「ウマ娘」で人気のエイシンフラッシュとゴルシが大活躍!2012年の競馬を「東スポ」で振り返る五輪特別企画
この記事の楽しみ方
今回はちょっぴり趣向を変えて、馬ではなく「年」に注目した特別企画。すったもんだの末に始まったオリンピックが盛り上がっているので、「あの五輪の年に競馬界では何があった?」をテーマにしてみました。ピックアップしたのは前々回のロンドン五輪が行われた2012年です。この年は「ウマ娘」で大人気のゴールドシップが二冠を達成し、一部で「カワイイ!」と評判になっているエイシンフラッシュが天皇賞・秋で感動的なシーンを演出してくれました。また、3歳牝馬路線では当シリーズがエアグルーヴ、ウオッカ、ダイワスカーレットを通して追ってきた牝馬の歴史が結実します。できる限り初心者の方にも分かるようにまとめてみましたので、「ウマ娘」から競馬に興味を持ち始めてくれた皆さんは、9年前に何があったのかを思い出しつつ読んでみていただければ幸いです。
一方、競馬ファンの皆さんには別の楽しみ方をご提案させてください。実は以前、有馬記念やダービーの週に、10年前と20年前の馬柱をその年のニュースとともに載せて「あのとき皆さんはどんな馬券を買いましたか?」という紙面を作ったことがあり、なかなか好評だったんです。競馬ファンは「〇〇が有馬記念を勝った年に〇〇事件が起こった」とか「〇〇が三冠馬になった年に就職した」といった思い出の整理術を勝手にマスターしますから、馬柱を見ると、いや、馬柱を見るだけで、まざまざと当時の記憶をよみがえらせることができます。紙面では「せっかくなので自分が買った馬券のことも思い出してみては?」という企画だったんですが、予想以上に多くの方が楽しんでくれたので、noteでもやってみようってワケです。
偶然にも4年に1度、区切りとしては非常に何かを思い出しやすい五輪のタイミングなので、2012年の牡馬三冠、牝馬三冠、古馬王道路線のGⅠレースの馬柱と結果を並べてみました。「2012年の五輪と出来事」に軽く目を通した後、目次から後半の「【馬柱と結果】牡馬クラシック編」に飛んでみてください。馬柱を見ながら、どの馬が勝ったのか(結構忘れてます)、どんな馬券を買ったのかを記憶から呼び覚ます…これ、マジで面白いのでぜひぜひ。何時間でも酒が飲めます。で、その後に解説でもう一度おさらいしていただければ幸いです。
普段の名馬振り返りパターンじゃなくてごめんなさい。競馬にはいろいろな楽しみ方があることが伝わればうれしいです。(文化部資料室・山崎正義)
2012年の五輪と出来事
ロンドン五輪、日本勢の金メダルは7個。本紙も連日大展開しました(スポーツ新聞ですから!)。
レスリングの吉田沙保里選手は3大会連続の金メダル! こちらは本紙カメラマンが撮影した歓喜のシーン(スポーツ新聞ですから!)。
レスリングでは他にも伊調馨選手、小原日登美選手、男子の米満達弘選手が表彰台の真ん中に立ちました。いかがです? 思い出してきましたか? 銀メダルの中で私が感動したのは卓球女子団体の福原愛ちゃん!(今年上半期はいろいろありましたけど)
なでしこジャパンの準優勝も素晴らしかったですよね。
で、競泳の400メートルメドレーリレーで出たあの言葉を覚えていますか?
