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キタちゃんVSダイヤちゃんの真実 アニメ「ウマ娘」第7話を「東スポ」でおさらい!

 最新話を楽しむために、アニメ「ウマ娘」の前回放送分を「東スポ」の紙面や写真を使って振り返るのが当noteですが、第7話は盛りだくさん過ぎました。まずは小ネタからいってみましょう。(文化部資料室・山崎正義)

ヴィルシーナとヴィブロス

 小ネタというほど小さいかは微妙ですが、第7話では、のっけから新キャラが2人登場しました。シュヴァルグランの姉・ヴィルシーナと、妹のヴィブロスです。史実でも「きょうだい」で、シュヴァルグランのみ牡馬でヴィルシーナとヴィルロスは牝馬。ヴィルシーナはシュヴァルの3歳年上で、桜花賞、オークス、秋華賞すべて2着という悔しすぎるクラシックシーズンを過ごしました。目の上のタンコブだったのは、このnoteのゴールドシップ回でも登場した「貴婦人」ジェンティルドンナという三冠牝馬です。

 ヴィルシーナはその悔しさをバネに、古馬になって2013年と2014年のヴィクトリアイルを勝ちます。

 連覇となった年の秋にデビューしたのが3歳年下のシュヴァルグランです。で、アニメにあるようにシュヴァルは素質もあり、重賞も勝つのですが、なかなかGⅠに手が届きません。キタサンブラックが勝った2016年の天皇賞・春は3着。そして第7話の冒頭だった同年のジャパンカップでも3着――。これは悔しかったでしょう。アニメにもあったように、その前の月の秋華賞で1歳年下のヴィブロスが秋華賞でGⅠウイナーになっていたのですから。

 新キャラ発表と同時にアップされた公式プロフィールでは、「旅行で行ったドバイに魅了され~」とある通り、古馬になると世界を股にかけて活躍することになるのですが、すごいのはこの3頭を産んだ母・ハルーワスウィートでしょう。先天的に尾骨がなく、尻尾がなかったものの、現役時代に5勝を挙げ、名繁殖牝馬となりました。この馬のファンだった元大リーガーの佐々木主浩さんが上記3頭をはじめ、全産駒を購入、オーナーとなっています。

 姉と妹に先を越されたシュヴァルグランは、第7話の最後に描かれた有馬記念では6着に終わります。翌年、悲願に向けてどんなレースを見せてくれるのか、第8話以降を待ちましょう。

サトノクラウン

「まさか初のG1を海外で取っちゃうなんて」

 アニメでそうサトノダイヤモンドに驚かれたのがサトノクラウン。快挙を達成したのは、ダイヤちゃんが「サトノ家の悲願」を果たした菊花賞の1か月半後のことで、アニメで「あなたの菊花賞の奮起が私に火をつけたのは間違いない」とクラちゃんが話したのもその通りでしょうし、あれだけ勝てなかったGⅠなのに1つ勝つとポンポンいくというのが勝負事の面白い部分でもありますが、正直、私も勝つとは思っていませんでした。実はあの「香港ヴァーズ」、めちゃくちゃ強い相手がいたんです。

 ◎を集めているハイランドリールというアイルランドの馬は、前年の覇者というだけでなく、この年のキングジョージ(欧州の宝塚記念)を勝ち、凱旋門賞でも2着、さらに米ブリーダーズカップタープも勝っていた当時の世界トップホース。既に海外馬券が日本で売られるようになっていましたが、〝日本馬びいき〟になりがちなその中で単勝が1・3倍だったのですから、いかに圧倒的な存在だったか…。で、その馬が悠々と逃げ、4コーナーを回って後続を突き放していく中、猛然と追い込んできたのがサトノクラウンでした。

 俺だって…

 俺だって…

 一完歩ごとに前に迫るクラウンから、そんな声が聞こえたのは私だけではないでしょう。残り50メートルを過ぎて追いつき、追い越したところがゴールでした。

 サトノクラウンの単勝1140円。ちなみにハイランドリールに乗っていたのがムーア騎手。サトノクラウンはモレイラ騎手でした。

有馬記念とキタサンブラックの立ち位置

 第7話のハイライトはキタサンブラックとサトノダイヤモンドが初めて相まみえた有馬記念でした。メインキャスト2人による初対戦。2人は親友同士で今まではなんでも半分こしてきましたが、有馬の「1等賞は半分こはできないね」ですから、舞台としては整いすぎていました。中山の直線、粘りこみを図るキタちゃんにダイヤちゃんが迫った名勝負。

 軍配はクビ差でサトノダイヤモンド! アニメになるべくしてなった名勝負だったわけですが、当noteは当時の空気感を持ってくるのが使命ですから、改めて、あの秋の状況をおさらいしておきます。

 まず、第7話の冒頭で描かれた通り、2016年のジャパンカップはキタサンブラックが逃げ切り、GⅠ3勝目を挙げました。アニメ的には大きなタイトルをあっさり勝ち取ったようにも見えますし、「あの年の主役はやっぱりキタサンブラックだったんだな」と感じた人も多いかもしれませんが、史実はちょっと違います。まずはジャパンカップの馬柱をご覧ください。

