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「大滝詠一さんを聴いてるだけで心がキラキラ」【マーティ×島倉りか対談/前編】

 昭和生まれの歌手や楽曲を、平成生まれのアイドルと外国生まれのミュージシャンはどう聴くのか――。世界的ギタリストのマーティ・フリードマンが、昭和歌謡好きで知られるBEYOOOOONDS島倉りかをゲストに迎えてトークします。島倉が愛してやまない大滝詠一さんの曲を聴かせると、マーティの音楽愛スイッチがONになり、話は思いもよらぬ展開へ――。(企画構成・アラフィフ記者F)

大滝詠一を初めて聞いたマーティが大絶賛「相当の天才じゃないとできない」

 ――島倉さんは2000年生まれの21歳。昭和歌謡が大好きで、ここに並んでいるレコードとCDは、島倉さんに家から持ってきてもらった私物です

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 マーティ 素晴らしいじゃん! 生まれる前の曲をなんで好きなんですか?

 島倉 14歳ぐらいで松田聖子さんを大好きになって、そこから昭和の歌を聴くようになりました。好きな理由は、いまの時代にはない懐かしさを感じるからです。

 ――最初のテーマを島倉さんの私物から選びましょう。ちょうど発売40周年、日本の音楽史に残る重要なアルバムがあります。大滝詠一さん(1948~2013年)の「A LONG VACATION」(81年)です

 マーティ これはシティ・ポップのですね。聴いたことはないです。

 島倉 大滝さんはマニアックな方で、海外の楽曲の影響をすごく受けてるんですよね。

大滝詠一ロングバケーション



 ――そのあたりもマーティさんにどう聴こえるか楽しみです。最初はアルバムのオープニング曲、日本のポップス史上最高のイントロから始まる「君は天然色」です

 マーティ(イントロを聴きながら)これは完全にザ・ロネッツですね。フィル・スペクター(1939~2021年、プロデューサー)の音。僕の好みのど真ん中です!(歌が入ってから)いきなりビーチ・ボーイズのモチーフになったね。

 島倉 大滝さんはビーチ・ボーイズが大好きだったんですよね。

 マーティ 本当ですか。素晴らしいです。(Aメロを聴きながら)これ完全にフィル・スペクターのクリスマス・アルバム(初出は63年)のモチーフですね。

 島倉 そうなんですね!

 マーティ だけどそれを再現するのはかなり難しいです。相当の天才じゃないとできません。音をいろいろ重ねるんですよ。ピアノ、コーラス、弦、パーカッション、タンバリン…。かなりセンスが良くて、このジャンルに対する愛がないと、ここまでのものは絶対にできません。きっと山下達郎さんは僕よりずっと詳しいと思います。

 ――その山下達郎さんをデビューに導いたのが大滝さんです。山下さんの師匠みたいな人です

 マーティ そうなんですか。僕はこのサウンド大好きです。時々つんく♂さんのプロデュースの中にもこういうサウンド出てきますね。りかちゃんと呼んでもいいですか? りかちゃんはこの曲を聴いたらどんな気持ちになるんですか。

 島倉 めちゃくちゃ好きで、毎日聴いてます。聴いてるだけで心がキラキラして、生活の中に色が出て、華やかな気持ちになります。

 マーティ これを聴いて絶対にうつな気持ちにならないじゃん。気分が良くなります。ビーチ・ボーイズも知ってるんですか?

 島倉 大滝さんが好きだと知って、私も聴くようになりました。ビーチボーイズの曲の要素を取り入れているから、私も絶対に好きだろうなと思って聴いたら、やっぱり好きな曲調でした。

 マーティ マニアな話、していいですか。ビーチ・ボーイズの「サーフィンU.S.A.」(63年)をカバーしたリーフ・ギャレットというアメリカで人気だったアイドル歌手がいたんですよ。1970年代後半に「サーフィン――」や「浮気なスー」(オリジナルはDION、61年)みたいな50~60年代の曲を、バージョンアップしてカバーし、ヒットさせました。この曲を聴いてそれを思い出しました。

 ――バージョンアップによる味付けの妙を、この曲から連想したんですね。ギャレットは日本では「ダンスに夢中」(78年)や田原俊彦のデビュー曲「哀愁でいと」(80年)の元曲の歌手として知られてます。まだサビまで到達してないのに、こんなに様々な名前が出るとは…

「君は天然色」は「聴いてるとドキドキする声なんです」

 マーティ ちょっと話がそれるけど、ギャレットはいわゆるアイドルでした。そのスタイルが日本のアイドルの世界に近いと思うんです。

 島倉 そうなんですか?

