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ロンされて徳を積む!?麻雀マダムは器が大きい

 男らしいのはオバサンで、女々しいのはオッサン――。一般の方々が打つ麻雀でよく見る光景だ。各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏に、とっておきのエピソードを明かしてもらおう。


東1局

「痛み入ります。アガらせていただきます」と体をよじりながら手牌を倒したゴマちゃん。ごま塩頭ゆえゴマちゃんと親しまれている御年69の元広告マンだ。

「本当は、三色にしたかったんですが」とゴマちゃん定番の仮説講義が始まった矢先「で、何点?」とすかさず機先を制したのは、御年80、傘寿を迎えた江戸っ子ジュンコさん。現在も月に一度のゴルフとボーリングを欠かさないアクティブマダムで、安アガリをするのもされるのも大嫌いな門前高打点雀士だ。

「あっはい、1000点です。こっちでアガれば三色もできたんですけど…。もしもリーチしてツモったら…」と裏ドラを見ようと山牌に手を伸ばした矢先、「ハウス!」という声とともに、ぴしゃりという音がした。「な、なんですか!」と慌てて手を引っ込めるゴマちゃん。

 ジュンコさんに「お行儀悪いわね。知らなくていい世界もあるのよ。日本男児でしょ」と諭される様は、まるでしつけの厳しい飼い主と飼い犬。「はい、次行くわよ!」とご主人様に言われたんじゃ、従う以外に道はない。

 それから1か月。久しぶりにゴマちゃんと卓を囲んだ。すると驚くべきことに、毎局ルーティーンとしていた裏ドラめくりを、リーチでアガった時以外はやらなくなっていた。

 しかもゴマちゃんと同卓していた御仁が、流局後に裏ドラを見ようと手を伸ばした瞬間、ゴマちゃんは手で制し、静かに言った。「知らなくてもいい世界もあるんですぞ。日本男児には」と。

 それはジュンコさんに言われたセリフ…と思ったが、知らなかったことにしておいた。毅然としたゴマちゃんを見て「人間いくつになっても、可能性がある」という冒険家・三浦雄一郎氏の言葉を思い出した小生である。

東2局

「ロン!」。出アガリするときに発声する言葉。世の大半の雀士は「ロン!」と言うのはいいが、言われることを極度に嫌う傾向がある。しかもロンされた後に自己弁護したり、中には不機嫌になる御仁もままいる。

 その点、ミチエさんはいさぎよい。推定年齢60代の道産子で「ひとつでも対子ができたらうれしいのよね。夫婦みたいで」と七対子が大好きなご婦人だ。

 何がいさぎよいのかというと、どんなに高い手にフリ込んでも「はいどうぞ!」と清々しく点棒を渡す流麗な動作だ。そんなミチエさんの対面に座っていたのは、ロンされることが死ぬほど嫌いな御年71のマサオ。フリ込むと「テンパってたんだからしょうがない!」などと、何かしら言い訳をしないと気が済まない悲しいさがを持っている。

 東1局、運良くダブルリーチ・平和・チャンタで親の満貫1万2000点をミチエさんからアガったマサオは「ロ~ン! 高目~!」と言った後「あんた運が悪かったな。安目だったら5800点だったのに」とニヤリ。

 するとミチエさんは言った。「私は運がいいのよ。だってあなた、高目ロンで喜んでくれたじゃない。おかげさまで徳を積めたわ」とキビキビと点棒を渡した。「徳を積むったって限度があるだろ」となぜか逆ギレ気味のマサオに「限度なんてありませんわよ。生きている限り、徳は積み続けなきゃ」と満面の笑顔。

 親満をアガった後の東1局1本場以降、マサオは守備重視の構えにシフトチェンジした。だが麻雀は、守ろうとしても守り切れるものではない。終わってみればマサオ3着、ミチエさんが1着でフィニッシュ。

「勝てると思ったんだけどな」とぼやくマサオに「勝つと思うな、思えば負けよ~♪」と美空ひばりのモノマネよろしく「柔」を口ずさみ「また徳を積ませてちょうだいね!」と颯爽と席を立ったミチエさん。

 人間の〝器〟。それはロンされた後に出るようだ。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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