興味のないところにも〝突き刺してくる〟書店員さんの技のすごさよ
「鎌倉殿の13人」の人気ぶりを書店で感じる
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の影響で書店でも〝鎌倉本〟が目立っています。
大河ドラマが発表されると、出版社も力を入れてドラマガイド本のほか、主人公やその時代について解説した本を出すのは恒例なのですが、放送開始から半年も過ぎたにもかかわらず関連した書籍が出続けているのは人気の裏返しと言ってもいいでしょう。私がよく読む新書カテゴリーでは既に10冊以上、中でも光文社新書が3冊も〝鎌倉本〟を出しています。
1月『鎌倉幕府と室町幕府』、山田徹/谷口雄太/木下竜馬/川口成人
5月『幻想の都 鎌倉 都市としての歴史をたどる』、高橋慎一朗
7月『鎌倉幕府抗争史』、細川重男
「客の視線の動きまで想定する」書店員さんの技
私自身は大河ドラマを見ていないので、「ふ~ん、人気なんだなぁ」とのんびり眺めている程度だったのですが、書店員さんの技によって思わず手に取ってしまった本がこちらです。
『「合戦」の日本史』というタイトルで、直接的には「鎌倉殿の13人」と関係がありません。帯も「織田の桶狭間」「毛利の有田中井手」「島津の釣り野伏せ」と戦国時代のワードが並び、兜をかぶった謎のおじさん(※著者の本郷教授でした)が妙なインパクトを放っています。鎌倉時代や北条氏に限らない、より広範囲のカテゴリーとして「合戦」を捉える本なのですが、この本を〝鎌倉本〟の近くに並べていることこそが書店員さんの技なのです。
私は大学時代に書店でアルバイトをしていて、書店員さんの世界を体験したことがあるのですが、書店員さんは入荷した本をただ「平積み」しているわけではありません。私が敬愛する店長は「お客様が何を考えて、どう視線を動かすのかまで想像しながら棚を作るんだよ」と笑顔で言っていました。
「戦い」は割とキャッチが強いワード
おそらく書店員さんは「鎌倉殿には興味がないけど、『戦い』というテーマにはうっすら興味がある人」を狙っているのです。
「『戦い』と言うテーマにうっすら興味がある人なんてどこにいるの?」と思われるかもしれませんが、新聞でも雑誌でも「○○戦争」みたいな見出しはキャッチが強く、たとえば「コンビニのチキン戦争」とか「高級食パン戦争」なんて具合に使われますし、私もたまに使います。使いすぎてコンビニの広報担当者から苦笑いされたこともあります(苦笑)。
合戦の歴史を記した史料は兵力の数を盛りがち
そんなわけで思わず手に取ってしまった『「合戦」の日本史』なのですが、非常に示唆に富むものでした。全部話すと長くなるので、特に刺さった部分を箇条書きにして今回は終わります。それではまた。(東スポnote編集長・森中航)
合戦の歴史を記述した史料では兵力の数を盛りがち→実際には10分の1くらいで、『吾妻鏡』に書かれた承久の乱の鎌倉幕府軍19万人は明らかに誇張だろう
日本の武士たちが戦で最も用いたのは弓矢→英雄豪傑が無双するゲームのように刃物で人間が人間の命を奪うことはたやすくない
今も昔も戦争にはお金がかかる→戦国時代でも1万人の軍勢を1か月動かすだけで1億円以上かかっただろう