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高山善廣「人間は殴られたら殴り返したくなる生物なんだよ」【思い出したくない恥バウト/最終回】

 帝王・高山善廣が選んだ「最低試合」は「PRIDE18」(2001年12月、マリンメッセ福岡)でのセーム・シュルト(オランダ)戦だ。1R3分9秒、壮絶なKO負けを喫した背景に何があったのか――。

シュルト戦を希望したのはオレよりデカかったから

 恥ずかしいと思った試合はあまりないんだけど、この試合は今見ても笑っちゃうね。

今や伝説となったシュルト(右)と高山の打撃戦。敗れてなお男を上げた

 もともとシュルト戦はオレの方から希望したんだよ。理由は単純にオレよりデカかったから。それに強かったしね。普段、オレが戦う相手は頑張っても目線が同じか、下のヤツばかりじゃない。オレが相手を見上げながら戦ったらどうなるのかと思ったんだよね。

 お客の立場から考えても興味あるだろうと思ったし。やっぱりオレたちは本気で戦っている姿を見てもらってナンボの商売だ。

 作戦は最初から決まっていた。向こうは打撃のエキスパートだから、打ち合うのは危ない。組みついて寝かせるしかない。ずっとそういう準備をしてきた。

 いざ試合だ。序盤は悪くなかった。うまく懐に入って、グラウンドに持ち込めた。でも、すぐに三角絞めで切り返されて、そのまま顔をボコボコと殴られた。これが運の尽きだった…。

頭にきて〝対策〟が全部吹っ飛んでしまった

 頭にきて、せっかく積んできた対策が全部吹っ飛んじまった。しかも、向こうが「立って来い」みたいなジェスチャーをしたから、なおさらだ。ここからはもうガキの喧嘩だね。

 オレの頭の中にあったのは「何としてもアイツの顔をブン殴ってやりたい」ってことだけだ。大人げないねえ(笑い)。スタンドで勝負したって勝ち目はないのにね…。身長だって向こうの方が16センチも高いし、リーチも30~40センチは違う感覚だった。

 それでも、殴りたくて前に出た。空手家の拳は硬かったよ。アゴを打たれると三半規管をやられるから額で受けたんだけど、頭蓋骨が割れるかと思った。

 結果的にパンチは全然当たらなかった。でも、圧力をかけていたら一瞬だけイヤがる顔をした。その時のオレにはそう見えた。そして「よし、いける!」と思った次の瞬間、オレの目の前は真っ暗になってしまった…。気がついたら(マットに描かれた)スポンサーのロゴマークがあったよ。人間は殴られたら殴り返したくなる生物なんだよ。

お互いに首を決めてひたすら殴り合った高山(右)とフライ(2002年6月)

 またアイツと戦うことになったら? 前回と同じで手堅い戦法を立てる自信はあるけど、その通りに試合をする自信はない。反省していたらシュルト戦の後、ドン・フライとあんなバカみたいに殴り合ってないよ(「PRIDE21」=02年6月)。つくづく学ばない男だねえ、ガッハッハ。

※この連載は2009年4月から10月まで全14回で紙面掲載されました。東スポnoteでは写真を増やしてお届けしました。


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