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リベンジで膨らんだ夢 アニメ「ウマ娘」で描かれた天皇賞・春と直後の空気感を「東スポ」で振り返る

 第9話の前半、キタちゃんことキタサンブラックとダイヤちゃんことサトノダイヤモンドが旅に出ました。舞台となった房総の美しさを見事に描いた作画にまずは拍手! レースについては当時の紙面と写真を使ってしっかり振り返っておきましょう。(文化部資料室・山崎正義)

阪神大賞典と大阪杯

 まずは冒頭で〝結果のみ〟のみの扱いだった2レースを。サトノダイヤモンドの古馬始動戦となった阪神大賞典はこんなメンバーでした。

 相手になるのはアニメでもおなじみのシュヴァルグランぐらいですから、単勝1・1倍も当然で、当然のように楽勝します。

 一方、キタサンブラックが始動戦に選んだ大阪杯は、この年からGⅠに昇格しました。メンバーはご覧の通り。

 キタちゃんの他に重い印がついているのは前年のダービーでサトノダイヤモンドを破ったマカヒキ。秋に挑戦した凱旋門賞は敗れましたが、年明け初戦(3着)をひと叩きして調子を上げていました。もう1頭はアニメでもおなじみのサトノクラウン。前年暮れに香港でGⅠ馬となり、始動戦の京都記念でマカヒキ以下を一蹴し、本格化気配を漂わせていました。単勝オッズは…

 キタサンブラック 2・4倍

 マカヒキ     3・8倍

 サトノクラウン  4・6倍

「1強」まではいかない数字です。しかし、結果は「1強」でした。ハイペースで逃げた馬は早々に交わして先頭に立ち…

 楽々と押し切ったのです。アニメでは結果を報じる新聞に「横綱相撲」とありましたが、まさにその通り。レース後の武豊ジョッキーのコメントはこうでした。

「残り500メートルくらいから後ろを待たずに。300メートルくらいで先頭に立てれば、と思っていた」

 300メートルは楽にしのげる、という意味です。そのぐらい手ごたえを感じていたのでしょう。さらに…

「久しぶりにパドックでまたがって、さらに大きくなったと感じた」

 そう、前回のnoteで書いた通り、管理する清水久調教師が課した坂路1日3本乗りをはじめ、調教の負荷を上げていったキタちゃんはさらに大きくパワーアップしていました。この日は過去最高体重の540キロ。デビュー時は510キロですから30キロも増えたことになります。見てください、この雄大なフットワーク

 そしてこのムキムキの筋肉!

「やってきたことが間違いでなくホッとしました」という清水トレーナーにも拍手を送りたいです。これも前回書きましたが、年度代表馬になった馬をかわいがることなく鍛え抜き、さらに強くしたのですから。

世紀の一戦

 進化を遂げたキタちゃんと、阪神大賞典後、ルメール騎手が「楽に勝てた。次はもっと良くなる」と話したダイヤちゃんが有馬記念以来、再び相まみえた天皇賞・春。週の頭、月曜から本紙の1面は完全に2強対決です。

 あの週は盛り上がりました。2頭とも順調、そして絶好調。印はこんな具合。

 人気馬を負かせる馬を探すのが好きな本紙ですと、シュヴァルグランや日経賞を勝ってきたシャケトラにも◎がついていますが、他紙はもうちょっと2強に印が集中していました。単勝オッズがそれを物語っています。

 キタサンブラック  2・2倍

 サトノダイヤモンド 2・5倍

 シャケトラ     9・9倍

 シュヴァルグラン  12・0倍

 わずかにキタちゃんが上にいった理由は以下の通りです。

「サトノダイヤモンドは阪神大賞典の前半で少し掛かったため、気性的に長距離への不安が残っていた」

「管理する池江調教師も『距離適性を少し超えている』と語っていた」

「馬場がいい天皇賞・春で不利とされる外枠(8枠15番)に入り、対するキタサンブラックは内枠(2枠3番)だった」

 つまりは「距離適性」「枠順」。その分の0・3。このあたりはアニメでは描かれなかったので、しっかりフォローさせていただきましたが、レースはアニメ通り。勝負所の3~4コーナーで、大逃げを打ったヤマカツライデンという馬を目掛けてダイヤモンドが位置を押し上げていったものの、2番手を走っていたキタサンブラックは焦らず、それでいてしっかりとペースを上げながら先頭に立ち、後ろに追いつかれることなく、押し切りました。

