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「ウマ娘」では物静かな愛書家!ゼンノロブロイを「東スポ」で振り返る

「ウマ娘」では読書が大好きなメガネっ娘。物静かで地味なのですが、いつか物語の主人公に…という思いを胸に秘めているのがゼンノロブロイです。実際はどんな馬だったのか。当時の空気感を「東スポ」でおさらいしつつ、あの秋を振り返りましょう。(文化部資料室・山崎正義)

クラシック

 ゼンノロブロイのデビューは地味どころか、めちゃくちゃ派手でした。体質が弱く、3歳の2月になってやっとレースに出ることになったのですが、走る前から「注目の新馬」として記事になります。

 父は言わずと知れたトップ種牡馬・サンデーサイレンス。見栄えのする馬体で、セレクトセールで9000万円の値段がついたほどですから期待されるのは当然です。しかも、調教で豪快なフットワークも見せていましたから印もバッチリ。

 そんな中、レースではスタート直後に不利を受け、後方からの追走になります。中山競馬場の多頭数で3~4コーナーは大外ぶん回し。「おいおい、大丈夫なのか?」と思わせたのですが、直線で加速すると一気にゴボウ抜きを見せ、最後は抑える余裕も見せました。

「これはシャレにならん」

「相当な大物だ」

 月曜日の記事ではこんな見出しがつきました。

 間違いなくGⅠ級――

 こうなると狙うはクラシックです。陣営は翌月、思い切って関西のオープン特別・すみれステークスにロブロイを出走させます。強敵が揃うレースとしても知られており、実際、なかなかの好メンバーが集まったのですが、強気にいきました。新馬戦に乗っていた横山典弘ジョッキーも手ごたえを感じていたのでしょう、その日の阪神競馬場の重賞に騎乗馬がいなかったのにもかかわらず、しっかり遠征についていきます。

 しかし、結果は3着――。レース中に外傷を負い、落鉄もしていたそうなので、仕方のない面もあったのですが、やや拍子抜けでした。

「あれ?」

「そこまでじゃないのか?」

 が! 仕切り直しとなった山吹賞という1勝クラスのレースをロブロイは楽勝します。そして、ダービートライアルの青葉賞でも残り100メートルで鞍上の横山ジョッキーがターフビジョンで他馬との差を確認するほどの完勝!

「すげぇ」

「これは相当だぞ」

 が! 一方でダービーに話が及ぶと、こんな声も上がりました。

「青葉賞か…」

「少し厳しいかもなぁ」

 そう、今もそうですが、この2003年の時点でもこのデータは強力すぎました。

 青葉賞組は勝てない――

 青葉賞経由のダービー馬はゼロ――

 本番と同じ東京競馬場の2400メートルなのに、いや、だからこそ続けて走り切るのは難しいとも言えますが、いずれにせよ、青葉賞組はダービーを勝ったことがないのです。しかも、単なるデータ以上の〝魔力〟すら持っていそうなほどのジンクスとして知られ、前年、3歳にして天皇賞・秋や有馬記念を制したシンボリクリスエスでさえ、青葉賞を勝った後のダービーは2着でした。

「なぜかダメなんだよな」

「厳しいんだよなぁ」

 というわけで、ロブロイは期待薄…となってもおかしくなかったんですが、当時の空気は少し違いました。青葉賞の勝ち方がデータなんて吹き飛ばすほどのインパクトだったのに加え、管理する藤沢和雄調教師から、慎重でありながらも前向きなコメントが出ていたのです。

「使い出しのころの余裕残しの馬体が暖かくなって締まってきた」

「まだこの馬の本当の力を見せてもらってない」

 日本一のトップトレーナーでもあった藤沢氏は「ダービーは皐月賞組が強い」とよく話していましたし、前出のシンボリクリスエスも管理していたので、いかに青葉賞経由が厳しいかは理解していたはず。でも、その人が「この短期間で急成長した」とも話し、最終追い切りで、クリスエスと併せ馬をさせるほど熱を入れていたことで、記者やファンの中には、「ロブロイならジンクスを打ち破ってくれるのでは」と思う人が出てきていました。本紙は追い切り速報で、ロブロイを1面に持ってきています。

 印も、皐月賞の1、2着であるネオユニヴァース、サクラプレジデントに次ぐ厚さです。

 単勝はネオユニヴァース2・6倍、サクラプレジデント3・6倍。ゼンノロブロイの6・4倍は〝死のデータ〟を考えれば、相当な期待をかけられていたことが分かります。そして、2番手を進んだロブロイは残り300メートルで先頭に躍り出るのです。

「ついに…」

「青葉賞組からダービー馬か!」

 ファンがいきり立ったそのとき、内からネオユニヴァース!

