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棺桶に麻雀牌バアさんと麻雀は席だよジジイ

 高齢雀士たちの麻雀エピソードほど面白いものはありません。各地のマージャン教室や大会に積極的に参加し、ジジババたちの元気すぎる姿を目の当たりにしている「雀聖アワー」福山純生氏が、その生態をつづります。

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東1局

 ヨシエ師匠と呼んでいる敬愛するバアさんがいる。御年76。麻雀以外の趣味はパチンコ。日課は入浴時、ハイライトを吸いながら「ゴルゴ13」を読むこと。旦那のヒロシさんから麻雀とパチンコとゴルゴ13を叩き込まれた御婦人である。

 2年前。ヒロシさんの通夜にて、最期の顔を見てやってほしいと声をかけてくれたヨシエ師匠。拝顔させて頂くと、顔の左右に点棒が陳列されているではないか! さらに腰のあたりに促される。なんと腰の下にはマージャン牌が敷き詰められているではないか!

「葬儀屋がうるさいのよ。点棒は火葬してもいいけど、牌はダメだって。でも牌がないと打てないじゃない。だからこっそり入れといたの」

 不謹慎だが、葬儀場で大笑い。

 数か月後。墓石をマージャン牌と同じ寸法で発注したヨシエ師匠。

「時間かかっちゃった。この墓石、珍しい寸法なんだって」。

 そりゃあそうだろう。石材店も腰を抜かしたに違いない。

 迎えた三回忌麻雀。ヨシエ師匠は新たな技を身につけていた。リーチ後、ツモるたびに毎回旦那の名を呼び始めるのだ。

「ヒロシ~!」

「たまには気を使え~。ヒロシ~!」

「待ちがわかってんならツモらせろ~! ヒロシ~!」

 あの世で旦那もおちおちしてはいられなかった。リーチ一発ツモから国士無双ハイテイツモまで、ことごとくアガりまくるヨシエ師匠。これぞ麻雀葬!? その日。ヨシエ師匠は大勝したのであった。

東2局

「あんたツイてるな。なんてったってずっとその席だからな!

 アガれない御仁からの根拠のない言いがかり。経験された方も多いのでは。

 御年81。そのジジイの口癖は「麻雀は席で決まる!」。毎度無駄にリキんで場所決めに全力を注ぐ。その前にもっとやることがあるのでは。先ツモをやめるとか。あやふやな点数計算をきっちり覚えるとか。それはおいといて。

 とある大会にて、とあるバアさんの持ち点が8万点を超えた。旦那に先立たれ、旦那の趣味に興じてみようと、半年前から麻雀教室に通い始めたバァさん。御年79。そのバアさんに、後ろの卓から席重視ジジイが熱視線を送っていた。

 順位順に席が決まる最終戦。8万点超えのバアさんは前方の卓へ。席重視ジジイは、さっきまでバアさんが戦っていた卓にやってきた。場所決めに全力を注ぐジジイ。迎えた東2局。立て続けにアガりまくる。

「おっ一発。こんなのツモれちゃうんだ。満貫マンガン~!」

「またツモった。跳満ハネマンだな」

 なんだかんだで一気に6万点オーバーするジジイが言った。

「麻雀は席だな。さっきこの席でバアさんがアガりまくったからな。まだまだツモるぞ~!」

 喜び勇むジジイ。だが大会終了後、バアさんは私にささやいいた。

「さっきアタシが座っていたのは東家トンチャの席。あのジジイが座っているのは南家ナンチャの席。席なんか関係ないわよ。たまたまね」

 ジジイ痛恨の席違い。しかし、ジジイは身をもって教えてくれた。思い込みがいかに重要であるかを。

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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