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夜間國際交流、我們一起唱了玉置浩二的歌!

夜の国際交流と書きましたが、まったく色っぽい話ではありません。登場人物は全員男なので悪しからず。(東スポnote編集長・森中航)

Day1

 仕事で疲れているのだからまっすぐ家に帰れば良いのに、顔なじみのバーに立ち寄った。ほぼ終電だったので時刻は午前0時を過ぎたところ。2人の常連さんのほかに、初めて見る、20代くらいの青年がぽつんと座っていてスマホを触っている。瓶ビールを手にした店長がやってくると、「おつかれさま~。彼はね、中国から来ていて英語は話せるみたい」だという。
 
 英語を流暢に話す客はいなかったが、皆が「乾杯(カンペー)」くらいは知っている。グラスを合わせると自然と会話が生まれ、私はとりあえず、彼の名前と中国のどこ出身なのかを拙い英語で尋ねてみた。ここではA君としておこう。A君は広東省の深圳出身だという。
 
 深圳といえば、多国籍企業が進出する金融都市として有名だし、高層ビルの夜景もすごいっぽいし、深圳大学という名門大学もあるよね…なんてことを次々に思い浮かべたが、疲弊してさらにアルコールの回り始めた私の頭では英作文することがままならない。なんとか英単語とジェスチャーで質問をすると、A君はとても聞き取りやすい英語でスマートに答えてくれるのだった。

「なぜそんなに上手に英語話せるんだい?僕も英語を勉強したけど、さっぱりだぜ」
「中国では小学生からずっと英語を勉強しています。若い人はみんなこんな感じですよ」

 いやいや、数年早くやったからだけではなく、英語教育そのものが違うんじゃないかと突っ込みたくなるほど雲泥の差で、私は英語をろくに勉強しなかったことを悔いた。しかし、スマホ翻訳を駆使して質問を続けると、A君は日本に旅行中で、高校の同級生で日本在住のB君の家にステイ中。ところが、B君の彼女がお泊りすることになったので、この日だけやむなく近くのホテルへ1泊することになったという。なんか青春、うらやましい。
 
 
 この店にはギターが置いてあって、店長や音楽好きの客が弾き語りを披露したりする。もうすぐ70歳を迎える店長はギターに手を伸ばし、「さっきKiroroの『未来へ』を歌ったたら、彼が『知ってる』って一緒に歌ったんだよ。サザンの『真夏の果実』もイケた。谷村新司の『昴』は知ってるかなぁ…」などと言う。

マジかよ、Kiroroってそんなに有名だったのか。私はA君に「日本だとKiroroは卒業式ソングの定番らしい」とざっくり伝えると、A君は目を丸くして驚いている。

「Really? That song is very sad song.」
「No,No.If anything, hopeful song!」

 どうやら我々の間には齟齬があるらしい。またしてもスマホのお世話になり、「中国 キロロ 未来へ」と検索してみると、中国語バージョンの「未来へ」はタイトルが「後来」で歌詞もまるで異なり、純度100%の失恋ソングであることが判明した。ちなみに26歳のA君は谷村新司には無反応だった。さすがにこれは世代が違い過ぎた。
 
 話が面白いのに、英語がいよいよ面倒くさくなった私はビールを2本飲んでようやく漢字の存在を思い出した。漢字さえあれば、中国語を知らずとも想像以上に意思疎通が図れたことが過去にあったのだ。試しに私が紙にペンで「我希望日中朋友」と書くと、彼はすぐに笑ってウンウンと頷いてくれた。

 さらに「魏・呉・蜀 Which one do you like?」と書いたら、A君は魏を指し示しながら「曹操が好きだから」。本当かどうかは知らないが、A君の体感値では「中国人のThree Kingdoms人気は偏っており、蜀60%、魏30%、呉10%」なのだという。
 
 飲んで笑っている間に夜が更け、そろそろ帰ろうかと思ったらA君が思いもよらぬ歌手をスマホに映し出してきた。玉置浩二の「悲しみにさよなら」のリクエストだ。「(深圳から近い)香港では特に人気があるし、台湾でも有名だ」という。ギターのコードはそんなに難しくない。私が日本語で歌い始めると、A君は「それだよそれ」みたいにな顔をして体をリズムに乗せ、サビになるとA君も中国語で一緒に歌った。

 違う言葉で歌っているのにハーモニーだった。
 眠くなって目をこすっていた店長が「やっぱ音楽に国境はないよね」と呟いた。

玉置浩二(1986年)

(次回Day2はA君だけでなくイケメンのフランス人も登場)

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