 無念の2着--

 ファンが死のデータを実感する中、藤沢調教師はレース後、サバサバとこう話しました。

「現時点ではネオの方が上だった」

 確かに冷静にレースを振り返ると力負けです。

「世代トップクラスではあるけど」

「トップではないのか…」

 が!というフレーズを何度も使ってきていますが、まだまだ使います。そう、実は地味に見えて、この馬は本当にいろいろと予想を裏切ってくれます。それは夏をしっかり休ませた後の神戸新聞杯。

 ダービーでかなわなかったネオユニヴァースと、夏の札幌記念で古馬を撃破して覚醒気配の皐月賞2着馬サクラプレジデント。正直、2頭はかなり手ごわそうだったので、ロブロイは3番人気にとどまるのですが…

 2着のサクラプレジデントに3馬身半差をつける圧勝劇。

「強ぇ」

「すげー強くなってるじゃん!」

 そう、馬肥ゆる秋、ライバルたちを成長度で大きく上回ってくるのです。で、普通だったら「菊花賞はこの馬だ!」となるのですが、ロブロイはちょっと違いました。

 はい、見出しにあるように「天皇賞・秋」への出走が現実味を帯びてくるんですね。実はこの選択は、意外ではありません。そもそも藤沢調教師は、以前から菊花賞を最優先としない考えを持っていました。これは菊花賞を軽視しているわけではなく、馬の適性と、3歳馬が秋になれば古馬に通用すること、さらに将来を考えてのもの。競馬界でスタミナよりスピードの重要性がより高まっているのを早々と察知していた師は、2000メートル前後のGⅠ勝利が、種牡馬としての価値を高めると認識していたのです。1996年にバブルガムフェローを天皇賞・秋にチャレンジさせて59年ぶりの3歳馬Vに導き、このロブロイの前年、シンボリクリスエスも神戸新聞杯圧勝後、菊花賞に向かわず、天皇賞・秋へ参戦し、勝利していました。

「この時期の3歳馬に3000メートル戦で押さえ込む競馬をさせるのはどうかな。長丁場を走らせた後に中距離戦を使うとつらい」

 ロブロイ圧勝の後、こうも話した藤沢師。ファンもバブルやクリスエスと同じ道を歩ませるような気がしました。ただ、ロブロイに関しては、その2頭と少々、状況が異なってもいることも、記事では触れています。それは1歳上のクリスエスが現役バリバリで、まさにその天皇賞・秋に出走を予定していたのです。

 前年の年度代表馬

 同厩舎の先輩

 何より…

 めちゃくちゃ強い!

 藤沢師も困ったでしょう。「同厩だからといってオーナーも違うし、振り分けにはこだわっていない」と語っていましたが、先輩にこてんぱんにやられて自信を喪失させてもいけませんし、かといって才能の芽をつぶしてもいけません。

 天皇賞・秋で同厩舎対決か

 それとも菊花賞

 競馬界やファンが注目したこの選択、結果は…

 菊花賞でした。

 おそらく、様々な要素を総合的に判断しての決断だったと思われますが、あの時、私はやはり少々意外な気がしました。もともと天皇賞・秋というローテーションが出ていた背景に、血統や馬体的に長距離向きではないという話があったのです。それは競馬記者もちろん、私以外のファンも知っていましたから、当然、菊花賞が近づくにつれ、「距離は大丈夫なのか?」という声が上がってきました。そんな声の中で、どんな印がついたのかを見てみましょう。

「大丈夫でしょ」という印です。単勝オッズも、ひと叩きした2冠馬・ネオユニヴァースの2・3倍と僅差の2・5倍。ファンも「距離は問題なさそう」という判断をしたのです。理由はいくつも考えられました。

 名伯楽の判断であること。

 強さが距離適性なんて吹き飛ばしちゃいそうなこと。

 このころの菊花賞は既にスタミナを求められるようなペースにならなくなっていたこと。

 メンバーが強くないこと。

 私は、性格も関係していたと思います。「ウマ娘」のロブロイが物静かで穏やかなのと同様、ロブロイは

 折り合いがつく

 センス抜群

 優等生

 なのです。菊花賞では長距離のスローペースに耐え切れず引っ掛かって自滅する馬がよく出るのですが、その心配がなさそうだった。操縦性が距離適性をカバーしそうに映ったわけですね。そして最後に、ロブロイが人気を集めた、ある意味、最大の理由を挙げましょう。それはジョッキーです。