「康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」
こちらも見事な銀メダルでした。
海外勢ではウサイン・ボルトが100メートル、200メートル、リレーの3種目で金メダル。ヤバすぎました。ちなみにNHKの五輪テーマソングは、いきものがかりの「風が吹いている」です。
そんなメダルラッシュもあり、この2012年の漢字は「金」。五輪以外でも、iPS細胞の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したり、世界一の高さである東京スカイツリーが開業しました。
年末の衆院選で自民党が圧勝し、政権を奪還したのもこの年です。で、芸能界ではAKB48の勢いが続いており(指原莉乃はHKT48に移籍しましたが)、上戸彩がEXILEのHIROと電撃結婚しました。プロ野球ではパ・リーグを日本ハムが制し、巨人がリーグ優勝&日本一で、首位打者と打点王の阿部慎之助がMVPに輝きました。では、そんな年の競馬界はどうだったのでしょう。
【解説】牡馬クラシック
最終的にはゴールドシップが2冠に輝くのですが、キーホースはクラシック馬を多数輩出している前年の「東京スポーツ杯2歳ステークス」を勝ったディープブリランテでした。この馬が主役になるとみられていたのに、2月に単勝1・4倍の断然人気で出走した共同通信杯でゴルシに敗れ、皐月賞トライアルのスプリングステークスでも単勝2・2倍ながらグランデッツァの後塵を拝します。これにより、一転してクラシックは主役不在、大混戦となり、皐月賞の馬柱もこんな具合でした。
1番人気はスプリングステークスでブリランテに勝ったグランデッツァ。ゴルシは4番人気で、3番人気がブリランテ。若葉ステークスを鮮やかに差し切ったワールドエースが2番人気でした。レースは世にも有名なワープでゴルシが完勝。2着にワールドエースが追い込んできました。ワールドエースについては「スタート直後に他馬と接触し、落馬寸前の不利がありながら最後はよく追い込んできた。ゴルシが最内を突いたのとは対照的に大外を回ったロスもあったし、ダービーでは逆転できそう」というのが戦い終わっての見立て。翌日の紙面でも鞍上の福永祐一騎手はダービーが行われる東京での巻き返しを誓っています。
一方、ブリランテの岩田康誠騎手のコメントは歯切れがよくありませんでした。
「いくらか行きたがったが、クロス鼻革の効果で我慢も効いた。向正面から4角までは最高の形だったけど…」
最後の「…」に続くのは「伸び切れなかったのは、距離なのか気性なのか…う~ん、何とも言えない」といったところでしょうか。実はブリランテは、精神的に幼く、レース前半にムキになってしまう傾向があったのです。それでは2000メートル以上の大レースは勝てませんから、年明けから岩田騎手は控える競馬を教え込み、陣営も調教や馬具を工夫してきました。しかし、なかなか実を結ばず、困惑していることが分かります。これは距離が400メートル延びるダービーに向けて、明るい見通しではありません。記者もファンもそのことをよく分かっており、ブリランテの存在感は一気に薄まります。ダービー週の最終追い切りを速報する本紙1面はこんな感じ。
クラシック候補生だったはずが、見出しにもなっていません。レースでの印も激減します。
3番人気にはなりましたが、ワールドエース2・5倍、ゴルシの3・1倍からかなり離れた8・5倍。構図は完全に2強。「素質は認めるけど…」という「…」の付いた評価だったことは否めません。しかし、レースでは逃げ馬と2番手の馬がガンガン飛ばしたおかげで、今までで一番折り合いがつきます。スローペースよりひっかかりづらいハイペースになったことに加え、皐月賞後、岩田騎手が付きっ切りで馬との信頼関係を築いた結果、絶好の3~4番手で落ち着いて競馬をすることができたのです。そのまま直線で先頭に立ち、フェノーメノの追撃をハナ差しのいで、ダービー馬の栄冠を手にします。
