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RKOは3代目の洗練された味だ【WWE21世紀の必殺技#9】

 RKOはランディ・キース・オートン(本名)からネーミングされた技だ。相手の首を右肩に抱え、落差を利用してアゴや顔面を肩やマットで砕く。この種の技は80年代までは完全な〝禁じ手〟だった。わずかにグレート草津(国際プロレス)がスリーパーホールドから脱出する窮余の策として使っていた「チン・クラッシャー」がある。これは相手のアゴに自らの頭頂部を密着させて尻もちをつく格好でアゴを砕く超危険なものであるため、70年代後半に草津が自主規制している。

 技を受ける相手が舌を歯と歯の間に出していたら死ぬこともある。だから、草津の危険技が復活することは私を含めてファンの誰一人として期待していなかったハズだ。この眠りについた危険技の封印を解いたのは、88年8月に全日プロに初来日したジョニー・エース(現WWE副社長)だ。〝エースクラッシャー〟と名付けたオリジナル必殺技こそ、RKOの原点といえる革命的なムーブだったと思う。 

川田利明(左)にエースクラッシャーを決めるジョニー・エース(1994年11月、北海道・札幌)

 スタン・ハンセンに始まったラリアート・ブームに見られるように、新しい大技が登場すると一気に使い手が増殖していく。エースクラッシャーは斬新なインパクトで若いファンの圧倒的支持を受けて90年代の流行技の一つとなる。やや形が異なるとはいえスティーブ・オースチンのスタナー、DDPのダイヤモンドカッターが代表格だろう。これで顔面砕きは必殺技の横綱格にランクアップされた。そして21世紀に入りランディのRKOで最終形にたどり着いたといっていいだろう。

 ランディが祖父(ボブ・シニア)、父(ボブ・ジュニア)の後を継いだ3代目のサラブレッド・レスラーなのは有名な話だ。RKOもまた、エースクラッシャーからスタナーを経た3代目に当たるというのは不思議な一致といえるかもしれない。

 RKOの特色は、何といってもその躍動感にある。首を右腕でつかみながら思い切りジャンプし、相手の体も同時に宙に浮かせる。そのままマットに着地するのだから、その破壊力たるや恐ろしい。DDPのやっていたダイヤモンドカッターはブルドッキング・ヘッドロックのように対角線に助走するものだった。実はこの助走にドタバタ感があり「ドンくささ」が鼻についた。RKOはその部分を見事に修正してマニアたちからの突っ込みを許さない「芸術品」にまで昇華させている。これこそが3代目の洗練された味といえる。

ミステリオにRKOを見舞うランディ。まさに芸術だ

 このRKO、実はやられる方にもかなりの技量が必要となる。ヒザから着地したり、恐怖心から両手をマットについたりしたら「ドンくさいやっちゃ!」とブーイングを浴びることになる。草津のやっていた70年代にはブーイングが起きることなどなかった。21世紀の必殺技は、やる方もやられる方も〝芸術点〟が求められるのだから過酷である。

流 智美(ながれ・ともみ) 1957年11月16日生まれ、茨城県水戸市出身。プロレス評論家。『ルー・テーズ自伝』、『門外不出・力道山』、『猪木戦記』、『馬場戦記』、『日本プロレス歴代王者名鑑』など、昭和プロレス関連の著書多数。

※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。


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