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森永卓郎さんが寓話で教えてくれた「リスキリングの落とし穴」

前日はフジテレビ会見、今日こそは終電で帰れるかなと思っていた1月28日の夜、経済アナリスト・森永卓郎さんの訃報が飛び込んできました。

2023年末にがんが判明。その時点で余命4か月を宣告された森永さんは闘病中も精力的に仕事を続け、東スポでもコラム「令和の生活防衛術」を寄せてくれました。改めて感謝を申し上げます。

私は昨年10月に森永さんの書籍『身辺整理 死ぬまでにやること』(興陽館)の書評を書いたこともあって、まだ頭の中に森永さんの持論がはっきりと残っていました。

「お金は生きるための手段であって、お金を貯めるために生きているのではない」

この言葉を原稿の中にそっと盛り込んで追悼しました。

2024年10月25日付紙面に掲載された書評

ちょうど私が座る机の上の〝書類の山〟にも12月に発行された森永さんの新刊がありました。タイトルは『余命4か月からの寓話 意味がわかると怖い 世の中の真相がわかる本』。24年2月に夫・叶井俊太郎さんをすい臓がんで亡くした漫画家の倉田真由美さんがイラストを手がけています。

死にかんする本を(10月に続き)もう一冊読むのはちょっと気が重いなぁ…と献本してもらって手つかずにしていたのでした。森永さんがいなくなってしまった今、あとはこうして本を読むしかないのだなぁと週末にしみじみした気持ちでページをめくりました。

森永さんの「ウサギとカメ」

寓話とはたとえ話によって教訓や風刺を織り込んだ物語です。森永さんはこの本で〝大人のためのメッセージ〟を28の寓話にしています。その中から、私が深~く考えさせらえた「ウサギとカメ その2 年収が高くなる方法」を簡単にご紹介しようと思います。

みなさんご存じのように、イソップ寓話のウサギとカメは、足の速いウサギと遅いカメが競走をして、途中で油断したウサギが居眠りをして大逆転を許すというもの。得られる教訓は「油断大敵」「一歩ずつまっすぐ進めば成果は得られる」といったところでしょうか。

森永さんの「ウサギとカメ その2」では、庶民として呼ばれたウサギさんとカメさんの前に、うさんくさいビーグル犬が出てきます。

「みなさん、こんにちは。人材総合サービスパートナーからやってきましたビーグル犬のマーク圭三です。みなさんには、王様からの依頼で、リスキリングを受けていただくことになりました」

森永卓郎『余命4か月からの寓話 意味がわかると怖い 世の中の真相がわかる本』(2024年、興陽館、67p

今、世界中で注目を集めているリスキリング(Reーskilling)。新しい環境や業務に適応するために必要なスキルを学ぶことですね。

カメさんは道路工事の現場で交通整理員をして月収10万円を得ています。一方のウサギさんは飛脚の仕事をして歩合制ですが、多いときは30万円もらっているという設定が明かされると、ビーグル犬はカメさんに飛脚への転職をすすめます。現実同様、助成金が出るから…とカメさんの背中を押すろところが巧妙です。

カメさんは決断をくだします。自分にピッタリだった交通整理員の仕事を辞め、飛脚になるトレーニングに専念。人材総合サービスパートナーの紹介で飛脚の会社に入れたものの、足が遅いのはどうにもなりません。結局、成績不振でクビになってしまうというストーリーです。

そして最後のオチが森永さんらしい切れ味を放っています。

 数か月後、マーク圭三は、別の国の会場でリスキリング募集の熱弁をふるっていました。一つだけ違っていたのは、彼のスーツが舶来のより高級なもに変わっていたことです。

森永卓郎『余命4か月からの寓話 意味がわかると怖い 世の中の真相がわかる本』(2024年、興陽館、72p)

リスキリング自体は決して悪いことではないはずです。それでも〝使い方〟を間違えるとカメさんのようになってしまうことはあるでしょう。もっと踏み込むと(助成金を出す)アニマル王国と、(利益を計上する)人材総合サービスパートナーとの〝癒着〟も疑いたくなります。

私が森永さんに教わったことは、周囲に踊らされずに自分の人生を生きることの大切さです。ありがとうございました。(東スポnote編集長・森中航)

 

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