一方のワールドエースとゴルシは4、5着。この日の東京競馬場は非常に馬場が良く、ある程度前にいけるスピードと、キレる脚、すなわち瞬発力が必要でした。ブリランテは前述のように前につけていましたし、2着のフェノーメノも6~7番手。残念ながら前にいけないやや不器用なワールドエースとゴルシは4コーナー10番手という位置取りが敗因でした。これは後になって分かるのですが、ワールドエースはマイル(1600メートル)前後に適性があったためこの距離では瞬発力を発揮できず、ゴルシはそもそも瞬発力を持ち合わせていなかったのも大きかったですね。ただ、3歳の春はまだそれぞれの適性は騎手も陣営もファンもつかみきれないのが普通。仕方のない敗戦でした。
ブリランテはその後、7月にイギリスで行われた伝統のGⅠキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(めっちゃ長いので「キングジョージ」という通称が有名です)に挑戦したものの8着に終わり、秋は菊花賞を前に屈腱炎を発症して引退します。前述のワールドエースもダービー後に屈腱炎になってしまい、新勢力も登場しなかったため、菊花賞はゴルシの独壇場。2冠後、年末にはオトナ相手に有馬記念もぶっこ抜きます。皐月賞のワープも含め、そのあたりは4月に公開したnoteに詳しく書きましたので省略させていただきましたが、めちゃくちゃすごいです。未読の方はぜひチェックしてみてください。
牝馬クラシック
ジェンティルドンナが三冠を達成し、ジャパンカップまでかっさらうのですが、春先の時点で、そこまでの馬だとは誰も気づいていませんでした。
桜花賞は2番人気。前年の阪神ジュベナイルフィリーズ(女の子のナンバーワン決定戦)を勝ち、姉に牡馬相手にGⅠを勝ったブエナビスタを持つ良血馬・ジョワドヴィーヴルがいたからです。ただ、その馬もジェンティルも前哨戦のチューリップ賞で敗れていたため、桜花賞は「混戦だけど、休み明けをひと叩きして調子を上げてきそうなジョワドヴィーヴルとジェンティルが上位かな」といった見方でした。ジェンティルはチューリップ賞の前に牡馬相手にシンザン記念を勝っており〝牝馬ではなかなか〟という評価を得ていたんですね。で、両頭とも父はディープインパクト。牡馬のディープブリランテもそうですが、この世代は産駒としては2世代目。大きな期待を寄せられていました。
レースはジェンティルが4角10番手から鮮やかに差し切ります。一方、ジョワドヴィーヴルはレース後に故障。こうなるとオークスはジェンティル断然かと思いきや、印はグリグリではありません。
これは牡馬路線のディープブリランテ同様、ジェンティルに気性的な危うさがあり、距離延長を不安視されていたこと、後ろからいく馬なのでこれまた前述のように先行有利のスピード馬場に合わないんじゃないかという懸念が影響していました。また、桜花賞時の鞍上・岩田騎手が騎乗停止になっており(ダービーはセーフでした)、乗り替わりだったんです。それらを総合して3番人気になったんですが、結果的には2着に5馬身差、レースレコードの圧勝。後ろからいったのに(4角15番手)、他馬とは明らかに瞬発力が違いました。
誰もが「強ぇ~」と目を丸くし、やっと、ジェンティルのすごさに気づいたんですが、競馬ファンの皆さん、1番人気はどの馬だったと思います? オークストライアルのフローラステークスを完勝したミッドサマーフェアです。苦笑するしかありません。メンバーや馬柱を見せずに、競馬仲間にクイズを出してみてください、「ジェンティルが3番人気で勝ったオークスで2番人気はヴィルシーナ。1番人気は?」と。ほぼ答えられませんから。
というわけで、秋は三冠馬ディープインパクトの娘が牝馬三冠を達成できるかに注目が集まりました。前哨戦のローズステークスで、桜花賞、オークスともに2着だったライバル・ヴィルシーナを軽く退けたため、もはや敵なし。秋華賞の単勝オッズは1・3倍でダントツでした。が!そう簡単にいかないのが競馬だというのも、このシリーズを読んでくださっている皆さんはお分かりのはず。まず、パドックとレースの合間、馬場でウォーミングアップをする返し馬の段階で、ジェンティルが暴れて騎手を振り落とします。
