、編集長特権で「締め切り」を延ばすことも、「書くのや~めた」と企画そのものをなかったことにすることも簡単です。誰にも怒られません。でも、まだ屍になりたくはない。こうして「締め切り」をネタにしても何かしらを書くことはできるんだから書くしかない。デビュー45周年の越中詩郎さんが「まだまだやってやるって!」と言っているのですから、私だってまだまだ、書いてやるって!やってやるって!!(東スポnote編集長・森中航)


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