「九索猫を噛む」「注意力三萬」ジジババの麻雀ダジャレ合戦
ジジババの面白エピソードを、各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」福山純生氏が振り返る当コラム。今回は「言葉」にまつわるこんな2局――。
× × ×
東1局
卓上にて。勝敗には当然こだわるが、舌戦に力を入れる御仁もいる。
たとえば牌に関するダジャレ舌戦。「九索(キュウソウ)猫を噛む」とジジイが言えば「注意力三萬(サンマン)」と切り返すババァ。一打一打へのこじつけを聞いていると頭の回転は遅くはない。面白いか面白くないかは置いといて。
流行語で舌戦するジジイもいる。10年ほど前だろうか。定年したばかりなので気分は現役で、オレは流行には敏感なんだと若さをアピールする気概があった61歳。
誰かがツモると「承知しました」と、無表情に点棒を渡す。おそらくドラマ「家政婦のミタ」の松嶋菜々子風。
誰かに打ち込むとわめく。「やられたらやり返す。倍返しだ!」。おそらくドラマ「半沢直樹」の堺雅人風。
役満に遭遇すると「じぇじぇじぇ」と驚く。もう、説明不要だろう。本人は時代の最先端を行っているつもりなのだが、問題は、まったくウケないことだけ。
私もその流行語ジジイと同卓する機会に恵まれたことがあったが、それはそれは、なかなかのものであった。
リーチ宣言後、おもむろに五郎丸ポーズ。ロン宣言後、裏ドラをめくって「安心してください。乗ってませんから!」と、とにかく明るい安村風。本当は「乗ってますから!」と言いたかったのだろう。作り笑いを浮かべながら、リーチのみで1300点を受け取るジジイ。同卓者の反応を確認すると、2人とも無反応。よく見ると私以外、補聴器をつけていた。
東2局
自撮り女子やセルフィー男子。自分で自分を撮影する昨今。
だがジジババたちは捉え方が異なる。
〈写真を撮られると魂抜かれる〉
〈3人で撮ったら真ん中の人が死ぬ〉
自撮り世代には信じられないかもしれないが、こんな俗説があったのは事実。
大会休憩時。50代とおぼしき女性同士が自撮りについて話し込んでいた。「自撮りなんて恥ずかしくてできないわ。しかも棒まで使っちゃって」。そこへやってきた御年78のバアさん。
「国士(無双)テンパイしたのに、ジジイのピンフにやられちゃったわよ。ピンフのみよ。1000点よ!」
かなりいきり立っていらっしゃる御様子。
「ところで何の話してたのよ
「自撮りよ自撮り。最近はやってるじゃない」
バアさんの目がキラリと光った。「あんたね。私は名古屋生まれだけどね、地鶏は名古屋コーチンよ。じどっこだのシャモだのがはやってる場合じゃないよ」
唖然とする女性陣。そこへ御年79のピンフのみジジイがやってきた。
「いやぁさっき惜しかったね。国士無双」
憮然とするバアさんは話題を切り替えた。
「ところであんた。どこの地鶏が好きなんだい?」
ジジイの目がキラリと光った。
「地取り(聞き込み捜査)だったらどこだって行くよ。現場百遍。ワシは警視総監賞をもらったこともあるぐらいだ」
人の話をまったく聞かないバアさん。現役時代に思いを馳せるジジイ。困惑が続く50代女性陣。勘違いなのに活き活きするジジババたちは、実に平和である。