ゴルシ発言による〝説〟は史実通り?アニメ「ウマ娘」を「東スポ」で検証する
アニメ「ウマ娘」第11話には本当に驚かされました。史実を知っているのですから、感心したり、ニヤニヤすることは多々ありますが、ビックリすることはあまりないんです。でも、今回は…。アニメで描かれた2017年宝塚記念後から天皇賞・秋までの流れと当時の状況を「東スポ」で振り返りつつ、最新話へ想像を膨らませてみましょう。(文化部資料室・山崎正義)
サトノダイヤモンドと凱旋門賞
2017年の宝塚記念で〝謎の大敗〟を喫したキタサンブラック。アニメでは、レース後、時間をかけて凱旋門賞挑戦を断念したように描かれていますが、実際は宝塚記念に負けた時点で、「遠征はなさそう」という雰囲気でした。ネタバレのため、前回のnoteで全てお見せできなかった紙面下部はこう。
見出しにある通り「断念へ」。北島三郎オーナーが「外国はちょっと考えさせてもらいたい」とハッキリ口にしていました。そもそもオーナーは常々、「ブラックは我が子のようなもの。知らないところに行ってつらい思いはさせたくない」と言っていましたし、宝塚の後も、こんな表現をしていました。
愛情あふれるコメントですよね。そんなオーナーが無理をさせるわけがありません。ブラックは早々に凱旋門賞を断念し、秋は国内に専念することを決めました。
一方、フランスに渡ったサトノダイヤモンドは、まず9月10日に前哨戦のフォア賞(GⅡ)に出走します。
見出しにあるように、「まあ、勝てるでしょ」という雰囲気でした。6頭立てな上に、これといったライバルも見当たらなかったのですから当然です。日本で馬券が売っていたら単勝1・2倍レベル。が、結果は…
まさかの4着。絶好のスタートからハナを切りそうになったときは「引っ掛かったらまずいぞ」と思いましたが、僚馬サトノノブレスが積極的に先頭に立ってくれたおかげでしっかり折り合い、絶好の2番手。直線を向いても手ごたえは悪くなかったのですが、いざ追い出すと伸びませんでした。敗因に挙げられたのは、日本とは別物の重い馬場と、休み明け。ファンはガッカリしつつも期待するしかありません。
「次は変わるはず」
「本番の凱旋門賞で一変だ!」
ただ、トーンは上がってきませんでした。
追い切りの動きは良化していたものの絶好まではいきません。ルメール騎手も…
陣営が「息遣い」を口にしていたこともファンを心配させました。池江調教師が「前回は、とにかく息遣いが良くなかった。その原因を探るため内視鏡検査をしたところ、重篤な病気ではないことが分かった」と話したように、ノドに不安が出ていたようなのです。こうなると、期待はしつつも、評価は微妙になります。
エネイブルという化け物3歳牝馬がいたこともありますが、冷静に見たら印はこの程度。
「それでも去年の強さを考えれば…」
「やってくれる!」
ファンはそう願うしかありませんでした。結果は…
15着――
ノドの不安はなくなっていたようですが、陣営の見解は「とにかく重い馬場が合わなかった」。常に言われます。日本とフランスの馬場は完全に別物。特に跳びが大きく、キレイなフォームで走るサトノダイヤモンドにはキツかったということでしょう。
「ダメ―ジが残りそうな惨敗だけど…」
「今回は仕方ないね」
「適性外だったんだから」
ファンも切り替えるしかありません。言い方を変えると、なんとなく敗因が見えると、ファンは切り替えることができるのですが…そういう意味で問題なのはキタサンブラックでした。敗因が見えない謎の大敗をどうとらえるか。いよいよ、勝負の秋が始まります。
天皇賞・秋
天皇賞・秋を9日後に控えた10月20日、清水調教師から発表がありました。
春から示唆されてはいましたが、正式決定。ファンからしたら残り3戦、「しっかりその姿を目に焼き付けよう!」「応援しよう!」です。ただ、やっぱり、ブラックが復活してくれるかは半信半疑でした。天皇賞・秋の週の月曜日、本紙の1面をご覧いただきましょう。
改めて宝塚記念の敗因を探っています。時間が経って見えてくるものもあるからで、記事の中で大きく取り上げているのは「天皇賞・春の反動」です。競馬界では「ハイレベルのレースほど、見えない疲れが残りやすい」が定説。ディープインパクトの記録を破るレコードタイム決着となったレースが尾を引いているというわけで、実際、あのレースに出た馬の〝その後〟が記されています。
4着アドマイヤデウスは豪移籍後に故障
6着ディーマジェスティは休養中
7着ゴールドアクターは宝塚記念で2着になったものの体調を崩して秋初戦を回避
2着シュヴァルグランについては好意的な書き方ですが、秋初戦の京都大賞典3着は1番人気でのものですから〝取りこぼした〟といっても過言ではありません。そしてもう1頭、名前が挙げられているのが…
3着サトノダイヤモンド