 オリビエ・ペリエ

 最近、競馬を始めた方にはなじみのない騎手かもしれませんが、日本で活躍した外国人ジョッキーの先駆けと言えばこの人でした。フランス出身の名手で、90年代半ばから短期免許で来日するようになり、コンスタントに勝利を挙げ、早々に重賞も勝ち、アッと言う間に実力を認められます。もともとフランスでも上位でしたが、日本で腕を上げ、母国での成績も上がったのが面白いところで、96、97、99、00にはフランスリーディング。そして00年には日本でもGⅠを勝ち、01年にはとんでもないことをやってのけます。

 マイルチャンピオンシップ(ゼンノエルシド)

 ジャパンカップ(ジャングルポケット)

 阪神ジュベナイルフィリーズ(タムロチェリー)

 何と3週連続でGⅠを勝つのです。近年、「ルメール無双」なんて言葉がありますが、あのときはまさに「ペリエ無双」。で、このころのペリエ騎手を重用していたトレーナーこそ藤沢師でした。秋になると短期免許で来日するペリエ騎手に積極的にオファーを出し、勝ちまくる…前年のシンボリクリスエスの天皇賞・秋、有馬記念もペリエ騎手でした。そんな藤沢厩舎の〝ジョーカー〟が、ロブロイに乗るのです。

 トップトレーナー+世界的名手

 そりゃ、距離不安なんて吹き飛びます。

 が!(また出ました)

 競馬というのは必ずしも計算式通りにはいきません。何と、内に閉じ込められたロブロイは、3~4コーナーで不利を受けて立ち上がりそうになってポジションを下げてしまうのです。直線を向いて必死に追い上げたものの〝時すでに遅し〟の4着は、誰の目にも位置取りや馬群のさばき方が悪かったように見え、レース後、ペリエ騎手もそれを認めました。

「外からかぶせられてしまい、どうすることもできなかった。ラストは凄い脚で伸びていただけに、残念でならない」

「今日は馬が負けたんじゃない。自分の騎乗が負けたんだ」

 藤沢調教師もこんなふうに話しました。

「競馬のうまい馬だけに、もう少し前の位置取りで戦ってもよかったかな」

 というわけで、GⅠ制覇を逃したロブロイ。ただ、敗戦理由はハッキリしていたので、評価は下がりません。下がらないままロブロイは暮れの有馬記念に向かいます。待っていたのは…

 そう、2か月前に対戦したかもしれなかった厩舎の大先輩シンボリクリスエス。ロブロイが菊花賞に向かったことで、難なく天皇賞・秋を連覇し、ジャパンカップは3着。当然、大本命です。では、印はどうだったかというと…

 クリスエスと、ジャパンカップを勝ったタップダンスシチーが高い評価を得るのは当然として、ロブロイにも重い印が集まっているのがお分かりいただけると思います。そう、前述のように評価が下がっていなかったのに加え、追い切りでクリスエスに先着するなど、さらに成長していそうな雰囲気があったのです。

 藤沢師もレース前日、こんなふうに話していました。

「去年のクリスエスはこの時期に古馬相手に結果を出していた。ただその強いシンボリと一緒に調教を重ねてきたこの馬の成長度もすごい」

「来年は厩舎を背負うエース。それに見合う競馬をしてもらわないと。シンボリに先着したって驚きはしない」

 このコメントを聞いて、買いたくならなかったらウソになりますよね(笑)。ロブロイはクリスエス2・6倍、タップダンス3・9倍に次ぐ5・9倍の3番人気に支持されます。そして、レースが始まると持ち前のセンスを十二分に発揮し、先行争いを繰り広げる馬の直後で鳴りを潜め、最後の4コーナーで仕掛けた先輩クリスエスの後を追うのです。

 絶好の展開

 先輩に

 追いつけ

 追い越せ

 が!

 先輩が強すぎました。

 しかし、3着に入ったロブロイも、なかなかのもの。当noteで何度もお伝えしてきた通り、3歳で有馬記念で健闘した馬は、翌年、主役に躍り出るのが競馬あるあるです。

 来年はお前だ

 エースはお前だ

 先輩から後輩へ

 バトンは渡されました。

 が!

 次章に続きます。

まさか君は…

 年が明け、3月末の日経賞(GⅡ=中山2500メートル)で始動したロブロイ。調教量も豊富にこなしていたので、◎がズラリと並びました。

 単勝は…

 1・1倍!

