「次こそは」試練を味わったフォルティウス 再出発の軌跡に迫る【カーリング】
「涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く 花のように」。 シンガー・ソングライターとして活躍する岡本真夜さんの名曲「TOMORROW」の歌詞が、私の頭をふとよぎった。
多くの試練が訪れた2021~22年シーズン
5月末に行われた2021~22年シーズン最終戦となったカーリングの日本選手権(北海道・アドヴィックス常呂カーリングホール)の女子は、北京五輪銀メダルのロコ・ソラーレ(LS)が2年ぶり3度目の優勝。最高の形で締めくくりを飾った一方で、最大のライバル・フォルティウスにとっては、多くの試練が訪れた1年だった。
フォルティウスの主力メンバー4人は、昨年9月の日本代表決定戦(北海道・稚内市みどりスポーツパーク)に北海道銀行(当時)の一員として出場。3戦先取方式の大一番でLS相手に2連勝し、すんなりと王手をかけた。ところが、勝負の世界は甘くはなかった。サード・小野寺佳歩が「2連勝をした段階で3試合目はLSも違うことをやってくるんじゃないかなと感じていた」と振り返るように、崖っぷちに立たされたLSは、喜怒哀楽を全面に出すスタイルで奇跡の3連勝。北京五輪出場に望みをつなぎ、祭典では前回の平昌五輪に続き、2大会連続で表彰台に立った。
あと一歩で届かなかった五輪の舞台。スキップ・吉村紗也香は「悔しいという気持ちが日に日に増していきました。すぐに切り替えることはできなくて、終わって一週間ぐらいは廃人みたいな感じだった」と回想。他の選手たちもすぐには気持ちを立て直すことができなかった。さらに、トップスポンサーだった北海道銀行との契約が昨年11月限りで打ち切りとなった。度重なる困難に直面。まさに泣きっ面に蜂状態。普通であれば心が折れてもおかしくない。それでも、吉村は負けなかった。
「すごく考えた時間もあったし、チームとしてもすごく話し合った。やっぱり代表決定戦の悔しさがあるからこそ、次も目指したいと思ったし、みんなで五輪に出たい」
新メンバーを加え、存続の危機から立ち上がる
ここで立ち止まるわけにはいかない。主力メンバー4人に、現役学生の小林未奈を加えた5選手で昨年12月にクラブチームのフォルティウスを立ち上げた。
当初はスポンサーなしの見切り発車だった。吉村いわく「活動をしっかりできるのか不安に思いながら過ごしていた時期もあった」というが、ネット上でスポンサー募集の記事を偶然見つけた中古携帯電話等のデバイス売買を行う「ニューズドテック」の粟津浜一社長が「即日電話した。それですぐ手を挙げた。とにかくやりたいと思った」と一念発起。トップスポンサーに名乗りを挙げ、その後は電子機器や農業事業を扱う「加茂川啓明電機」ともスポンサー契約も締結するなど、複数企業が手を差し伸べた。
「今後もトップを目指していけるんだという安心感があった」と吉村。頼もしい援軍を味方につけたフォルティウスは、4年後のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪出場を目指して再スタートを切った。北京五輪は銀メダルに輝いたLSの活躍ぶりをテレビでチェック。「悔しい思いもあった反面、世界にも日本はこんなに強いんだぞと示してくれたのは本当にうれしかった。刺激をもらっているチームなので、次また戦うのが楽しみ」とパワーをもらい、連覇の懸かる日本選手権に向け「チームの投げ方を統一させるという練習をたくさんしてきたし、ウエイトをコントロールする練習とかも1か月間結構投げ込んできました」と徹底的に基礎を固めた。
再スタート後の初戦となった日本選手権。大会前の取材で本紙に「チームが新しくなってから初めての大会なので、いいスタートを切りたい」と決意を述べていた吉村。1次リーグ6戦目でLSと対戦すると、第1エンド(E)に2点をスチールし、第4、5Eにも1点ずつスチール。小刻みに得点を重ね、10―4で勝利を収めた。しかし、1次リーグでまさかの4敗。4位通過で決勝トーナメント進出を決めたものの、中部電力に2―12で大敗し、連覇の夢が潰えた。吉村は「第3Eに私のドローが短くて、そこから相手に流れを渡してしまった。正直、悔しい気持ちでいっぱい」と肩を落とした。
チームの解散、再結成、いろんなことが嵐のように駆け巡ったシーズンだった。幸先のいい船出とはならなかった。だが、吉村は敗戦後もしっかり前を向いていた。
「最後まで戦えてよかった。長いシーズンで気持ちの面でつらかった部分もあった中で、またみんなで氷に立ててプレーすることができた。北京五輪の代表決定戦ではあと一歩で悔しい思いで終わったので、次こそはという強い思いがある」
レスリング女子で五輪を含め世界大会16連覇を果たした吉田沙保里さんも、悔しさを力に変えてきた。「私は勝ち続けることで成長したんじゃなく、負けて強くなってきた」。敗戦は成長のための薬。次は私たちのフォルティウスの番――。今はまだつぼみの状態かもしれない。ただ、涙を栄養に誰も見たことのない花を開くための準備だと思うと、ワクワクが止まらないのは気のせいだろうか。(運動2部・中西崇太)