 マーティ カワイイ男が、1950~60年代のハッピーな定番曲をバージョンアップして歌って、バックではセッションのトップクラスの人たちが演奏してました。この3つの要素=カワイイ人が前、ハッピーな曲、スーパープロが演奏。これは日本のアイドルのフォーミュラ(やり方)と同じです。とてもいいフォーミュラだといつも思うんだけど、アメリカでは寿命が短くて、70年代中盤ぐらいだけでした。でも日本ではこのフォーミュラがどんどん進化してるじゃん。

 ――確かに日本のアイドルは70年代以降、長くそのスタイルです

 マーティ いろんな街で48人集めたり、コンセプトが進化して、ハンパなく素晴らしくなってきました。こういう日本のアイドルの世界が僕の好みのど真ん中なんです。アメリカみたいにセリーヌ・ディオンやアデルのような超才能がある人ひとりをメインにするより、才能、憧れだけじゃなく、みんなが役割を持って、素晴らしいチームワークで取り組んでいる日本のスタイルの方が面白いし、楽しめます。この曲を聴いて、そんなことを思い出しました。

紙面掲載2マーティ

 ――まだ半分ぐらいしか聴いてないですが、大滝さんは曲の中に、マーティさんを刺激する要素を多数込めていたんですね。ではサビまでいきます

 マーティ(♪色をつけてくれ~の後)このキメもフィル・スペクターのキメですね。

 島倉 え~、そうなんですね! おもしろい。

 マーティ(♪うるわしのColor Girl~のところ)このGirlも、フィル・スペクター定番の歌い方です。

 島倉 へ~! 大滝さんの声はどう思いますか?

 マーティ 最高に好きですよ。聴きやすくてすてきな声です。

 ――島倉さんは大滝さんの大ファンですが、どういうところが好きなんですか

 島倉 声が好きです。聴いてるとドキドキする声なんです。こういうふうに感じるの初めてでした。

 ――まるで恋してるような表現です

 島倉 恋みたいな感じかもしれないです。

紙面掲載2島倉


 ――マーティさん、声以外の部分は

 マーティ フィル・スペクターをここまで再現できるのが、僕の心をつかみます。僕の好きな音楽を彼も愛していたのが伝わってきます。たぶん、レコードコレクションも似てると思います。今聴いたのはなんていう曲でしたか?

 島倉「君は天然色」です。このアルバムです。

 マーティ 僕は持ってないから、この後、このアルバム買います。

 島倉 最近、ユーチューブにオフィシャルのミュージックビデオがupされたんですよ。今までなかったんです。サブスクも最近解禁されました。

 ――詳しいですね! 次は小林旭さんに提供し、大ヒットした「熱き心に」(85年)の大滝さん歌唱バージョンを聴いてみましょう

熱き心ジャケ

 島倉 わたしは大滝さんのしか聴いたことがなかったです。

 マーティ イントロが長いけど、やっぱりすてきな声です。メロメロします。

 島倉 メロメロ! なんかわかります。

 マーティ すてきな曲です。こっちは日本的ですね。この曲、僕なら女の子に歌ってもらいたいです。

マーティが「A面で恋をして」の〝元ネタ〟公開!

 ――意外な発想! この対談でマーティさんは大滝詠一さんの曲を初めて聴き、ファンになったようです。島倉さん、マーティさんをさらに引き込む、トドメの一曲を!

