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6か月ぶり2度目の糞コラム

イーロン・マスクとうんこ絵文字

 それは3月20日のことだった。何かと世間を騒がせているイーロン・マスク氏がメディア向け窓口に寄せられたメールに対し、うんこの絵文字が自動返信されることをツイートしたのだ。

 マスク氏がうんこ絵文字を使ったのはこれが初めてではない。彼がまだTwitterを買収手続き中だった2022年5月にも、同社の前CEOにうんこ絵文字を送りつけた。おそらく気に入らない連中に「クソ野郎」の意味合いを込めているのだろう。ただ、あまりにコミカルなうんこ絵文字を目にした私はなぜか楽しくなってきて、心ウキウキで原稿を書いてしまった。それを確認したデスクは「見出しにうんこ絵文字はちょっと品がないかなぁ…」と苦笑いしながらも絶妙な見出しにアレンジしてくれた。東スポ記者たるもの常に「気品」を忘れてはならない。

『うんこ文学』というやさしい世界


うんこ本を読みました

私はこのちょっと前に、『うんこ文学 漏らす悲しみを知っている人のために』(ちくま文庫)という本をひそかに読み始めていた。なぜってブックカバーもかけずに大手をふるように読んでいたら、自分が〝経験者〟だと思われてしまうではないか。編者の頭木弘樹さんは冒頭でこんな挨拶をしている。

 編者からのご挨拶 生きるかなしみとしての排泄
 排泄は、秘めやかに個室で行われます。
 外で漏らしても、その思い出は、心の奥底の個室に封じ込められます。
 かなしいのは自分だけになってしまいます。
 でも、漏らしたことのある人は、意外に多いのです。みんな隠しているだけで、〝漏らすかなしみ〟を知っている仲間はたくさんいます。もし、みんなで打ち明けあえれば、「おれも」「わたしも」となって、心の解放ともなり、心のつながりとなるでしょう。
 排泄について、もっとオープンに話し合える場を作れないものかと願っています。
 そんな思いもこめて、このアンソロジーを編みました。
 文学がいかに、うんこを描いてきたか、ご堪能ください!

 これだけで目頭がちょっと熱くなったのは、私の心が解放されたから…だけではない。うんこにまつわる珠玉の作品を17篇も集めた著者、筑摩書房という老舗がこんなタイトル(※褒めてます)の本を刊行してくれた奇跡に感謝したからである。そして今、私はnoteに6か月ぶり2度目の糞コラムを書いている。これが多いか少ないかはわからない。

うんこが教えてくれた豊かさ

さて、17の物語をすべて語るわけにはいかないし、こと饒舌になりすぎて下品になり下がることだけは避けねばなるまい。ベスト3を紹介することにする。

1.筒井康隆『コレラ』

 新型コロナウイルスの感染拡大で一時期、カミュの『ペスト』が注目されたが、筒井の『コレラ』も感染症をめぐる物語。1970年に発表されたものだが、空港の検疫をくぐり抜けて感染が広がる様子などは〝予言〟していたかのようにすら思えてくる。光和商事という小さな会社に勤める主人公・下野緋五郎がコレラの蔓延をシニカルに語る中、彼女が喫茶店で下痢をまき散らす描写が圧巻。人間の本質を空洞と言いのけるのはさすが鬼才・筒井康隆である。

消化管が、人間の胴体を上から下へと貫いている唯一の空洞である以上、人間はその空洞を取り巻いている肉塊でしかない。逆にいえば人間の中心部は単なる空洞なのであって、周囲から肉をとり去っていって最後に残る人間の本質こそが空洞――つまり、何もない空間なのだ。ドーナツやレンコンと同様、人間もまた中央部の穴の存在によってしか存在を許されない存在であった。

頭木弘樹 編『うんこ文学』(ちくま文庫、2023年、68p)

2.土田よしこ『つる姫じゃ~!』ピクニックにきたけれど…の巻

 唯一のマンガ作品。しかも1973~79年に少女マンガ誌「週刊マーガレット」に掲載されていた名作。父の実家に単行本があって(おそらく叔母のものだろう)、私は小学生のときに読んだ記憶があるが、20年ぶりにうんこを通じてつる姫と再会を果たすとは驚きだった。少女マンガとは思えないほどギャグの嵐。ハゲていてブスで不潔で図々しくて周囲に迷惑ばかりかけるつる姫が「ヘンゼルとグレーテル」のようにうんこを漏らす…要約するとそれだけなのだが、だからこそスッキリするのかもしれない。令和の時代に読まれてほしいと思う。

3.伊沢正名『野糞の醍醐味』(『くう・ねる・のぐそ 自然に「愛」のお返しを』より)

 1974年から半世紀近く野糞を続けている人物による実践談。自然写真家として活躍しつつ、2006年から糞土師を名乗り、うんこと野糞で人と自然の共生を訴えている。世の中いろいろな人いるものであるが、読むと巷で流行しているSDGsの先駆者なのではないかとすら思える。

 この「便利」になったはずの社会はどうだ。本来ならその分余裕ができて、気持ちがのんびりするはずなのに、あくせくしている人が、むしろ以前より増えたのではないか。一方の私はというと、野糞という非効率な行為を通じて、ヒトが本来持っていたであろう「生きものとしてのリズム」をつかみ、かえってゆったりとした豊かな心を持つことができた。

頭木弘樹 編『うんこ文学』(ちくま文庫、2023年、206p)

 いかがだろうか。うんこ文学を通じて私は人間存在の本質を考え、令和にはありえない昭和のギャグセンスを懐かしみ、SDGsまでに思いをめぐらせた。うんこは捨てたもんじゃない。(東スポnote編集長・森中航)

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