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牌が消えた!ジジババ卓で起きた怪事件

 高齢雀士たちの麻雀エピソードほど面白いものはない。各地のマージャン教室や大会に積極的に参加し、ジジババたちの元気すぎる姿を目の当たりにしている「雀聖アワー」福山純生氏が、その生態をつづります。

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東1局

 事件は卓上で起きた。

 東家トンチャに御年85、雀歴70年のジジイ。

 南家ナンチャに御年77、雀歴2年のバアさん。

 西家シャーチャに御年84、雀歴3年のバアさん。

 北家ペーチャに御年71、雀歴1年のバアさん。

 南場に入り、ジジイは「ポン」「チー」「ポン」「チー」と4回。親で連荘レンチャンしようと必死に食い散らかしていた。そして裸単騎となった1枚を伏せた。

 ツモ番が残り2巡を迎えようとしていたそのとき。北家のバアさんがツモ切り。その瞬間、ジジイから歓喜の声が上がった。

「ロ~ン!」

 伏せ牌をめくって見せようとしたジジイ。

「あれ? ワシの牌がない!」

 素っ頓狂な声を張り上げる。

「消えた! ここにあったワシの牌が!!」

 同卓者も不思議がっている。椅子の下にでも落ちたんじゃないのかということになり、全員で牌の捜索が始まった。

 隣の卓下まで捜索の手を広げるジジイ。

「ところで消えた牌って何だったんだい?」

 北家のバアさんが聞いた。

「あんたが切った一索イーソウだよ。さっきまでここにあったんだ」

「一索か。鳥だからどっか飛んでったのかねぇ」

 汗だくのジジイを前に、優雅な発想である。その後、卓上の牌を確認したところ、間違いなく136枚あった。

 ということは。北家のバアさんがジジイが伏せていた牌をツモって切った可能性が高い。しかし目撃者はいない。河に注目していたジジイ以外、3人が自分の手牌を凝視する中で起きた卓上のミステリー。その後、ジジイは裸単騎待ちでも牌を伏せなくなった。それどころか、誰かが伏せ牌をしていると注意するようになった。

 人間はいくつになっても進化する…のか!?

どこに飛んでいったのか…

東2局

 漫画もドラマも、ヒット要因のひとつに決め台詞がある。水戸黄門で言えば「この紋所が目に入らぬか」のような。

 御年81。そのジジイは点棒を渡すときに必ず言う。

「はいどうぞ~!」

 これまで同卓した中で、これほど気持ち良く発声し、テキパキと点棒をやり取りするジジイに出会ったことはない。麻雀の発声は「ツモ」「ロン」「ポン」「チー」「カン」。あとは点数申告。たったそれだけの言葉の中にも、心情が吐露されるジジババは多い。負けが込むと、イライラしている心の声は自然に発露されてしまうものだ。

 しかしそのジジイ。ロンされようが、ツモられようが、役満にフリ込もうがタンヤオのみでアガられようが、誰がアガっても「はいどうぞ~!」なのだ。

 ジジイのかつての職業が気になり、私は観察を続けた。

 ある日。ひとりのバアさんと熱心に話し込んでいた。しかも珍しく興奮気味である。

「あんた、あそこで買うのはやめたほうがいい」

「だったらその通りの角にある八百屋に行きな。あそこの自家製の漬物を食ったら、ほかで食えなくなるよ」

 その後も延々と漬物談義。

「あの店の目利きはただもんじゃないよ。なんてたってオレの弟子だからな。ガハハハ」

 どうやら八百屋だったようだ。おそらく現役時代。セリや客とのやり取りで培われた所作が、麻雀にも活きているのだろう。今でも毎日野菜をバリバリ食っているらしく、毎朝快便だと誇らしく語っていた。

 ちなみにそのジジイ。「はいどうぞ~!」のほかにもうひとつ決め台詞がある。それは自分がアガったときに必ず言う台詞。

「はいどうも~!」

◆福山純生(ふくやま・よしき)1970年、北海道生まれ。雀聖アワー主宰。全日本健康麻将協議会理事。健康麻将全国会新聞編集長。好きな役はツモ。


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