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「成功する人は○○する」を鵜呑みにしない

ビジネス書の中には結構〝逆張り〟のタイトルの本があります。たとえばちょっと前に話題になった『嫌われる勇気』なんかが好例です。「え、好かれるためにじゃなくて?嫌われるのに勇気が必要なん?」と思ったときには、きっとパラパラとページをめくっていることでしょう。

〝問いかけ型〟のタイトルも定番です。『君たちはどう生きるか』は1937年に出版された教養本でしたが、17年にマンガ化されると大ヒット。今年は宮崎駿監督の手によってアニメ映画にもなりました。

本屋さんには膨大な数の本が並んでいますから、お客さんに見つけてもらうことはとても重要です。それを重々理解しているからこそ著者や編集者は装丁のみならずアイキャッチが強いタイトルをあれこれ苦心して考えているのです。

本のタイトルとは少し異なりますが、新聞記者も記事に見出しをつけるという仕事があるので、日頃から目を引くタイトルや中吊り広告に関心を払うようにしています。そんな私が目を白黒させた本が『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社)です。なぜなら、このタイトルは〝逆張り〟と〝問いかけ〟のハイブリッドだからです。

一般的にはコンビニATMは手数料が高く、節約を重視する人たちを中心に敬遠すべきものとされています。彼らの主張はこうです。週に2回220円の手数料を取られたら月880円、年間で1万560円も損をしてもったいないっ!! 私もまぁまぁケチなので気持ちは理解できます。

しかし、「コンビニでお金をおろした人がお金持ちになれる」という謎の前提を含意させた上で、『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』と疑問形で尋ねられると、「どどど、どういうこっちゃねん!?」と頭が混乱してきます。根拠を知りたい気持ちもがぜん強くなっているので、完全にタイトルにしてやられています(笑い)。一体どういうことなのか、本書を読んでみましょう。

著者は経営コンサルタントの平野薫氏。身近な疑問にフォーカスして数字で考えるクセをつけようというのが本書の狙いだそうです。平野氏はコンビニATMに拒否反応を示し、往復1時間かけて銀行まで出かける例を出してこう言います。

 私から見るととても信じられない行動です。なぜなら1時間かけて節約できるお金はたった110円です(セブン銀行のATMでは口座のある銀行・利用時間に応じて110~330円の手数料が発生)。1時間という人生の貴重な時間を投資して得られる経済的な価値は110円しかありません。これは時給110円の仕事をするのと同じことを意味します。

平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社、2023年、204p)

なるほど、そういうことか~と私を膝を打ちました。確かに年収500万の人が1日8時間、年間休日を125日として240日間働いたときの時給は2604円です。だから1時間使って110円を節約するよりも、コンビニATMを使ってその1時間を労働に当てたほうが2604-110=2494円も得するじゃないかという理屈です。

「でも、そんな都合よく時給2604円の仕事があるんだろうか?」
「でも、そもそも働いていない時間に110円使わずに済んだと考えたらやっぱり損はしてないんじゃないか?」
「っていうか、生きている時間をすべて時給換算するほうが貧乏性というか奴隷なんじゃね?」

次々に反論が浮かびますね。私も全然納得していませんが、読み進めると筆者のいちばん言いたいことはタイムパフォーマンなんだとふんわりとわかります。

節約することが趣味であり、そのこと自体に喜びを感じるという方であれば全く問題ありません。しかし、人生を豊かにする手段として節約をするのであれば、投資する時間と削減できるお金のバランスをしっかり考えるべきだと思います。

平野薫『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』(ダイヤモンド社、2023年、205p)

経営コンサルタントの筆者は他にも、富裕層はタクシーをよく利用する、パソコンやスマホなどデジタル機器の買い替え頻度が高い、外食で行列に並ばないといったお金持ちの〝習性〟を列挙して自説を補強していますが、「お金持ちは(よく)コンビニでお金をおろす」という相関関係を認められたとしても、「コンビニでお金をおろすとお金持ちになる」という因果関係は成立していないように思えます。お金持ちになった結果、時間を大切にする習慣が身につき、結果として迷わずコンビニでお金をおろすようになったかもしれないのです。

「成功する人は○○をしている」という言説は巷に飛び交っていますが、まずは相関関係と因果関係を意識することが成功への第一歩なのかもしれません。(東スポnote編集長・森中航)


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