麻雀1年目の80歳ご婦人「三味線禁止」に戸惑う
高齢になってから麻雀を始める方も少なくない昨今。各地の教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏が、そこでのエピソードを披露する。
東1局
麻雀店には、壁のどこかしらに推奨するマナー、点数計算表等が貼り出されていることがある。よくあるのは当店の禁止事項と題し「強打・引きツモ」「三味線」「鼻歌」「口笛」等を掲げているお店。
麻雀を初めて1年目、御年80のカズコは、普段聞き慣れない麻雀用語に興味津々のご婦人である。
とある日、カズコは同卓していた御年79、元小学校の校長だったヨシオに遠慮がちに質問した。「あの~、麻雀をやりながら楽器を奏でられる人なんているんでしょうか?」「そんな輩、見たことありませんね。私は雀歴60年ですが、いまだにツモって切るだけでも精一杯でございます」とヨシオ。「では、三味線禁止とは一体どういうことなんでしょうか?」とカズコは不安げな表情。
「それはですね。『三味線を弾く』って慣用句からきていていまして。相手を惑わすような事実と異なる言動は慎みましょうということです。正確に言えば、三味線行為の禁止。歌に合わせて三味線を弾くことから、適当に調子を合わせてごまかしちゃいけませんということでございます」
「そういうことだったんですか。では麻雀で相手を惑わすような言動ってどういうことを指すんでしょうか?」
「そりゃあ、安いよ安いよ親につきリーチとかおっしゃって、ドラを暗刻を隠し持ってたり。マンズのチンイツなのに、ソーズを持ってきて悩むふりしたり。挙げたらキリがありませんね」
「三味線禁止とは、相手を欺いてはいけないということなんですね。実は私、津軽三味線教室に通ってるので、三味線が好きな人は麻雀をやってはいけないのかと不安だったんです」と安堵したカズコは「麻雀をやるときは正直に、フェアプレーでなくてはいけないということなんですね」と微笑んだ。
そんな無邪気なカズコに心を洗われたのか、その日のヨシオは、人知れず十八番のスジひっかけリーチを封印していた。敬礼。
東2局
麻雀中の会話はとりとめもない。また聞いているようで聞いていないことが多いものだ。これは6年前のこと。
御年80。傘寿を迎えたホンイツ好きの元新聞記者、カツトシ。60代とおぼしきスナックママのアケミ。アケミの店の新人で、たぶん40代のサトコとキミコが卓を囲んでいた。
「最近の心配事は、やっぱりシンゴよね」「そうそう、圧力なんかに負けないで欲しいわよね」とサトコとキミコが話し始めた。
「えっ、圧力? あのワンパターンの暑苦しい演技のこと?」とアケミ。「暑苦しい⁉ まあ、確かに演技はワンパターンかもね。でも母性本能くすぐるのよね」とサトコが呼応する。
「その白ポン! 確かにシンゴはモテ男で有名だったもんな」とカツトシが参戦してきた。「今でもモテ男よ。こっちはデビュー当時から応援しているのよ」とサトコが5萬を切った。「その5萬ロン。白・ホンイツでサンキューで~す!」とカツトシ。
サトコが出した百点棒9本と千点棒3本を「ひ~ふ~み~よ~」と数えながらカツトシが真顔で言った。「デビュー当時からって、あんたら生まれてないだろ」「いやだわ、記者魂丸出しよ。レディーに年の誘導尋問だなんて、今日はボトル入れてもらうわよ」とアケミがお約束の営業トーク。「いやいや、生きていれば俺と同い年なんだから、東映ニューフェイスのデビュー当時なんて知らんだろ!」
いつもなら我先にと次局へ向かう一同に静寂が訪れた。
「東映ニューフェイス? カツトシさん、あんた誰の話してんの?」「そりゃあ、山城新伍に決まってんだろ。俺も最後は老人ホームだなって思ってたところだったんだよ」と荒い鼻息。
鳩が豆鉄砲を食らったかの如くはサトコとキミコだ。「私たちが心配していたのは香取慎吾よ。元SMAPの!」。するとアケミが「シンゴって柳沢慎吾のことじゃなかったの?」と驚愕の表情。「いやあねえママ。なんで私たちが柳沢慎吾の心配をしなきゃならないのよ!」と爆笑。アケミもカツトシも「そっちのシンゴか」とつられて大笑い。
まさに世代を超えた〝シンゴ談義〟。卓上ではジェネレーションギャップも笑いとして昇華されるようだ。敬礼。