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今見ても鳥肌!東京五輪〝奇跡のダブルプレー〟について話そう

東京五輪からもう1年…

 ちょうど1年前の夏だったはず。だが、今も昨日の出来事のように覚えている。きっと一生忘れることはないであろう〝奇跡〟の瞬間を目の当たりにした。

 新型コロナウイルス禍の中で開催された2021年東京五輪。人類が経験したことにない病魔と戦う私たちに、日本のアスリートたちは希望と感動を届けてくれた。金メダルは史上最多の27個、銀メダル14個、銅メダル17個、計58個のメダル数は過去最多記録を大幅に更新した。

金メダルを掲げる阿部一二三(左)と阿部詩(21年7月25日、日本武道館)

 柔道男子66キロ級の阿部一二三(パーク24)、同女子52キロ級の阿部詩(日体大)、競泳女子個人メドレーの大橋悠依(イトマン東進)、スケートボード女子ストリートの西矢椛(ムラサキスポーツ)、空手男子形の喜友名諒(劉衛流龍鳳会)等、数多くの金メダル原稿を執筆させてもらった。思い出を挙げればきりがない中、最も印象に残っているのは3大会ぶりに正式競技として採用されたソフトボールだった。

ソフトボール決勝6回裏の神ゲッツー

 2021年7月27日。横浜スタジアムで行われた日本―米国の決勝戦。試合は2―0で日本が勝利。08年北京五輪以来の金メダルを引き寄せたキーは、誰に聞いても6回のあのプレーだと思う。今でも民放テレビ局五輪公式動画サイト「gorin.jp」(サイト内動画の6分~)で見返すと、あの時と同じ鳥肌が立ってしまう。私にとってはある意味麻薬的なものになっているのかもしれない…。

 6回に日本が招いた一死一、二塁のピンチ。米国の3番アマンダ・チデスターは、2番手のチーム最年少左腕・後藤希友投手(トヨタ自動車)が投じた5球目をジャストミート。痛烈なライナーが三塁手の山本優の左腕に直撃。誰もがレフト前にボールが転がると思いきや、遊撃手の渥美万奈がノーバウンドで捕球。そのまま二塁に転送し、飛び出していた二塁走者もアウトに。神ゲッツーで難を逃れた。もし安打になっていたら…。考えただけで恐ろしい。

楽天監督時代の野村克也氏(09年10月13日、クリネックススタジアム)

 まさに〝奇跡〟と言えるダブルプレー。試合後、プロ野球のヤクルトなどで監督を務めた名将・故野村克也氏が残した「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」との言葉が私の頭をよぎった。意味を問われたなら「運よく勝つことはあっても、負けるときにはちゃんと理由がある」と答える人が半数以上なのでないだろうか?

 字義通りに考えれば確かにその通りだろう。しかし、私は野村氏がこの言葉を鵜吞みにしているとは思わない。私は続きがあると考えている。勝負の世界では、ほんの一瞬の判断で天国行きか地獄行きかが決まる。どんな行動も地道な鍛錬が結果につながるからだ。

 五輪後に本紙の単独インタビューに応じてくれた渥美の話を聞いて、積み重ねが〝奇跡〟を呼び込んだと確信した。

「後藤が(マウンドに)上がった時に落ち着きがないと感じた。(一死一、二塁で)チデスターが出てきた時に、いつもの後藤じゃないので、引っ張られるだろうなっていう予想をしていた。ゲッツーを取るポジションではなく、定位置にいたことがあのプレーにつながったと思います」(渥美)

渥美の守備について報じた21年9月3日付発行紙面

 1次リーグの4試合で21奪三振を奪って3勝をマークするなど、強心臓ぶりを発揮してきた後藤でも「今まで見ていた世界と全然違う感じがした」と感じた決勝のマウンド。「頭が真っ白」になっている後輩の変化に気づいていた。さらに、チデスターの状態も冷静に分析。渥美はゲッツーシフトをとらず、守備位置をあえて三塁側に寄せていたのだ。渥美の読み通り、打球は三遊間へ。山本が弾いたボールは、渥美のグラブに吸い込まれた。

五輪終了後、ドアラと一緒に始球式に臨んだ後藤希友(21年9月21日、バンテリンドームナゴヤ)

練習で培われた観察力が運を引き寄せていた

「一瞬『なんだっけ?』みたいな感じになったけど、振り向いた時に二塁走者が自分の視界に入ったので『あ、二塁に投げなきゃ』って体が反応したというか、頭ではそんなに考えていないプレーだと思う」(渥美)

「運がよかった」のひと言で片づける出来事の中には、無意識のうちに運を引き寄せる行動をとっているケースが多々ある。例えば、渥美のプレーだったら、チームメイトと相手打者の心情や調子を的確に把握。事前に守備位置をずらしていたおかげで、山本の左腕に当たった打球に反応することができた。常日頃から培ってきた観察力がここ一番で役立った。運を味方につけるような努力の繰り返しが、歴史的シーンを生み出したのだ。

 もちろん〝奇跡〟は簡単に起きないからこそ〝奇跡〟と絶賛される。でも、それは努力という小さなパズルのピースを一つずつ埋めてきた人のもとにしか舞い降りてこないと改めて実感した。神様を味方につけたソフトジャパン。ひと夏の物語はこれからも永遠に語り継がれていく。(運動2部・中西崇太)

集合写真を撮る日本代表の笑顔がまぶしい(21年7月27日、横浜スタジアム)

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