 このとんでもない支持率を集める中、直線、満を持して前をとらえにかかったロブロイ。並びかけさくっと差す差すはず…

 が!

 なんと、競り負けてしまいます

 で、続いては天皇賞・春。菊花賞はペリエ騎手のミスもあり、「距離がもたない」というわけではなさそうで、正直、メンバーも手薄でした。ひと叩きでの体調アップも見込めますし、鞍上にはオーストラリアの名手・オリヴァー騎手(この春はペリエ騎手は来日していませんでした)。印もつきます。

 単勝7・7倍の4番人気。そして、相変わらず抜群のセンスで4番手。しっかり脚を伸ばします。

 が!

 何とこのレース、イングランディーレという10番人気の伏兵が、大逃げで2番手以下を幻惑し、あれよあれよの逃げ切りを決めてしまうのです。優等生のロブロイはしっかり2番手に上がってきますが、時すでに遅し。完全な〝展開のアヤ〟で、仕方のない敗戦でした。だからこそ、次の宝塚記念はまさに真価を問う一戦。そろそろやってくれないと困ります。

「エースになるんだろ」

「スカッと決めてくれ」

 が!

 完敗でした。

「ロブロイ…」

「いつも頑張るけど…」

「もしかして…」

 続きを飲み込んだファン。しかし、秋初戦に決定打が炸裂します。

 GⅡの京都大賞典。しばらく勝っていないから斤量も重いわけでもなく、メンバーも弱い。単勝は1・4倍。名手・岡部幸雄ジョッキーが完璧にエスコートし、内からしっかり抜け出してくる…。

 が!

 5番人気の馬に差されてしまいます。

「ロブロイ…」

「もしかして君は」

「善戦マンなのか?」

 はい、誰もが口に出しました。

 センス抜群

 優等生

 でも、決め手がない。

 どんな相手でもしっかり走るんです。「ウマ娘」のロブロイのように、真面目に、ひたむきに走るんです。でも、あと一歩足りない。いるんです、こういう馬。GⅠで2着に入る力があるのにGⅡでも2着になってしまう馬。京都大賞典後のロブロイにはその香りが見事に漂っていました。

「エースじゃない」

「主役じゃない」

「脇役かもしれない」

 1年前、神戸新聞杯をぶっこ抜いたとき、誰もがスター誕生を予感した馬が、まさかこんなビミョーな立ち位置になるとは…驚くべきことに、ほぼ1年、勝利がなかったことで、続く天皇賞・秋は賞金順で除外の可能性もあったほどでした。メンバー的に1番人気濃厚なのに…そんな状況で何とか出走できた天皇賞・秋の印はこんな具合です。

 ぶっちゃけ、出走馬のレベルは高くありませんから、力量的には◎ズラリでもおかしくありません。でも、京都大賞典の敗戦により善戦マンの香りが漂ったことで、何ともビミョーな印になっているのがよく分かると思います。数字もウソをつきません。最終的には1番人気になるのですが、そのオッズがすべてを表していました。

 3・4倍――

「好走はするだろうけど」

「勝ち切るイメージは湧かない」

「単勝は買いづらい」

 が!

 完勝――

「おいおい…」

「決め手、あるじゃん!」

 1番人気が勝ったのに、あの意外な感じはなんだったのでしょう。そして、どうして一変したのでしょう。謎を解く鍵を、藤沢調教師のレース後のコメントから探してみましょう。

「長距離を長く使った後で道中の反応は悪かったが、うまいことやってくれた。まあ彼ならあれくらいは…ね」

〝彼〟とは…

 ペリエ騎手!

 そう、菊花賞でミスをした名手が、しっかりと借りを返したのです。

「やっぱりペリエはすごいなあ」

 もともと、この人が乗ると、今までにない脚を見せる馬はたくさんいましたから不思議ではありません。でも、それをGⅠで、大事なところでやってのけるのは〝さすが〟の一言。かくしてロブロイは、貼られそうになっていた、いや、人によっては既に貼っていた善戦マンのレッテルをひとまずはらいのけました。名手に後押しされ、ついに念願のGⅠホースに…しかし、名手に後押しされたのが明らかだったからこそ、こんな声も上がったことをしっかりお伝えしておきます。

