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アニメ「ウマ娘」最終話の前に!ピークアウト説と前回をおさらい

 アニメ「ウマ娘」第12話は、冒頭でキタちゃんことキタサンブラックが年内で引退することを発表。ピークアウトを察しつつ衰えに向き合い、抗い、自身の競走生活の締めくくりに向かってひたむきに努力する様子が描かれました。当時の状況を「東スポ」で振り返りながら、最終回を待ちましょう。(文化部資料室・山崎正義)

ジャパンカップのリアル

 ゴールドシップの「ピークを過ぎたんだよ、お前は」という衝撃の発言により、アニメ「ウマ娘」はネットをザワつかせる展開になりました。アニメと伴走してきた前回の当noteでは、当時の紙面を再確認。2017年天皇賞・秋の時点で「ピークを過ぎていた説」はほんの少し出てはいたものの、「主流ではなかった」という状況をお伝えしました。そもそも、古馬になって力をつけたキタサンブラックのような馬が急に衰えるとは考えづらいこと、まだ1回しか〝謎の敗戦〟を喫していなかったこともご説明しましたが、いずれにしても、半信半疑感が漂っていた天皇賞・秋を快勝したことで、ちょっとだけ顔を出していた「ピークを過ぎていた説」はどこかに吹き飛んでしまいました。

「やっぱり強い」

「現役最強だ」

 ファンはキタサンブラックの強さを再認識。力量的にジャパンカップの主役は間違いなく、唯一重箱をつつく部分があるとすれば、天皇賞・秋が不良馬場だったことでした。宝塚記念の〝謎の敗戦〟がディープインパクトを超えるスーパーレコードで走った天皇賞・春の反動だと考えられていたので、状況が似ていたのです。「ドロドロの馬場で激しいレースをした疲れが残っているのでは?」ということなのですが…。

 追い切りの動きを見る限り、その不安はなさそうでした。というわけで馬柱。

 毎度のことながら主役を倒せる馬を探しがちな記者が多いのでこんな印になっていますが、ブラックは当然の1番人気。天皇賞・秋の2着馬・サトノクラウンは勝負付けが済んだようにも見えたため3番人気となり、2番人気にはこの年のダービー馬・レイデオロが支持されました。秋初戦の神戸新聞杯を快勝した後、天下の藤沢和雄調教師が、同世代の菊花賞に目をくれず、より適性がありそうな府中の2400メートルを狙ってきたことで大きな期待を集めました。単勝オッズは

 キタサンブラック 2・1倍

 レイデオロ    3・8倍

 サトノクラウン  5・7倍

 史実を知らずにアニメをご覧になった方は戸惑うかもしれませんね。そう、このレースを勝ったシュヴァルグランは上位とはかなり離された位置

 5番人気

 単勝13・3倍

 あくまで伏兵の一頭に過ぎませんでした。前年から「GⅠではあと一歩足りない」キャラでしたし、秋初戦の京都大賞典を1番人気で3着に取りこぼしていたので、妥当な評価だったと思います。だからファンからしたら正直、あの勝利にはビックリ。

 当noteは当時の空気感を持ってくるのが使命ですから触れておきますと、伏兵としての意外な勝利だったからこそ、「シュヴァルグランがキタサンブラックに代わって最強馬に!」という雰囲気にはなりませんでした。もちろん、本格化していたこと、強くなっていたことは間違いありません。ただ、あまりに鮮やかすぎて、「全ての条件が揃った」ように見えたのです。

