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矢沢永吉さんのバックコーラスで「ヨロシク!」

 じわじわと、確実に、売れ始めているような気がしないでもないドキュメンタリー芸人・コラアゲンはいごうまん。東スポにおける〝実録連載〟を復刻しています。

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 実は僕、矢沢永吉さんのバックコーラスをやったことがあるんです。2004年12月、武道館ライブを目前に業界内でバックコーラスの募集がありました。合否は書類選考のみで、送ったら見事合格!と言うと聞こえはいいですが、合格者100人の中の1人。しかも応募総数103人でした。

 我々バックコーラス隊の仕事は矢沢さんが「星に願いを」を歌う後ろで歩きながらロウソクの火を揺らすこと。コーラスじゃないやん…まあ、エキストラってとこでしょうか

 そんな僕らはリハーサルで矢沢さんに心をワシづかみされました。舞台袖で待つ僕らは、颯爽と現れたその人に「おはようございます!」と最敬礼。しかし、矢沢さんは一瞥しただけで歩き続ける。去りゆく背中を見ながら「そら、俺らに挨拶してくれるわけないわな」と諦めかけた次の瞬間、振り向いて「ヨロシク!」――これにはハートを射抜かれました。一回スルーされたぶん余計に感激しました。

 さらに僕らの登場するシーン(歩いて背後に集まる様子)を見て、直々にダメ出しもくれました。これはもう一生の財産。ただ、天才がゆえ感覚でおっしゃる節があり、いわく「もっとクラシカルにバーン!」。わ、わからへん…。

 キョトンとする100人をよそに「じゃ、もう一度」。ど、どうする? そんな時コーラス隊の1人が「ムーディーに歩いてみましょう!」。とりあえず意識してやってみたところ、矢沢さんが口を開きました。

「結論言おうか」

 固唾をのむ我々。両手をいっぱいに広げる矢沢さん。出てきた言葉は「グレイト」でした。そして「君たち天才。一度でここまで飲み込めるなんてアンビリーバボ、ビューティフル」。邦人男性ですよ。でも、ボス(矢沢さん)が言うとハマるです。

 天才て言われたことが嬉しくて、リハーサルが終わり楽屋に戻ると100人全員が「ボスのために頑張ろう」と一枚岩になってました。下々の僕らまでをねぎらい、奮い立たせるその求心力。すっかり魅了されたコーラス隊の楽屋はいたるところで〝永ちゃん口調〟が飛び交います。1人の子に電車は何線で帰るのかを聞いたらこうでした。

結論言おうか。(両手広げて)JR」

 コラアゲンはいごうまん 1969年生まれ。自ら体験した出会いやエピソードで観客に爆笑と感動を与える実録ノンフィクション芸人。お笑いライブに加えて企業、医療、学校等で講演活動中。著書に「実話芸人」(幻冬舎文庫)。


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