「ペリエだから勝てた」

 さらに冷静な分析。

「メンバーが弱かったから」

「ベストの中距離だったから」

「時計のかかる馬場(稍重)で切れ脚不足を補えたから」

 出るわ出るわ。さらに当のペリエ騎手がこうも言っていることが伝えられました。

「シンボリクリスエスの域には達してない」

 もろもろ踏まえたファンや記者が出した結論はこうです。

「まだ主役とは言い切れない」

「エースとは認められない」

 ここまで読んで「天皇賞・秋を勝ったのに、そんなに評価が低かったの?」とお思いの方もいるでしょう。でも、ジャパンカップの印を見れば一目瞭然です。

 何ともビミョーですよね。ただ、メンバーは相変わらず弱いので、単勝オッズは2・7倍まで上がります。でも、競馬場やウインズではこんな声が聞かれました。

「確かに日本馬の中では総大将なんだろうけど」

「実力は本物なのかね」

「決め手で外国馬に足元をすくわれなければいいけど…」

 が!

「めちゃくちゃ決め手あるじゃん!」

「エースじゃん!」

「主役じゃん!」

 その裏にあったのは「信じられない」という気持ちです。

「あと一歩足りなかった馬が…」

「こんなに変わるか!?」

「ウソみたい」

 素直に「本格化だ!」と言えないぐらいの大変身にファンは熱狂するというより、その急覚醒ぶりについていけない様子でした。で、ついていけないまま師走になり、ついていけないまま有馬記念がやってきました。

 今度は未知なる外国馬もいませんし、一緒に走るのは〝いつものメンバー〟ばかり。宝塚記念で完敗したタップダンスシチーが出てきたものの、凱旋門賞大敗後の調整が難しい遠征帰りで万全ではないという情報が伝わっていましたから、この印も当然。単勝も2・0倍という、1番人気にふさわしい数字になります。ただ、先ほども言ったように、あまりに急だったので、ファンには戸惑いもありました。で、競馬ファンというのは戸惑うと粗を探し出します(苦笑)。

「さすがに余力がないでしょ」

「秋王道GⅠ3連勝なんてオペラオーしかやったことないんだもんな」

「ロブロイがあそこまで強いかと言ったら…」

「そこまでとは思えない」

 が!

「あっさりじゃん…」

「王道GⅠ3連勝」

「オペラオー以来の大記録が…」

「こんなに簡単に!」

 その速度に追いつきつつあった僕らに飛び込んできたのはタイムでした。

 コースレコード!

 前年、先輩のクリスエスが出した時計を1秒も上回る数字を見た誰もが、ついに降参しました。

「参った」

「参りました」

「強い」

「強すぎる」

「ロブロイは本物だ!」

 が!

 この3連勝は伝説として語り継がれているとは言えません。

 なぜか。

 そして、ロブロイは何を教えてくれたのか。

 もう少しお付き合いください。


考察

 秋の古馬三冠を達成したのは競馬史上2頭だけにもかかわらず、ロブロイの偉業はそれほど高く評価されていません。最強馬論争ではほとんど名前が挙がりませんし、名馬投票的なものを行っても上位には入りません。理由として今まで語り尽くされてきたものを列挙してみましょう。

「強い馬がいない年だったから」

「ジャパンカップに強い馬が来なかったから」

「ペリエ騎手の力が大きかったから」

「前後の年でGⅠを1つも勝っていないから」

「レースぶりが優等生すぎて地味だったから」

「競馬界がいまいち盛り上がってなかったから」

「翌年、ディープインパクトが三冠を達成して影が薄くなったから」

 って…

 どんだけあるのでしょうか。おそらくネットを調べればロブロイを認めない方々の意見がもっとたくさん出てきます。それは知りたい人が調べればいいと思いますので、ここでは当noteの役割を果たしたいと思います。
まず、当時の空気感。

 はい、残念ながらあの秋、競馬ファンはロブロイに熱狂していたとは言えませんでした。上記の中にも含まれているかもしれませんが、おそらく要因は一つではありません。様々なファクターが重なって、偉業は偉業なのですが、熱狂にはつながっていなかった。そこは否定できないと思います。

 では、次に当noteのもうひとつの使命を果たしたいと思います。それは、各馬のすごさを解説することで、初心者の方に競馬がどんなものなのかを伝えること。では、ロブロイのすごさはどこだったか。実は答えは先ほどの評価されない理由の中に入っています。

「レースぶりが優等生すぎて地味だったから」

 これ、何がいけないのでしょうか。

 気性難ではありませんから折り合いがつきます。

 センスがあるからソツなく先行できます。

 騎手の言うこともきけます。

 競走馬としては非常に優秀です。なのに、こういう馬が「つまらない」と言われてしまう…エンターテインメントとしての競馬にはそういう側面があることをロブロイは教えてくれるのですが、もう少し、思考を進めてみます。ご存じの通り、生き物が走るので、競馬のレースというのは、アクシデントも起きるし、不可解なことも起こります。

