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バー「縄」で働かせていただきました

 じわじわと、確実に、売れ始めているような気がしないでもないドキュメンタリー芸人・コラアゲンはいごうまん。東スポにおける〝実録連載〟を復刻しています。

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 ずいぶん前のことですが、すごいバーを〝体験〟したことがあります。新宿2丁目にあるその店はゲイの中でもSM愛好家が集いプレーを楽しむ…屋号は「縄」。カウンターのみの狭い店内を照らす明かりはロウソクの火。1人で切り盛りする店主を常連さんは「お母さん」と呼びます。言うまでもなくこのお母さんの顔はお父さんです(黒鉄ヒロシ似)。

 当時所属していたワハハ本舗の演出家・喰始(たべ・はじめ)に「ゲイバー体験」を命じられていた僕は「縄」の噂を聞き、お母さんに働きながらの体験取材を懇願しました。軽く一蹴されるも粘りに粘るとついに根負けしたお母さんが「分かったから早くこの制服に着替えなさい」。そう言って手渡してきたのが六尺ふんどしでした

 こうして始まった1週間の縄体験勤務は驚きの連続。例えば、奥で洗い物してたわずか1分間の出来事ですよ。それまで普通に飲んでた5人のお客さんが、戻ってみたら全員全裸。どんな分かりやすい間違い探しや。

 で、手前の2人はお互いの顔を愛しそうに触れて「かわいいんだワン♡」。その奥ではお母さんがカウンターを挟んでお客さんの乳首をスクラッチを削るように愛撫。さらにその横のお客さんが「お母さん、明日骨董市行かない?」。シュールすぎる…。

 一方で、会話は超インテリでした。フランス文学作家のジャン・ジュネの話やら、会話に英語が交じったり…一つひとつ意味を聞いてたらお客さんに「ウザい! バカはどっちの芸(ゲイ)にも向かない」とキレられ無視され、散々な勤務初日となったわけです。

 2日目は前日出た言葉の意味をすべて調べて会話の間隙をぬって言葉を差し込む。それを3日続けたらやっと受け入れてもらえました。皆さん、一度気持ちが入るとめっちゃ応援してくれる。ネタを提供してくれたり、ライブに来てくれたり、勤務5日目がちょうど僕の誕生日やったんですが、サプライズまでしてくれたんです。45年以上生きてきてあんな祝われかた、初めて。ハッピーバースデートゥーユー歌いながら亀甲縛りをされました。違う意味でサプライズやったけどジーンときちゃいました。

 コラアゲンはいごうまん 1969年生まれ。自ら体験した出会いやエピソードで観客に爆笑と感動を与える実録ノンフィクション芸人。お笑いライブに加えて企業、医療、学校等で講演活動中。著書に「実話芸人」(幻冬舎文庫)。


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