 結果的には「2強」という言葉もかすむ独壇場。1000メートル58秒3という長距離とは思えないハイペースで逃げた馬を自らつかまえにいき、4コーナーを回りながら加速していったのですから、その強さとスタミナはアンビリーバブルでした。武豊ジョッキーはレース後、こう話しています。

「最後は各馬が一杯になるタフなレース。ブラックも最後は一杯になったけど、この馬にしか耐えられないレースだった

「並外れた身体能力がなければなし得なかった」

 絶賛です。ライバルたちも脱帽でした。まずはルメール騎手。

「しょうがない。内枠だったら2着はあったと思うけど、キタサンは強すぎた」

 続いてダイヤモンドを管理する池江調教師。

「相手が強すぎました。二つも三つも四つも五つも上でした。枠が内でも勝つのは無理だったと思う」

 ダイヤモンドに競り勝ち、2着に入ったシュヴァルグランの福永祐一ジョッキーも「相手が強かった」と話しました。着差は1馬身4分の1でしたが、見た目以上に差を感じたということでしょうが、数字の裏付けもありました。アニメで描かれた通り、10年ぶりにレコードタイムを更新したのです。ちょっとじゃありません。

 0・9秒も!

 しかも、前レコード保持馬は近代競馬の結晶…

 ディープインパクト!

 あの背中にいた武豊ジョッキーもビックリでした。

「ディープインパクトのレコードはしばらく更新されないと思っていたけど…」

 続けて、キタサンブラックの強さに改めて言及。

「昨年、初めて乗った時(大阪杯2着)よりもはるかに強くなっている。今年の2戦は非常に強さを感じた」

 そして、最後に付け加えました。

「いろいろな選択肢があるけど、その中にフランスも入っている

 というわけで天皇賞・春翌日の本紙1面はこうです。

 サトノダイヤモンドが凱旋門賞出走を明言していたのとは裏腹に、キタサンブラック陣営はもともと凱旋門賞を口にしていませんでした。年明けから、まずは春3戦(大阪杯、天皇賞・春、宝塚記念)をしっかり走り切るという目標を掲げ、オーナーの北島三郎さんも「ブラックは我が子のようなもの。知らないところに行ってつらい思いはさせたくない」と話していました。ただ、徐々にトーンが変わってきます。特に武豊ジョッキー。大阪杯の後でした。

「一つひとつ無事に次に行ければ、その先の大きな夢につながると思います」

 それが海外を指しているのは明らか。そのぐらい手ごたえを感じ始めていたところに、今度は天皇賞・春の驚異的な強さ…そう、年明けには誰も予想していなかった領域にキタサンブラックは到達していたのです。

 世界を目指せるほど

 名手が「フランス」という言葉を口にするほどに

 これには北島オーナーも揺れました。

「ブラックを知らないところにやるのはつらいけど、名ジョッキーが乗ってくれるならフランスへ行ってもいいかな」

 キタちゃん

 ダイヤちゃん

 ライバル同士が揃って凱旋門賞へ――

 すごいことが起ころうとしていました。私もワクワクしました。どうなったか…第10話を待ちましょう。

伝説の2強対決

 天皇賞・春の2強対決言えば、今回のアニメでもファンが口にしていたあの年、アニメSeason2で描かれた1992年でしょう。

 前年の覇者でこの年の阪神大賞典を楽勝してきたメジロマックイーンと、2冠制覇後のケガから復帰した大阪杯を楽勝してきた無敗のトウカイテイオー。まさに世紀の一戦と呼ばれ、1周目のスタンド前で実況の杉本清アナウンサーがこう口にしました。

「京都の大スタンドがうなります。そして京都の大スタンドがよじれます」

 集まった観衆は…

 11万人!

 キタサンブラックVSサトノダイヤモンドの2017年が7万7000人でしたから、驚異的な数字です。ちなみに結果はマックイーンが勝ち、テイオーは5着。10日後に骨折が判明したので「ケガがなかったら」とも言われましたが、同時に「それがなくてもマックイーンが勝っただろう」とも言われた、それこそ2017年のキタサンブラックぐらいの強さでした。強いのに、なかなか強さを万人に認められなかった2頭が、同じ天皇賞・春で全てのファンが納得するような強さを見せたというのも、それがアニメでもつながるのも面白いですよね。


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