米国人に英単語「Tombstone」はあんまり通じない【WWE21世紀の必殺技#1】
新連載の1回目には、英単語として近々、辞書にも掲載されそうな「ツームストーン」を取り上げたい。
プロレス狂の私の友人がロサンゼルスに旅行に赴き、過去の有名なムービー・スターが眠っているハリウッドの墓地を訪れようと、タクシーの運転手に「プリーズ・ゴー・ツゥ・ツームストーン!」と告げたところ、全く通じなかったそうだ。
「ツームストーン」(墓石)という単語は、欧米ではめったに使われない。お墓(墓地)は「セメトリー」という呼称が一般的だし、経費節減の目的(?)もあり、棺を埋めた後は、故人の名前を小さなプレートに刻んで、地表のコンクリートの部分に張り付けてあるだけ。墓石という習慣はもはや絶滅に近いのだ。
前置きが長くなったが、そんなワケで今や「ツームストーン」という英単語は、アンダーテイカーのフィニッシュ技だと思っているアメリカ人が多い(特に若年層)。あと5~6年したら、英和辞典の和訳もそうなるかも(マジな話)。
私はこの技のルーツに興味があったので、カール・ゴッチが82年3月に来日した際、一体誰が元祖なのか聞いてみたことがあった。
「私が若いころ、この技はジャーマン・パイルドライバーと呼ばれていた。イギリスのビリー・ジョイスが得意にしていたね。コツは相手の首を左手で固定させることと、自分の両ヒザをキャンバスにセイザ(正座)するように落とすこと、の2つだ」
「セイザ」という日本語が今でも耳の奥に残っている。新日プロの旗揚げ第1戦(72年3月6日、東京・大田区体育館)で猪木を半失神に追い込んだ一発は実に強烈だったが、これを改良して相手の腰で両手をグリップし、まさに墓石を抱えて正座する形にしたのはアンドレ・ザ・ジャイアントだった。
まだモンスター・ロシモフというリングネームだったころのアンドレが“密林王”ターザン・タイラーを脳天から叩きつけて首の骨を折るアクシデントを起こしてしまった(72年9月)が、それ以降、この技を“不吉な技”として封印するレスラーが相次いだ。
売れない巨体の二流レスラー、マーク・キャラウェイがWWEでアンダーテイカー(墓掘り人、葬儀屋)に変身したのが90年秋。新キャラに合わせ、眠っていた“不吉な技”を、ビンス・マクマホンが18年ぶりに蘇らせた。
アンダーテイカーは叩きつけた後に相手の両手を胸の上で組ませ(レスト・イン・ピース=安らかに眠れ)、両眼を白眼にして(これもできそうでできない)場内に大見えを切ってみせたが、このパフォーマンスがアンダーテイカーの人気を不動のものにした。
「ツームストーン」(なぜかアンダーテイカーがやるとドライバーがつかず、ただのツームストーン)は、WWEスーパースターズの持つペット・ムーブ(得意技)の中で最も息の長い必殺技となっているが、46歳で早世した大巨人アンドレが「オレの分まで、オレの必殺技の分まで頑張るんだぞ!」と、43歳になったアンダーテイカーを天国から応援しているかもしれない。
※この連載は2006年2月~5月まで全10回で紙面掲載されました。東スポnoteでは当時よりも写真を増やしてお届けしました。