 島倉 ラッツ&スターさんや多くの方がカバーされている「夢で逢えたら」(ラッツは1996年)も好きですし、薬師丸ひろ子さんが歌われた「すこしだけやさしく」(83年)も好きだけど、やっぱりご本人が歌っている「A面で恋をして」(81年)ですね(スマホから再生)。

 マーティ(イントロを聴きながら)フィル・スペクターだね、やっぱり。パーカッションがたまらないですよ。この「タン・タタン・トン」というビートは「ビー・マイ・ベイビー」(ザ・ロネッツ、63年)から。ビートの数もコード進行もフィル・スペクターだね。(歌が入ってから)コーラスが素晴らしいです。豪華ですね。

 島倉 確かに、いろんな声が入ってますね。

 ――ナイアガラ・トライアングル2の曲だから、大滝さんと佐野元春&杉真理さんの声ですね

 マーティ(間奏が始まって)この間奏もフィル・スペクター…。なにこれ、大好きですよ! 初めて聴いたんですけど。どれに入ってるんですか?

 島倉 ピンク色で中心に三角形が描かれたジャケットの「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」です。

ナイアガラジャケ

 マーティ ボーカル、バッキングボーカルがとても美しくてすてきです。世界観がおいしいよ! でも、ちょっと待ってください…(スマホの曲を探す)。ありました。心の準備、できてますか?(曲を再生)。

 島倉 え? あれ!? ほぼ同じ!? アハハ。

 マーティ バディ・ホリーの「エヴリデイ」(57年)です。この曲のモチーフだね。さらにこの曲をフィル・スペクターのマネしてカバーした人がいるんですよ。(スマホの曲を探す)これは豪華バージョン。大滝さんにちょっと近くなります(曲を再生)。

 島倉 へー。この「エヴリデイ」は誰ですか?

 マーティ ブルース&テリーです。60年代中盤の人たちで、この時代が好きな人は大好きですよ。自分の音楽に取り入れたくなります。メンバーのブルース・ジョンストンは、途中からビーチ・ボーイズに加入しました。

 島倉 ビーチ・ボーイズ!? 話がつながりました! 大滝さんが好きだった音楽の輪郭が、すごくよく見えてきますね。おもしろい。

紙面掲載3

 ――マーティさん、大滝さんの“元ネタ”も好きだったんですね。すっかり“大滝ファン”になったところで、島倉さん、他にオススメ曲はありますか

 島倉 大滝さんがいた「はっぴいえんど」はどうですか。これは歌っているのは大滝さんではないですが、代表曲の「風をあつめて」。71年の曲です(曲を再生)。

 マーティ 50年前の曲ですか。これ、古くさい感じしないですね。現代の曲にぜんぜん属する気がします。最近こういうすかすかのアレンジの曲はやってるじゃないですか。ボーカルがメインで演奏はシンプル。豪華なアレンジじゃない。そういう今の風潮と同じ感じです。

 島倉 そうですね。古く感じません。

 マーティ 古さを感じるのは、レコーディングの音と、楽器の音色ぐらいです。曲はまったく古くない。今の音楽はこういうスタイルを新しくしようとしてるんじゃないですか。

 ――大滝さん編は以上です。島倉さんはマーティさんが聴いたことない曲をオススメし、初めて聴いたマーティさんはファンになった上に、一瞬で曲を解体してルーツを解き明かして示す。過去にない展開でした(中編に続く)

しまくら・りか 2000年8月20日生まれ。東京都出身。19年にBEYOOOOONDSとしてデビュー。ユニットCHICA#TETSUのメンバー。最新シングルはオリコン初登場1位の「激辛LOVE/Now Now Ningen/こんなハズジャナカッター!」。
マーティ・フリードマン 米国・ワシントンDC出身のギタリスト。1990年から2000年までメガデスに在籍。04年から拠点を日本に移し幅広いジャンルで活躍している。「紅蓮華」などをカバーしたアルバム「TOKYO JUKEBOX3」が発売中。

※この連載は2021年4月9日から7月30日まで全9回で紙面掲載されました。東スポnoteでは写真およびアーティストの公式YouTube等を追加し、3回でお届けする予定です。



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