はい、凱旋門賞は馬場が敗因だったと言われていましたが、あれすら天皇賞・春の反動かもしれない…というわけです。そう考えると、フォア賞も含め、あまりも負けすぎでした。
「ダメージが残っているのかも」
「疲れが取れないのかも」
これは本紙だけではなく、他紙にも結構載っていた〝見方〟です。困るのは、「反動」というのは目に見えないこと。水曜日、キタサンブラックは最終追い切りでいい動きを見せるのですが、「調教では好調でもレースでは…」ということが競馬では多々あります。つまり、ぶっちゃけるとこうでした。
「走ってみなきゃ分からない」
だからこそキタサンブラックは1番人気とはいえ、3・1倍という半信半疑感が凝縮された単勝オッズで本番を迎えることになるのですが、では、今回、アニメで視聴者を驚かせたアノ説はどれぐらい出ていたのでしょうか。ゴールドシップがキタちゃんに放った衝撃の発言。
はい、確かにそういう説はゼロではなく、ほんの少しだけですが出てはいました。ただ、当時を知る皆さんは思い出せるはずですが、この〝ピーク過ぎた説〟は主流ではありませんでしたよね。なぜならまず、天皇賞・春まで強かった馬が宝塚で急に衰えるか?って話です。もう少し詳しく説明するために、あの天皇賞・秋の週に本紙に載った安藤勝己元ジョッキーの記事を引用しましょう。〝ピークが過ぎた説〟も耳にするが「キタサンブラックには当てはまらない」と言いつつ、こう続けました。
「例えば2歳時からクラシックにかけてガンガン使って、活躍を続けてきたような馬が『古馬になってサッパリ』ってケースはよく見受けられるけどな。キタサンブラックの場合はクラシック3冠にオール出走といっても、春の皐月賞、ダービーの頃は〝主役〟ってほどの存在感まではなかったし、本当の意味で強くなったんは秋の菊花賞、そして古馬になったからやろ。『晩成』とまでは言わんけど、徐々に力をつけていったこの手の馬は、早い時期からガンガン走っとった馬と違って、急激に力が落ちるとは考えにくいんや」
名ジョッキーが言うのだから説得力があります。また、もうひとつ、〝ピーク過ぎた説〟が主流ではなかった理由は、まだ〝謎の大敗〟が1度だけだったからです。「ピークが過ぎた」という表現は、2~3戦続けて謎の敗戦を続けてから主流になるものですから、この時点ではやはり先ほど書いた「走ってみなけりゃ分からない」状態。逆に言えば…
「ここで負けたらいよいよヤバイ」
「2戦続いたら…」
「いよいよ衰えているのかも」
それだけじゃありません。走る気をなくしている、精神的なスランプ、つまりは「終わってしまった」と言われかねない…あの天皇賞・秋は、キタサンブラックにとってそんなリトマス試験紙的なレースでした。
台風がきたこと、雨が降っていたこと、前代未聞のドロドロ不良馬場だったことはアニメ通り。ファンは傘をさしながら祈っていました。
「まだ大丈夫だよな」
「キタサンブラック…」
「終わってなんかないよな…」
そんな中、スタートで出遅れたときの悲鳴とどよめきはハンパじゃありませんでした。アニメでゴールドシップが「(ピークが過ぎて)スタートも下手になった」と言ったときには「いやいや、昔からだろ」とツッコミたくもなりましたが、キタサンブラックはもともとスタートが下手ではなく、常に先行してきた馬です。そう考えると不安すぎます。
「どうしたんだ…」
「何か異変が…」
長年、競馬をやってきた人間からすれば確信に近いもの。
「これは絶対におかしい」
だからこそ信じられませんでした。後方にいたのに内からするする上がっていき、誰もが避けるグッチャグチャの最内を通り、4コーナーを回ったときには先頭に立っていたんですから。しかも、そのまま長い長い府中の直線を押し切ったのですから。
「すげぇ」
「やっぱり強いんだ…」
もちろん、武豊ジョッキーの天才的なコース取りもありました。ゴルシの皐月賞ぐらい〝ワープ〟していましたし、それでいて直線ではなるべく馬場のいい真ん中に持ち出しています。とはいえ、上がっていくときに脚を使っているのに2着のサトノクラウンが迫ってきた後にまた伸びていること、悪い馬場にくじけない精神力は「さすが」の一言でした。
「強い!」
「やっぱり現役最強だ!」
「あと2つ」
「ジャパンカップも有馬も勝って」
「古馬王道GⅠ3連勝で引退だ!」
天皇賞・春の反動説はもちろん〝ピークが過ぎた説〟もどこかに吹き飛びました。それぐらいの快勝。明るいフィナーレに期待しか膨らまない展開。アニメにもピッタリでしょう。
苦しむヒロイン
劇的な復活からの引退ロード
分かりやすい
最高です
でも…
天皇賞・秋の後のキタちゃんの表情
「そっか…」という言葉
あれが何を意味しているのか
史実より色濃く描いた〝ピークが過ぎた説〟で何を表現するのか…
このアニメ、史実を超えてくるかもしれません。