 ロスなく立ち回れる1枠1番という絶好枠

 逃げるキタサンブラックをマークしやすい枠

 マークできる位置を取れて

 道中は無駄に動かず

 長くいい脚を使える特徴を最後に引き出せる

 世界的名ジョッキー・ボウマン

 翌日の本紙では、天皇賞・秋に見向きもせず、狙いをジャパンカップに絞り、きっちり仕上げてきた陣営の手腕も記事にしています。

 一方で、最後の最後でレイデオロにも交わされ、3着に終わったキタサンブラックについては、レース後、落鉄していたことが判明します。ファンの感情はこうです。

「だから踏ん張り切れなかったのか」

「力負けとは言えないんじゃ?」

 これも前述のように「シュヴァルグランがキタサンブラックに代わって最強馬に!」といった雰囲気にならなかった理由です。

「シュヴァルも強くなってる」

「でも、ブラックにも敗因がある」

「あと1戦」

「頼んだぞ!」

 というわけで、主役はキタサンブラックのまま、競馬界は有馬記念に向かいます。ファン投票でもブラックは2位のサトノダイヤモンドに大差をつけた2年連続の1位で、シュヴァルは5位。やはり、前年の年度代表馬で、ジョッキーが武豊で、オーナーが大御所演歌歌手で、競馬を知らない人でも名前を知っている国民的ホースのスター性は圧倒的。ジャパンカップでシュヴァルグランが勝ったものの、主役交代は絶対にありえなかった。それほど当時の競馬界はキタサンブラックを中心に回っていた、というのが事実です。事実なのですが、アニメの第12話を見て感動した人、泣いてしまった人、いませんか? いると思います。だから少し考えてみました。

考察

 今ご説明したように、シュヴァルグランのジャパンカップ制覇は「乾坤一擲」ではあったもののすべてがうまくいったこととブラックの落鉄もあり、史実ではそれほど劇的ではなく、ファンには超感動的な勝利には映りませんでした。でも、アニメでは別のものに昇華していました。

 同期のライバル

 これだけなら簡単ですが、性格に味付けをしています。

 真反対――

 社交的で常に前向きなキタちゃんと、それができないシュヴァル。スター性があってキラキラしているキタちゃんの背中に追いつけず、悔し涙を流し続けたシュヴァル…そう味付けしたことで、あのジャパンカップの直線は実に感動的なものになりました。画面に向かって叫んだ人もいたはずです。

「シュヴァル!」

「差せ!」

 と。

 私は前回のnoteで、こう書きました。

このアニメ、史実を超えてくるかもしれません。

 ちょっとカッコつけすぎました。そして今改めて考えると「超える」というのはちょっと違う気がします。

「史実とは別の視点を与えてくれる」

 シュヴァルの勝利はその一つではないでしょうか。アニメとして緻密な設定を加えたことで、史実とは別のものになってしまったかもしれませんが、シュヴァルグランという競走馬の輝きを失わせることにはなっておらず、むしろ別の見方、別の良さを気付かせてくれた気がするのです。そう考えると、「ピークアウトした」という設定が、キタサンブラックの別の強さ、リアルでは見えてこなかったすごさをあぶり出す可能性があります。

 それでも「違うじゃん」と感じる人もいるでしょう。ただ、創作物をどうとらえるか、無視するかは受け手次第です。ひとまず今回は、長年競馬場やWINSに通い続け、こんなnoteを3か月も続け、史実をおさらいして、だからこそ「違うじゃん」となるはずなのに、「やっぱりこのアニメっていいな」と思っている私の一意見として書かせていただきました。

 最終回、アニメからの贈り物を楽しみにしています。

ロイスアンドロイス

 トゥインクルシリーズからの引退を発表したキタちゃんをテレビで見つめるチーム・カノープスのメンバー。1人のキャラがしゃべり出しました。

「自分の見せ方、輝き方を分かっているじゃない」

 はい、先週、ゲームでもサポートカードで登場したロイスアンドロイスです。アニメでも時々映っていたものの正体が明かされていませんでしたが、大方の予想通り。で、この馬、まさにカノープスに名を連ねるにふさわしい〝勝ち切れないキャラ〟でした。どんなレースでも上位にはくるのですが、1着は極端に少なく、オープン特別やGⅢで2着や3着という勝ち切れない結果になる一方で、GⅠでも3着に突っ込んでくる…ハイライトは1994年の秋。4歳となったロイスは重賞未勝利のまま、11番人気で臨んだ天皇賞・秋で3着に入るのです。

 マグレっぽかったので続くジャパンカップも8番人気。で、ここでロイスはとんでもないレースを見せます。世界の強豪が揃う大舞台の直線半ばで先頭に躍り出すのです。重賞未勝利馬が!

「え?」

「まさか?」

「ロイス!?」

 ただ、今回の「ウマ娘」で〝セルフプロデュースの鬼〟として描かれたあの馬にとって、「勝利」は〝キャラじゃなかった〟のでしょう。しっかり、内の2頭に差し返されました。

 まさに愛すべき脇役。以降も、古馬王道GⅠ連続3着という実績を持ちながら最後まで重賞を勝てずに引退するのですから、あれが彼女なりの〝見せ方〟だったのかもしれませんね。せっかくなので、3着に入ったジャパンカップの馬柱を載せておきます。同じカノープスのナイスネイチャマチカネタンホイザが仲良く一緒に出ていますので。


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