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働きアリの人生も全然悪くない

「またお前かよ…」と突っ込みたくなるほど、ビジネス書や自己啓発書によく出てくる〝法則〟といえば「働きアリの法則」と「メラビアンの法則」と「ピーターの法則」の3つではないでしょうか。俗説ばかりが独り歩きしているそうですが、それらを簡単にまとめるとこんな感じです。

【働きアリの法則】集団の中で、よく働くアリが20%、フツーに働いているアリが60%、働かないアリが20%に分かれる。よく働くアリだけ集めて集団を作っても、働かないアリだけ集めて集団を作っても、同様に2:6:2に分かれる。

【メラビアンの法則】いわゆる「人は見た目が9割」説。コミュニケーションにおいて、話し手の言語情報(Verbal)が7%、聴覚情報(Vocal)が38%、視覚情報(Visual)が55%の割合で相手に影響を与える。

【ピーターの法則】能力主義の階級社会において、有能な人は限界に達するまで昇進し、その人が能力を発揮できない階層に達したところで無能になる。その結果、最終的に組織全体が無能な集団になる。

言われてみればなんとなくそんな感じだよなぁと思います。しかし、『働かないアリ 過労死するアリ~ヒト社会が幸せになるヒント~』(村上貴弘著、扶桑社新書)には、1万5000種を超えるすべてのアリに2:6:2が当てはまるわけではないことが記されています。

こちらは、北海道大学の長谷川英祐博士が「シワクシケアリ」を対象に行動観察を行い明らかにした事実なのだが、日本人はこのエピソードが本当に大好きだ。マネジメント論として語られたり、あるいは働かない言い訳としても引き合いに出される。

村上貴弘『働かないアリ 過労死するアリ~ヒト社会が幸せになるヒント~』(扶桑社新書、2024年、210p)

このシワクシケアリは個体サイズもコロニーの大きさも社会構造も平均的なフツーのアリなんだそうですが、アリの働き方にもかなりのグラデーションが存在するといいます。

蛹から出たばかりの個体をのぞく98~99%が24時間、仮眠をとる程度の休息しかとらずに働き続けるハキリアリ。逆に「まったく働かないアリ」の割合が30%にものぼるムカシキノコアリや、コロニーの中の4%しか働かないカドフシアリも存在するのだとか。ただし働き方によって寿命に差が出て、モーレツサラリーマンのハキリアリが3か月で死んでしまう一方、1日の大半を寝ているカドフシアリは5~6年も生きるそうです。やっぱり睡眠は大切なんですね。

考え方によっては、アリは種類によって働き方が決まってしまいますが、ヒトは自身の働き方を自身で選べる点で恵まれているのかもしれません。最近は経済的自由を手にして、早期退職し自由に生きるFIRE(=Financial Independence Retire Early)というライフスタイルが注目されています。でも、村上先生はこんなことも言っています。

働こうと働かまいと、ただ、生きている――それだけでいいのだ。
ただ、自分がカドフシアリのように何もしないで一生をすごせと言われたら三日くらいで根を上げると思う。人間の「働きたい」「人のお役に立ちたい」という業は思っているよりも深い。

村上貴弘『働かないアリ 過労死するアリ~ヒト社会が幸せになるヒント~』(扶桑社新書、2024年、214p)

そうなんですよ、何もしないのは退屈で死んでしまうから、働きアリの人生は全然悪くない。私は過労死しないようにいっぱい寝てますけどね。ちなみにサムネはアリと戦うことで有名なゲーム「地球防衛軍6」でした。(東スポnote編集長・森中航)

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