「競馬に絶対はない」

「レースは水物」

 また、もうひとつ忘れてはならないのは、サラブレッドには世代によって「強い」「弱い」があったり、予定していた馬が故障したり、急に名馬が誕生するなど、出走馬が一定ではないことです。レースと同様

「メンバーも水物」

 なのです。絶好調で完璧なレースをしても、自分より強い馬がいたら勝てません。逆に、調子が悪くても、騎手が失敗しても、メンバー次第では勝てることがあります。つまり、1着を取るというのは、特にGⅠを勝つというのは、不確定要素が多すぎる競馬というスポーツにおいてスーパー奇跡的なことなのです。だからこそ、各陣営は狙いを定めます。「このレースを獲りたい」とターゲットを絞ることでその可能性を高める努力をするのですが、問題は、そうやったとしても、馬が真面目に走らなかったり、レースで不利を受けるような位置取りしか取れなかったら、せっかく高めた可能性が台無しになってしまうのです。

 メンバーが弱い

 絶好の展開!

 そのときにきちんと走れるか

 100%を出せるか

 それが…

 チャンスをつかめるか

 1着を取れるか
 
 に関わってくるわけです。そういう面で言えば、ロブロイは非常に優秀でした。あの秋、トップトレーナーによって狙い通りに仕上げられ、トップジョッキーが確保され、予定通りにレースに向かったロブロイ。

 打席に立つと目に前に絶好球

 メンバーが弱い

 時計がかかる馬場

 展開も向いた

 そのとき、ロブロイは100%を出せる馬だった

 騎手の指示通り走れる馬だった

 チャンスをつかめる馬だった

 そう、

 絶好球を確実にホームランにできる馬だったのです。

 なぜなら

 いつも頑張っていたからでしょう。

 もちろん、能力もあります。中山の2500メートル、そして有馬記念のレコードはいまだに破られていません。でも、それ以上に、

 サボらず

 真面目に

 常に一生懸命走る

 イタズラ好きで、時に意地悪な競馬の神様も、そういう馬には、しっかりほほ笑んでもくれます。そして、これはGⅠとは限りません。未勝利戦でも同じです。

 チャンスをつかめるときにつかめるか

 絶好球がきたとき打てるか

 そのために、馬は、そして携わっている人は努力に努力を重ねています。それを知って競馬を見れば、1つの勝利がいかに奇跡的なことか分かるはずです。今までよりも拍手を送れるはずです。

「つまらない」

「地味」

 ひたむきに頑張っている馬にそんなことを言ってはいけない。

 一生懸命走っている馬にはエールを

 そして、感謝を

 そう教えてくれたゼンノロブロイに私も感謝。翌年、宝塚記念3着、海外GⅠ2着、天皇賞・秋2着、ジャパンカップ3着、有馬記念8着と勝ち切れないまでもやはり頑張り続けた彼に、名伯楽が「お疲れ様」と言っている写真が見つかったので置いておきます。おそらく藤沢トレーナーも感謝を伝えていたんでしょうね。

インターナショナルS

 秋の古馬3冠の翌年、宝塚記念3着の後、ロブロイはイギリスに遠征しています。武豊ジョッキーを背に挑んだのは芝2080メートルのGⅠ・インターナショナルステークス。このレース、もし動画が見つかれば、ぜひご覧ください。ロブロイがいかに偉いか分かります。

 7頭立てのレースで後方からレースを進めたロブロイの手ごたえは終始良くありません。おそらく初めての競馬場の景色、初めて走る芝に戸惑っていたんだと思います。普通の馬だったら飽きてしまったり、重い芝にくじけてしまった可能性もあるような状況です。正直、私もあのときは「これは厳しそうだ」と観念しました。しかし、勝負どころに差し掛かり、武ジョッキーが前をいく他馬の方にロブロイを誘導すると、急に手ごたえが良くなるのです。

 負けるか!

 負けてたまるか!

 どんなときも

 どんな場所でも

 ひたむきに

 頑張る

 天才ジョッキーに導かれ、最後の最後、外に持ち出し、前をとらえたロブロイ。

 偉かった。

 よく頑張った。

 だから書きません。

 が!

 とは。

 外から急襲にあっての2着。

 拍手を送りましょう。


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