岩田ジョッキーが手綱を離さなかったので、馬がどこかに走っていってしまうことはありませんでしたが、場内にザワつきが残る中でスタートが切られました。まず、ハナを奪ったのはヴィルシーナ。ダイワスカーレットがウオッカの差し脚を封じた先行馬有利のコース形態でもあり、何とか一矢報いようと前にいきます。ジェンティルは8~9番手から。最後の最後、残り数十メートルで一騎打ちになり、ジェンティルが差すんですが、そこからヴィルシーナが盛り返し、差し返そうとしたからさあ大変。2頭が馬体を併せた手に汗握るゴール前、わずか7センチ差でジェンティルが勝ったのですが、ヒヤヒヤでした。競馬初心者の方は、迫力満点のゴール前をぜひ動画などでチェックしていただきたいですし、途中から一気に先頭を奪い、後続を引き離したチェリーメドゥーサ(小牧太ジョッキー)にも要注目。「こういう馬がいるとレースが面白くなる」という典型です。
晴れて三冠牝馬となったジェンティルは、歴戦の猛者が揃うジャパンカップに駒を進めます。同世代の女の子としか戦ってこなかった女子高生が、脂の乗り切った男たちに挑む…一昔前までは選択肢にさえ入ってこないローテーションです。実際、ジェンティルの前の三冠牝馬である2003年のスティルインラブ、2010年のアパパネは秋華賞の後、エリザベス女王杯を選んでいます。エリザベス女王杯は大人と一緒に走るとはいえ牝馬限定ですから、普通はそこです。しかし、時代は変わりました。エアグルーヴがこじあけ、ウオッカやダイワスカーレットが切り開いてきた道、すなわち「牡馬恐るるに足らず」「ひるまずチャレンジせよ」という新たな常識が、ジェンティル陣営にジャパンカップをチョイスさせたのです。私のような頭の固い古い競馬ファンは、まずそのローテーションに驚き、「厳しいでしょ」「無理でしょ」と思いました。ただ、自分の勤めている新聞を見て、驚きます。めちゃくちゃジェンティルに◎がついていたんです!
俺が古いのか? いやいや、確かに古いですが、他の新聞はこれほど◎はついていませんでした。正面からぶつかりつつも、ひねくれた視点を忘れない本紙競馬記者だからこその〝あえて〟かもしれませんが、このとき〝あえて〟は〝既に〟でした。本紙記者は、時代の流れをしっかりとらえていたのです。一方の私はレース当日、WINSに向かい、そこでまた〝既に〟を目撃します。私も含めたオッサン世代以上のファンは正直、ジェンティルには懐疑的でした。あちこちから「まだ3歳の牝馬だろう?」「さすがに無謀でしょ」という声。優柔不断な私のハートがグラつきます。「そうだよな」「やっぱり厳しいよな」「俺が古いわけじゃない…」。しかし、オッズを見て驚きました。ジェンティルの単勝は6倍台。何と3番人気に支持されていたのです。「売れすぎでしょ!」。これも私だけではなく、WINSのあちこちで聞かれたフレーズです。競馬ファンの皆さん、そう思いませんでしたか? 強いのは分かります。でも、ひと昔前なら「単勝8~9倍の5番人気」がいいところです。凱旋門賞で2着したオルフェーヴル(4歳馬=単勝2・0倍)、宝塚記念2着→天皇賞・秋3着ときて距離が延びる今回がベスト条件のルーラーシップ(5歳馬=5・4倍)に及ばないのは分かりますが、2番人気のルーラーとはオッズ的にはほとんど差がないのです。しかも、天皇賞・秋を勝ったエイシンフラッシュだけではなく、同世代の3歳牡馬でダービーと天皇賞・秋を2着したフェノーメノさえも人気で上回っていました。古い競馬ファンからすれば明らかに売れすぎで、このような過剰人気を裏切ってきた馬がたくさんいることも知っています。「危ない人気馬(人気になってこない馬)」「馬券的には消しごろ」と思った人もいるはずです。でも、〝既に〟その考えは古かった。ジェンティルは単勝6・6倍の3番人気で、オルフェーヴルとの一騎打ちを制するのです。
あの日のWINSの光景を私は一生忘れないでしょう。当たった当たったと盛り上がっているのは若い人ばかり。オジサンたちは結果を受け入れることができず、勝ったジェンティルの荒っぽい乗り方(岩田騎手がオルフェーヴルに馬体をぶつけた)に文句を言うことぐらいしかできませんでした。あとは、「軽すぎるんだよ」というひがみ。確かに3歳牝馬のジェンティルは53キロと斤量的に恵まれており、4歳以上の牡馬とは4キロの差がありました。でも、それを差し引いたとしても堂々たるレースぶり。しかも、陣営はそれを狙ってジャパンカップを選んでいたのです。単に「軽い」のではなく「互角に戦えるのに軽い」。〝既に〟必然の選択になっていたことを頭の柔らかい若い世代は知っており、ちょっぴり古いファンは信じ切れていなかったのでしょう。
