78歳!〝府中のドン・ファン〟が麻雀中にこぼした一言
愛すべきジジババの〝麻雀エピソード〟を明かす当コーナー。ペンを執るのは、各地のマージャン教室や大会に積極的に参加している「雀聖アワー」の福山純生氏だ。
東1局
「紀州のドン・ファン」こと野崎幸助さんが亡くなってから5年が経った。怪死事件としてニュースとなったが「美女4000人に30億円を貢いだ男」という本が生前に発売されていたこともあり、あの頃は、この事件を話題に挙げる御仁は多かった。
事件翌年だっただろうか。御年78だったテツさんは野崎さんと同い歳。東京都府中市に住んでいるため「府中のドン・ファン」と地元の自治会で勝手に名乗っていた。
「おっ、なんだよ、安め出すなよ!」
見れば高め1索だと、リーチ・三色同順・純チャンタで出アガリでも跳満確定の手。フリ込んだ御年70のヤスさんが「だったらアガらなきゃいいべさ。ワシだったら見逃してツモにかけるね」と即座に応酬した。
「いや、そうしようと思ってたけど、出ちゃったんだからしょうがない」
「しょうがないってことはないべさ。ワシだったら4索ツモったって切るね。ロマンがないなぁ、府中のドン・ファンなら徹底的に高め追求じゃないの」
バツが悪そうなテツさん。「そりゃそうだけどよ、安目でもとりあえずアガれるものはアガっとかないとな」とリーチ・平和で得た2000点を点箱に仕舞い込んだ。
ここまではなんの説得力も感じられなかったのだが「でもよ、俺たち金持ってなくてよかったな。仮に持っててもよ、死んじまっちゃあ、元も子もねえからな」とテツさん。「確かにな。安めでもアガっといたほうがいいかもな」とヤスさん。
男の嫉妬心を無理矢理なだめる傷の舐め合い。迂闊にも、説得力を感じてしまった。合掌。
東2局
「礼儀がなっとらん! いきなり今どこ? だなんて無礼極まれり!」
僅差で迎えたオーラス。小生の対面でいきり立っている御仁は御年77、喜寿を迎えたキヨシさん。元国家公務員、かつては中央省庁でバリバリ働いていたそうで、文章の書き方については一家言お持ちだ。
「はいそれロン、いっぱ~つ!」と小生の眉間に指を差し、裏ドラを2枚も乗せてリーチ・一発・ドラ2で満貫トップ終了にご満悦なご様子。
小生、ラスに落ちたものの平静を装い「例のスナックからの定期連絡ですか?」と話を戻してみた。
そのスナックとは〝見守り確認〟と称し、常連客に毎日自作の俳句をメールで送ってくる推定年齢80オーバーのマダムの店だ。
「俳句じゃねえよ。LINEだよ、LINE。先週から無理やりやらされてんだけどよ、どうもいけねえ」「いけねえというのは?」「文章ってのはよ、まずは時候の挨拶。そして自分の近況も伝えながら要件を切り出す。最後にご自愛くださいと相手を案じるのが礼儀ってもんだろ」と鼻息が荒い。
「あのマダムがLINEを?」と驚嘆すると「バカ、孫だよ、中学生になった孫の愛子だよ。ワシは出かけたら帰ってこない〝出たきり老人〟だとか娘が言いやがって、孫と娘のグループLINEだかに入れさせられたんだよ」とのこと。「ちゃんとした文章を書けるようにしてやらないと、日本の未来が思いやられるな」とこぼし、俳句マダムのスナックにそそくさと出陣していった。
世代を超えた見守りサービスだったとはいえ、喜寿でLINEデビュー。そして日本の未来を憂う。
一発満貫放銃に後悔は微塵もなかった。