副詞なのか、おーん、感動詞なのか
プロ野球セ・リーグは阪神が首位を快走しています。6月に入ってからは4勝6敗1分け(6月13日試合終了時点)とやや失速して2位のDeNAが追い上げていますが、5月13日から首位キープに全国の虎党も18年ぶりの〝アレ〟を期待しています。普段、野球をご覧にならない方のために説明すると、ここでの〝アレ〟とは12球団最年長の岡田彰布監督(65)が目標に掲げるリーグ優勝のこと。岡田監督にはアレ以外にも独特の口癖があり、今月9日付の東スポ1面では「岡田語録」が日々アップデートされていることを報じています。
「おーん」はどのように使われているのか
今回、私が注目するのは「岡田語録」の中でも頻出すると言われる「おーん」というワードです。実際の使用例を東スポ記事から抜き出してみましょう。
まずは4月4日の対広島戦でのコメント。昨年は4勝7敗1分けと苦手にしていたマツダスタジアムで5―4で競り勝ち、開幕4連勝を決めたことに…
次は5月3日の対中日戦の東スポWEBでの見出し。見出しというのは限られた文字数の中でつけるもので、そぎ落とせるものはできるだけそぎ落とすのが普通です。裏を返せば「おーん」には見出しでさえも削れない深い意味があるということになります。
「どうせ東スポだからふざけてるんだろ!?」と思われた方、そんなことはありません。他のスポーツ紙も岡田監督の一言一句を見逃さずに報じていますし、もちろん「おーん」も出てきます。スポニチさんが5月25日に報じた一問一答を見てみましょう。(注・太字は筆者)
一回のコメントに3回も「おーん」が出てきてたんですね!!
「おーん」の正体を突き止めたい
さて、ここからが本題です。次の文章を品詞分解してください。
話し言葉なのでちょっと難しいかもしれませんが、高校受験の問題のように文節(=意味の通じる範囲で分割した最小単位)に分けてみましょう(「ネ」を入れて区切れるところが文節と言われます)。
久しぶりにやったので100%の自信はありませんが、多分これでいいはず。ここから取り扱いが難しい「おーん」を除いて品詞分解すると次のようになります。
問題は「おーん」をどうするかです。主語にも述語にもならない自立語で、読点が挟まれていることからも独立した言葉と見ることができそうですね。国語の授業で習った文法では、こうした性質の言葉は感動詞であることが多いとされます(たとえば「やれやれ、今日も残業か」における「やれやれ」は感動詞です)。
しかし、感動詞について調べてみると、通常は文頭にあるものという説明もあるのです。今、品詞分解した文章では「おーん」は文頭にありましたが、先に見たように岡田監督は文中にも「おーん」を使っていることもあるから、謎は深まるばかり…こんなときは本で調べるしかありません。
「品詞のゴミ箱」の中に埋もれてた?
そう、幸いなことに私は『コミュ力は「副詞」で決まる』(光文社新書)という本を読んだばかりでした。著者の石黒圭さんは国立国語研究所教授・共同利用推進センター長なので、言葉のプロフェッショナルに間違いありません。
この本では副詞を、①活用がない、自立語、②名詞以外(とくに動詞や形容詞のような用言)を修飾し、文の必須要素とならない、③共通する意味を設定することが困難なもの(専門家の間では〝品詞のゴミ箱〟と呼ばれるんだとか)としています。それでも写真のように2系統4類11種に区別するからプロはすごいわけですが、この中の検討副詞がソレっぽいのです。
ちなみに検討副詞というワードは石黒先生がこの本で初めて使った名称だそうです。話し言葉によく出てくる副詞「まあ」と「なんか」で説明が始まります。
副詞なのか感動詞なのかを判別しようとしている最中に、「フィラー」というまるで新外国人選手のような専門用語が出てきて混乱しましたが、果たしてどっちなのでしょうか? こうなったらもう一度、岡田監督の「おーん」を見てみましょう。
情報Xにあたる「見ての通りや」を探しているとすれば「えーと」や「あのー」がすんなり入るはずですが、ここでは「まあ、見ての通りや」で捉えたほうがしっくりする気がします。となると、この見出しにおける「おーん」は慣用句「見ての通り」を修飾している副詞と言えそうです。
必要不可欠な助っ人フィラーだった
しかし、「おーん」が感動詞「えーと」のように使われているケースも散見されるので一概に断定することはできないこともあります。
「えーと」「あのー」「まあ」「なんか」に共通するのは、具体的な意味を持たないが話の途中に挟んで〝間を持たせる〟役割、つまりフィラーだと石黒先生は言っています。そして、フィラーが話し言葉で重要なことを説明します。
虎ファンの方はとても納得したのではないでしょうか? 岡田監督のコメントから「おーん」が消えたらきっと頭に入ってきませんよね。「おーん」は岡田監督がしゃべっているという大事なマーカーだからこそスポーツ紙の記者も削らずに残していたのです。
というわけで大変長くなりましたが、「おーん」はフィラー、「ハッキリ言うて」は副詞という仕分けで今回の研究を終わります。(東スポnote編集長・森中航)
岡田監督とオノマトペ
これはホントにおまけだし偶然なのですが、『コミュ力は「副詞」で決まる』の第3章でオノマトペについて説明されるところで、岡田監督が佐藤輝にバッティング指導するシーンが取り上げられています。気になった阪神ファンの方はぜひ本書をお読みください!