「これだから年寄りは…」と言わないでくださいね。さすがの私たちも今はもう気付いています。6年後、三冠牝馬・アーモンドアイが秋華賞の後にジャパンカップを選んだときは誰も不思議に思いませんでしたし、単勝オッズは1・4倍。実は私、その日も同じWINSにいましたが、オジサンたちも普通にアーモンドアイから馬券を買っていました(苦笑)。
古馬王道路線
古馬王道路線の春は〝最強の暴君〟オルフェーヴルに振り回された人がたくさんいました。前年の三冠+有馬記念を勝った最強馬なんですが、ゴールドシップと同じ父親だからか、気性に問題がありまして、GⅡ阪神大賞典で伝説の逸走(レースの途中で変な方に走っていってしまったんです!詳細はいずれ)。本番の天皇賞・春は圧倒的な人気を背負いながら大敗し、「おかしくなってしまったのか?」と思わせておいて宝塚記念を普通に勝ちます。で、秋は凱旋門賞で2着になり、日本に戻ってきたジャパンカップで上記の三冠牝馬ジェンティルドンナに直線でガンガン馬体をぶつけられて2着に敗れました。有馬記念は既に紹介したようにゴルシです。
で、触れていない王道路線の1つ、天皇賞・秋こそ、2012年のハイライトでした。この2012年は近代競馬150周年だったため、天皇・皇后両陛下が7年ぶりに東京競馬場でレースをご覧になりました。その「天覧競馬」で優勝したのが「ウマ娘」にも登場するエイシンフラッシュです。
出走メンバーを確認しておきますと、凱旋門賞に遠征していたオルフェーヴルが不在で、完全な主役不在。そこを狙い、ダービー2着のフェノーメノと、4連勝でNHKマイルカップを勝ったカレンブラックヒルという有力3歳馬が参戦しました。
印を見ても人気を集めていますよね。フェノーメノが1番人気、カレンブラックヒルが3番人気に支持されます。2番人気はこの年の春に香港のGⅠを勝ち、宝塚記念でも2着に入ったルーラーシップ。エイシンフラッシュは2年前のダービーを勝って以来、2着はあるもののGⅠ勝利がなく、前哨戦の毎日王冠も大敗していたため、5番人気にとどまっていました。
レースはシルポートという愛すべき逃げ馬が1000メートル通過57・3秒というハイペースで飛ばします。カレンブラックヒルやフェノーメノが先行する中、エイシンフラッシュは中団の内でじーっとしていました。そのまま直線に向き、無理に外に出さず、最内でためにためたパワーを爆発させたところ、ウソみたいに前が開きます。神に導かれたようなビクトリーロードを真っすぐ、まさに閃光のように突き抜けたのです。
ゴール後、2コーナーのあたりまでクールダウンしていくエイシンフラッシュ。勝ち馬の特権、走っていった道をスタンドまで1頭で引き返してきます。背中には当時、短期免許でたびたび日本競馬に参戦していたミルコ・デムーロ騎手。ダービーも勝っていましたし、2011年の東日本大震災の直後には、日本のヴィクトワールピサに乗り、ドバイワールドカップという大レースを勝って国民に勇気を与えたジョッキーです。本人も日本のことが大好きで、日本のファンにも愛される存在。そんなデムーロ騎手は温かい拍手に包まれてスタンド前に戻ってくると、エイシンフラッシュに走るのをやめさせ、歩かせ、止めようとします。
ファンはすぐに気付きました。7年前、同じく天覧競馬となった天皇賞・秋では優勝したヘヴンリーロマンスの松永幹夫騎手が、貴賓室の両陛下に向かって馬上で最敬礼をしたのです。デムーロ騎手もやるのだろうと思いました。中には「ちゃんと分かっているのか?」なんて声も聞こえましたが、分かっているどころか予想外の、予想以上の形で敬意を示します。何と馬を降り、ヘルメットを取って、片膝をついて頭を下げたのです。
ヨーロッパ式の最敬礼に、競馬場は大きな拍手に包まれました。それをご覧になった陛下は拍手をされ、皇后陛下が手を振られます。ほどなく、今度は拍手を止められた陛下が手を振り、皇后陛下が拍手…神聖な空気に包まれたあのひとときを私は決して忘れません。小雨が煙る場内の薄暗さでさえ、その厳粛さを演出しているかのよう。普段は怒号さえ飛び交う鉄火場が神事の場になり、「ありがとうございます」という言葉が自然と口をつきます。レースの前は「天覧競馬で外国人が勝つわけがない」なんてことを言う人もいました。「前回だってそうだったじゃないか」と。でも、競馬は、スポーツは、そんなちっぽけなものではなかったのです。
