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性にも「道」が必要だ

読書の秋に衝撃的なタイトルの本を見つけてしまいました。その名も『射精道』。東スポの男セン面にあっても不思議ではないタイトルだなぁと思いながら、ページをめくってみると泌尿器科専門医として性機能障害の治療や生殖医療に心血を注いできた今井伸医師が著者だとあります。これはガチなやつです。しかし、どうして「射精道」なのでしょうか。中高剣道部だった私が読んでみました。(東スポnote編集長・森中航)

読書の秋ですね!

性教育を左右する「はどめ規定」問題

一般的に性教育の話は議論を呼びます。正しく性教育をしたほうが望まぬ妊娠や性暴力などが起きなくなると主張する〝推進派〟と、性教育がセックスを誘発すると考える〝反対派〟に大きく分かれてしまうからです。

性暴力の被害を防ぐべく、文科省は2023年度から全国の幼小中高で「生命(いのち)の安全教育」を実施することを決めています。これが高校生向けの動画教材です。

ご覧になって違和感はありませんでしたか? 性について教えているにもかかわらず、セックスについて一切触れません。教育関係者の間ではよく知られた話ですが、学習指導要領の中に性にかんする「はどめ規定」というものがあり、「妊娠の経過(性交)は取り扱わない」ことになっているのです。要するにセックスについては学校で教えられません。今年10月26日に行われた衆院文科委員会でも永岡桂子文科省は「(はどめ規定を)撤廃することは考えていない」と答弁したばかりです。
(※日本の性教育の問題点については今井医師も本書で言及しています)

私に性の知識を授けたのは…

少しだけ私自身の思春期を振り返ってみます。学校ではセックスについて教えられた記憶がありませんし、女性の生理について学ぶ機会は一度もありませんでした(小学校のときに女子だけが教室に残された授業があったような…)。では、どこで性に関する知識を得たのかと言うと…一部エロ本や国語辞典やX JAPANの曲名(「Standing Sex」「オルガスム」)もありますが、中学時代のある友人による影響が非常に大きかったです。

同じ剣道部で汗を流したH君は同級生とは思えないほど大人びたところがある男でした。高校受験を控えた中学3年の冬ごろ、「将来、お前の役に立つことが書いてあるから大事にしておけ」とH君から1冊のお手製リーフレット(A5で20ページぐらい)を手渡されました。表紙には「How to SEX」と書いてあった気がするのですが、ただのハウツー本ではありませんでした。

セックスするための心構えから始まり、正しいオナニーと性器の洗い方、男性と女性のオーガズムの違いがグラフで示されているのです。見たこともない女性器や避妊具が説明とともにイラストで描かれ、体位の紹介、最後はごていねいにラブホテルの入り方までレクチャーされました(※18歳未満は最悪、補導されると)。はっきり言って雑誌を超えていました。なぜこんなに詳しいのだろうかと驚きましたが、彼は「受験勉強に飽きたタイミングで遊びに書いただけ。大事なことだからお前にだけ教えておく。セックスはただすればいいってもんじゃないんだ」と言うだけでした。

その後、成長と経験とともに性に関する知識がアップデートされたのはもちろんですが、大切なことはH君がほぼすべて教えてくれたと言っても過言ではありません。恋愛に悩むことはありましたが、おかげさまで性欲に振り回されてやらかしたことは皆無です。だからこそ私は若いうちに性に関する正しい知識を学ぶべきだと考えます。

刀も陰茎も使い方を間違えてはいけない

なぜ「射精道」なのでしょうか。本書で、今井医師はこう述べています。

刀にも陰茎にも共通していえるのは、その使い方が道徳から外れると、じつに簡単に社会規範から外れ、凶悪な無法者となってしまうということです。
また、その使い方に関する正しい知識がなかったり、使い方の練習が不十分だったりするために、いざ本番でうまく使えないという事態が起こります。陰茎や性に関する知識不足に由来するさまざまな悩み、陰茎をうまく使いこなせないことからくる悩みを抱えた患者さんたちが、日々、僕の診察室を訪れています。

今井伸『射精道』(光文社新書、2022年、29ページ)

相手の心と自分の心をともに大切にするために、潔い性愛の行動を取ることが、射精道の「義を見てせざるは勇なきなり」の体現になります。自分の頭のなかだけで性愛が成就することはありません。シンプルに言えば、真剣に恋愛することこそが、射精道における「義」ということです。砕けた時にはサッパリとあきらめて、爽やかに立ち去り、間違ってもしつこくつきまとうことはしません。それが「義」を貫く「勇」の実践です。

今井伸『射精道』(光文社新書、2022年、33ページ)

いかがでしょうか。私は膝を打つほど納得しました。ちなみに剣道を始めて最初に教えられるのも竹刀の扱い方です。杖がわりに、先端部分である剣先を床にトントンしようものならえらく怒られます。本書は「射精道」を思春期編、青年期編、中高年編とわけて解説されているので年代を問わずに読むことができると思います。

「射精道」は男だけのものじゃない

さらに注目すべきは第9章の「女性と射精道」です。日本性科学会セクシュアリティ研究会「セックスによる精神的満足」調査を引き合いにし、セックスでオルガズムなどの肉体的な満足感が得られると答えた男性が8割なのに対し、女性は6割にとどまっていること。逆に得られない男性が1割に対して女性が3割と多いところに今井医師は着目します。

女性のオルガズムに対する執着のなさ、セックスを積極的に楽しもうとする意識の低さが、この結果に表れているのではないかと僕は考えています。よく「自分から求めるなんて、淫乱だと思われそうで怖い」とか「セックスは男性にすべてリードしてもらいたい」という女性の声が聞かれますが、「性欲が強い」ことは恥ずべきことではありませんし、「セックスの時に受け身である」ことは女性の専売特許ではありません。セックスの時は、男女問わず、性欲が強いほう、もしくはセックスの経験が豊富なほうがリードして、セックスの経験が少ないほうが受け身になるほうがスムーズに事が運ぶでしょう。

今井伸『射精道』(光文社新書、2022年、264ページ)

そして、「そうです。女性のマスターベーション解放運動が必要なのです」とまで言い切っています。「性を表通りに」を社是にしている企業といえばTENGAが有名です。私は何度も取材したことがありますが、同社は「オナニーグッズ」ではなく、誇りをもって「セルフプレジャーアイテム」を販売しています。最近では膣内射精障害の改善を目的とした「メンズトレーニングカップ」などヘルスケア事業も手がけています。一部ドラッグストアでも取り扱われていますので、一度試してみるのも良いかと思います。


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