 1枠1番・キタサンブラックの印の薄さたるや! ひねくれ記者が多い東スポだからやや極端なのかもしれませんが、他紙でも◎グリグリではありませんでした。1番人気だったものの単勝オッズは3・8倍。この数字だけで圧倒的ではないのも分かりますし、2番人気のリアルスティールが4・2倍で、3番人気のゴールドアクターが4・5倍ですから、完全に混戦です。では、天皇賞・春を勝ち、宝塚記念でも〝強い3着〟で、なおかつ秋初戦の京都大賞典をしっかり勝ってきているのにこのような人気だった理由はなんだったのか。

「天皇賞・春の逃げ切りは武豊マジックによるところが大きい」

「実際、宝塚記念も勝ちきれなかった」

「秋初戦もクビ差の辛勝だった」

 これ、ぶっちゃけますとファンが「現役最強はキタサンブラック」だと認めていなかったことになります。現役最強なら天皇賞・春はもっと後ろは離せたはずですし、宝塚記念だって勝っているはず…。宝塚で先着され、レース翌週に引退を発表したドゥラメンテのような大物感がキタサンブラックからは伝わってこなかったこともあったと思います。ファンの心の内はこうでした。

「堅実だけど圧倒的な強さを感じない」

 で、その堅実なキタちゃんが唯一大敗したのが、ジャパンカップと同じ東京競馬場2400メートルのダービーだったというのも、支持が集まらなかった理由になっていました。そんな自身の状況に加え、前年の有馬でキタちゃんに先着して優勝しているゴールドアクターがしっかりと秋初戦を完勝して出てきていたこと、そして天皇賞・秋で2着に入ったリアルスティールが、春にドバイでGⅠを勝利したときに乗っていたムーア騎手を配してきたことで、〝3強〟っぽい図式になったんですが…結果はアニメ通り。

 スタートからハナに立ったキタちゃんは、府中の長い長い直線をそのまま先頭で走り切りました。2着につけた着差は2馬身半。すぐ後ろにつけていたゴールドアクターとリアルスティールがバテて、後方にいたサウンズオブアースとシュヴァルグランが2、3着に突っ込んできたことを考えても、完勝です。完勝なんですが、ここで再び天才の名前がのしかかってきます。前半をスローで入りつつも、スタミナをしっかり活かすペースを作り出し、なおかつ雨で悪くなった内を避けた絶妙なコース取りをした武豊ジョッキーの手腕が光ったことがキタサンブラックの強さを隠してしまったと言えばいいでしょうか、着差は圧倒的なのに、やはり「圧倒的な強さ」をファンに植え付けなかったんですね。で、これが有馬記念の人気に関係してきます。普通だったら天皇賞・春とジャパンカップを勝った古馬のエースが断然になるはずなのに、そしてアニメであったようにファン投票はキタサンブラックが1位だったのに、1番人気になったのはキタちゃんではなくダイヤちゃん。そう、サトノダイヤモンドだったのです。本紙の印が今度は状況を的確に表しています。

 単勝オッズはキタサンブラック2・7倍に対し、サトノダイヤモンド2・6倍。もちろん、血統的な魅力や伸びしろ、菊花賞馬が強いというデータなど、ダイヤちゃんに票が集まる要素はたくさんありました。でも、クラシック三冠馬なら分かりますが、菊花賞を勝っただけの馬にわずかとはいえ人気で劣ったのは、やはりまだ、誰もがキタサンブラックを現役最強馬と認め切れていなかった証ではないでしょうか。

 本当は強いのに、です。

 この有馬の2着もめちゃくちゃ強かったんです。2番手でレースを進めたキタサンブラックと武豊ジョッキーにとっては、すぐ後ろにサトノダイヤモンドがいることは分かっていますから、体力を温存するためにも仕掛けをなるべく遅らせたい。なのに、3コーナーで、外から人気薄の馬が上がってきて、馬体を近づけてきました。それがサトノダイヤモンドと同じ厩舎で同じ馬主の「サトノノブレス」だったことで、当時は「チームプレー」という声も上がったほど。

 見出しに「サトノ軍団の〝作戦〟の前に…」とあるように、そしてレース後の武豊ジョッキーが「あのワンプレーがね」と口にした通り、加えて「3角でフランス語の会話が聞こえたよ」(ノブレスの鞍上はフランス人のシュミノー騎手)とも話したことがしっかり記事になっています。ほんの些細な動きでしたが、キタサンブラックにとっては本当に痛すぎる出来事。それによりワンテンポもツーテンポも予定より早く動かざるを得なくなったぶんだけ最後の最後に差されてしまった。「あれがなければ…」というわけなのですが、別の見方をすると、「弱い馬だったら大敗してもおかしくない仕掛けになった」とも言えました。つまり、超逆風

 その中で粘りに粘り

 なんなら差し返そうとしていた

 はい、めちゃくちゃ強いです。

 もちろん、サトノダイヤモンドも強かった。最終的にチームプレーに批判が集まらず、大問題にならなかったのは、そんなことがあってもなくても、サトノダイヤモンドの強さが間違いないものだったからです。弱い馬がズルして勝ったわけではなく、ズルとは言えないほどダイヤちゃんが強かったから、あのレースはいまだに名勝負として語り継がれているのですが、もう一度、強調させてください。あの有馬のキタサンブラックは本当に強かった

 その強さを

 現役最強馬であることを

 証明してほしい!

 翌年のキタちゃんと第8話が楽しみです。


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