エイシンフラッシュもろもろ
「ウマ娘」でエイシンフラッシュが「ドイツからの留学生」という設定になっているのは、現実のエイシンフラッシュがドイツからの持ち込み馬(お母さんのお腹に入った状態で輸入されて日本で誕生した馬のこと)だから。お母さんがドイツの馬だったんですね。
競馬ファンの皆さんには、もう2つ。前述の天皇賞・秋の後、ジャパンカップ9着を経て、有馬記念で3番人気に支持されます。この後にまとめて載せている古馬王道路線の馬柱でも有馬記念のジョッキーはデムーロ騎手になっていますが、レース当日、ちょっと驚きませんでしたか? そう、デムーロ騎手が尿管結石になってしまい、急遽、三浦皇成騎手に乗り替わりになったんです。一流ジョッキーながらGⅠ勝利のなかった三浦騎手が、内から一瞬抜け出したときは「やった!」と思いましたが…。
もう1つはダービーのメンバーです。エイシンフラッシュがレース史上最速の上がり(後半600メートル32・7秒!)を駆使したあのレース、今振り返るとなかなか面白い顔ぶれだったので馬柱を置いておきます。酒のツマミにしてください。
【馬柱と結果】牡馬クラシック編
皐月賞
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結果は
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ダービー
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結果は
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菊花賞
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結果は
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【馬柱と結果】牝馬クラシック編
桜花賞
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結果は
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オークス
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結果は
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秋華賞
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結果は
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【馬柱と結果】古馬王道路線編
天皇賞・春
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結果は
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宝塚記念
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天皇賞・秋
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ジャパンカップ
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結果は
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有馬記念
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結果は
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おことわり
ご愛読ありがとうございます。サラブレッドと同じく暑さに弱いオジサンのため、しばらく更新は隔週とさせていただく予定です。次回は、18日(水)アップで、「ウマ娘」でも人気のあの名馬を振り返ります。