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「絶対に失敗しない」はナンセンス!?
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「絶対に失敗しない」はナンセンス!?

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「俺は昔、結構ヤンチャしてたんだよね」と飲み屋で武勇伝を語り出すオジサンに出会ったことありませんか? 私は「なんで1対20とか勝ち目がない状況に飛び込んでくの?」とかツッコミを入れながら楽しんで聞くタイプなのですが、あるとき隣に座っていた、すごくマジメで寡黙なオジサンがぽつりと口を開きました。

「悪いことせずマジメに生きてきた人間が褒められなくて、悪いことをしてきた人間が更生したほうが『えらいね、すごいね』って持ち上げられる世の中はおかしくないか。だいたいヤンキー先生みたいのはだなぁ…(以下略)」

なるほど、そう言われてみれば確かに、悪いことや失敗をした人が〝偉そうに語る〟ことに違和感はあります。一方で「失敗は成功の母」なんて言葉もあるわけで、失敗とはいったいどんなものなのか一度立ち止まって考えてみたくなって本屋に行ってきました。

読書で人生をアップデートしましょう

「失敗」をマジメに学ぶ本

一応先に申し上げておきますが、私が最近仕事でやらかして困っているから読んだわけではありません(苦笑)。著者は東大名誉教授の畑村洋太郎先生。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げた工学博士です。

失敗学は「失敗しないための学問」ではありません。
失敗学は「創造的(クリエイティブ)に生きるための哲学」です。
たしかに、失敗学を学んだひとは、学ばないひとよりも、失敗する可能性を低くすることができるでしょう。
「だったら、やっぱり失敗学は失敗しないですむために必要な学問なんじゃない?」と思うかもしれません。
残念ながら、その考え方は間違いだといわざるを得ません。

畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』(ちくまプリマー新書、2022年、12ページ)

畑村先生は、失敗はどんなに注意しても必ず起こるものだから、「絶対に失敗しないこと」を目指すのはナンセンスだと言います。さらに「絶対に失敗しないように」と考えてばかりいると成功する機会もチャンスも失ってつまらなくなってしまう、だからこそ「なぜ失敗したのか」「この失敗から何が学べるか」という方法を学ぶことが「失敗学」なのだと位置づけます。

多くの人がそうであるように私もあまたの失敗を積み重ねてきましたが、社会人になると、失敗するリスクをできるだけ低減することが求められます。特に昨今は非常にエビデンスが重視されています。ところが、畑村先生はエビデンスに縛られた今だからこそ「推測」が大切なんだと言います。ここが結構面白いです。

 対象物を科学的に分析・評価するとき、エビデンスは必須です。しかし、失敗学や創造学で扱う「物事の正しい考え方」や「自分のこれからの生き方に対する考察」など、抽象的かつ哲学的な課題や問題と取り組むとき、「エビデンスとなるデータがない」という理由から〝考えること〟自体を放棄してしまっては、近い将来に現れるかもしれない潜在的な(隠れた)リスクは発見できませんし、逆に、自分の可能性を飛躍的に伸ばしてくれるチャンスも逃してしまうことにつながりかねません。

畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』(ちくまプリマー新書、2022年、17ページ)
失敗の原因を可視化するとマンダラのようになる(畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』(ちくまプリマー新書、2022年、107ページ))

大谷翔平の二刀流はクリエイティブそのもの

乱闘も恐れない大谷翔平(22年6月28日付本紙1面)

本書の中でまさにそれを示すものとして取り上げられているのが、メジャーで活躍する大谷翔平選手です。今でこそ二刀流は称賛されていますが、2013年当時には二刀流に対して懐疑的な声がたくさんあったことも覚えていますよね。

大谷選手は自分が「やりたい!」と思ったこと、「なりたい!」と願った姿を目指して、決断し、挑戦したのです。かつては「常識はずれ」や「無謀」などと揶揄され、誰も成功するとは想像すらできなかった大谷選手のチャレンジがなければ、今の素晴らしい活躍を私たちが目にすることはなかったでしょう。そんな大谷選手こそ「クリエイティブな生き方」を実践している若者だと私は思うのです。

畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』(ちくまプリマー新書、2022年、205ページ)

失敗を恐れすぎずに東スポも挑戦を

冒頭の元ヤンチャなオジサンの話に戻ると、「失敗」を乗り越えて成功したというのが本人が語りたかった武勇伝の本質なのだと思います。しかし、過去の「失敗」を大仰にかっこつけて語り過ぎると、ときにマジメに生きてきた人の心を波立ててしまい、そうした人心をつかむことに「失敗」するということなのでしょう。その意味で「失敗」は過度に振り回すものでもありません。とはいえ、私が勤めている東スポもかつてはもっと「常識はずれ」で「無謀」な新聞社だったはずなので、失敗を恐れすぎずにチャレンジできる仲間を増やしていきたいなと思っています。(東スポnote編集長・森中航)


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