最近麻雀に姿を見せないジジイに「まさか…」の声
ジジババだからこその麻雀模様。ジジババだからこその会話。各地のマージャン教室や大会に参加している「雀聖アワー」福山純生氏つづる前代未聞の麻雀コラム。今週は…。
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東1局
「あの人、最近来ないわね」
常連の姿が見えないと、ふとしたときに話題に上る。若い世代の常連なら「忙しいんじゃないの」なんてひと言で片付く。だが年齢を重ねてくると、常連の姿が見えないことの意味合いが変わってくる。
御年79。郊外の山中でひとり暮らしをしている善二郎ジジイ。毎週泊まりがけで麻雀大会に参加しては、駅前のビジネスホテルのサウナがいいだの、泊まるたびにポイントが貯まるだの、聞いてもいないのに説明してくれる。口癖は「ワシが来なくなったら、山奥で孤独死していると思ってくれ」。声がデカイので、いるかいないのかはすぐにわかるのだが。
そんな善二郎がパッタリと大会に来なくなった。ある日、御年80のバアさんのつぶやきで会場は騒然となった。
「そういえば最近、善二郎さん来ないわね。サウナが好きだって言ってたから、ポックリいっちゃたのかしら⁉」
「いや、まだ生きてると思うぞ。だって死亡広告欄に出とらんぞ。ワシは毎朝チエックしてるから間違いない」
1か月ほど姿が見えないだけで、ジジババたちはこぞって好き勝手なことを言い始めた。
それから1週間後。善二郎が現れた。「あんたサウナで死んだんじゃなかったの!」。御年80のバアさんが開口一番に言った。
声を張り上げる善二郎。「勝手に殺すんじゃない! 福引で当たったお遍路巡礼ツアーに出かけていただけだ。ワシは死んじゃいない!」。頭に血が上ったせいもあるが、実に血色のいい顔色をしている。
「ちょっと来なかっただけで、死んだことになったらたまらんわ!」
自分で言っていたような気もするのだが…。いずれにせよ、それ以来、善二郎はまた毎週欠かさず大会に来るようになった。勝手に死んだことにされたのが、ことのほか心外だったようである。
東2局
ドラの切りどき――。麻雀に興ずる皆さんも、悩まれることが多いのでは? 使い切れたら嬉しいが、使えそうにない場合はどの時点で手離すのか。たまに第1打で誤って切ってしまってから「しまった!」なんて声を上げるジジババはさておき。
御年87。雀歴70年。戦後ニッポンの高度成長期を、商社マンとして世界を股にかけてきたジジイ。ニューヨークとシンガポールには雀荘があったと嬉しそうに話すほどの好きモノである。
南4局。いわゆるオーラス。点差は拮抗し、卓上には緊迫感が渦巻いていた。ドラは中。13巡目。親番の元商社マンジジイの手牌は、中を1枚抱えたまま、タンヤオピンフのイーシャンテンになった。ジジイの下家は索子のホンイツテンパイ。対門は四暗刻テンパイ。上家は筒子のホンイツ七対子テンパイ。
元商社マンジジイ、しばし逡巡。その時の思考は、以下だったそうだ。
「テンパイしたらドラを切ろうか。イーシャンテンの今、ドラを切ろうか。いやでも待てよ。場にはまだ1枚も中は出ていない。ということは、全員が中を1枚ずつ持っていて困っているかもしれない。いっそのこと、みんなをラクにさせてあげよう」
自分に都合良く考え、中を切る決断した元商社マンジジイ。場に放たれた中。3人から一斉に声がかかる。
「ロン」
「ロン!」
「ロン!!」
ジジイ以外全員、中単騎待ちに手牌を組んでいたのだ。頭ハネというルールだったので、アガれたのは1人だった(南家のホンイツドラドラ)が、奇跡的な振り込みに、ジジイは顔を引きつらせながらひと言。
「みんなをラクにさせようと思ってね。満貫か。そっちはホンイツ七対子ドラドラで跳満。おっとあんたは役満か。ってことは、一番安いところに打てたな。ワシは交渉上手だったな!」
転んでもただでは起きない。商社マンとして身につけた交渉術との関連性は、あまりない気はするのだが。